[O-0479] ベルト電極式電気刺激装置の生体内デバイス植込み患者への安全性ならびに安全対策の検証
Keywords:生体内デバイス植込み患者, 電気刺激療法, 安全対策
【はじめに,目的】心疾患患者においてペースメーカや植え込み型除細動器,心臓再同期療法などの普及は著しく,これらのデバイスを用いた治療により,生命予後改善が得られている。しかし,これらデバイス患者では外部の電磁界の雑音(ノイズ)の種類や強度によってはデバイスが反応し誤作動を起こすことがある。そのために携帯電話やIH器具など日常一般の電気器具には,科学的分析に基づく安全対策がなされている。また,医療現場でも各施設により,電気メスなどの電気医療器具の使用安全対策が講じられている。一方で,物理療法の多くは電気機器であるため,デバイスへの影響が懸念され,使用を控えるように勧告されている。しかし,工学的,科学的側面を十分に検証し,安全対策がなされれば,デバイス患者にも適切な物理療法を提供しえると考えられる。そこで,今回デバイス患者での電気刺激療法の安全性ならびに安全対策について検証することにした。
【方法】当院入院患者でデバイスが植え込まれている7名(男性5名,女性2名,年齢73.8±8.5歳)を対象とした。デバイスの種類は,ペースメーカが4例,植え込み型除細動器(ICD)が2例,両室ペーシング機能付植え込み型除細動器(CRT-D)が1例であり,基礎疾患は拡張型心筋症が5例,完全房室ブロックが2例であった。電気刺激療法(EMS)の適応基準は積極的な運動療法が困難でEMS希望がある患者とした。心不全がコントロールされてない患者や下肢に炎症や著明な浮腫が生じている患者は除外した。EMSは,オートテンスプロリハビリユニットII(ホーマイオン株式会社)を使用した。ベルト電極は上前腸骨棘,膝蓋骨上端,内果を目安に3箇所に装着した。電気刺激は周波数20Hz,視覚的もしくは触覚的に筋収縮の得られる最低強度とし20分間実施した。主要エンドポイントはEMS実施中のすべての心血管イベントとし,副次エンドポイントは,デバイスリードのノイズの出現,下肢痛の出現,血圧・脈拍数の変動とした。実施手順は,1)実施前にプログラマーとデバイスを交信させ,デバイス設定条件,リード検出感度閾値,デバイス作動率,不整脈イベントの有無をチェック,2)体表心電図を装着,3)EMSベルトを装着,EMS電源をオン,4)プログラムモニターでnoiseが生じないか確認,5)EMS実施中はプログラマーモニター,体表モニターで監視を継続,6)EMS終了後にデバイス設定条件,リード検出感度閾値に変化がないがないか確認,の6項目を順番に施行した。安全対策として,ガイドラインでR-R間隔が3秒未満であれば循環動態に悪影響はないとされていることから,デバイスの影響が出現したときに3秒未満でEMS中止可能な体制を医師立会いのもと,プログラマー,体表モニター,EMSにそれぞれスタッフがつき事前にシミュレーションを行い3秒未満に対応できることを確認した。またデバイス作動に影響しない検出感度閾値以下のノイズであっても,念のためEMSを終了させるようにした。さらに各患者のデバイス条件や想定される事象と対応策のチェックシートを作成した。
【結果】EMSの刺激強度は全症例で±30mAであった。ベルト電極とリードまでの距離はAリード:22.6-32.1cm,Vリード:18.2-23.8cmであった。EMS実施中に心血管イベントは生じなかった。ICDの1例でのみVリードの心内心電図に雑音が生じたが,ベルト電極を腰部から大腿に変更したところ(リード先端とベルト間距離:21.0→38.0cm)雑音は消失した。しかし,雑音が生じてもペーシングに影響はなかった。下肢痛の出現はなく,血圧,脈拍の有意な変動はみられなかった。デバイス設定条件の影響も見られなかった。
【考察】EMSは心疾患患者においても効果を示す報告が散見され,臥床したままで実施できるメリットもあり,積極的な運動療法が困難な重症心不全患者に適したプログラムの一つと考えられる。一方で重症心不全患者ではデバイスを植え込まれていることが多く,EMSによるデバイス誤作動を回避する安全対策が必要となる。本研究では電気刺激強度が低強度であり,デバイスの影響はほとんど見られなかったが,電気刺激装置の種類や刺激強度,また患者個人によって影響に差があると予想されるために,実施前のリスク評価と十分なモニタリングは必須であると思われる。
【理学療法学研究としての意義】デバイスの工学的理解と十分なリスク評価,安全対策を行うことで,デバイス患者に電気を用いた物理療法を安全に行える可能性があり,理学療法士もデバイスの工学的理解は必要と思われる。
【方法】当院入院患者でデバイスが植え込まれている7名(男性5名,女性2名,年齢73.8±8.5歳)を対象とした。デバイスの種類は,ペースメーカが4例,植え込み型除細動器(ICD)が2例,両室ペーシング機能付植え込み型除細動器(CRT-D)が1例であり,基礎疾患は拡張型心筋症が5例,完全房室ブロックが2例であった。電気刺激療法(EMS)の適応基準は積極的な運動療法が困難でEMS希望がある患者とした。心不全がコントロールされてない患者や下肢に炎症や著明な浮腫が生じている患者は除外した。EMSは,オートテンスプロリハビリユニットII(ホーマイオン株式会社)を使用した。ベルト電極は上前腸骨棘,膝蓋骨上端,内果を目安に3箇所に装着した。電気刺激は周波数20Hz,視覚的もしくは触覚的に筋収縮の得られる最低強度とし20分間実施した。主要エンドポイントはEMS実施中のすべての心血管イベントとし,副次エンドポイントは,デバイスリードのノイズの出現,下肢痛の出現,血圧・脈拍数の変動とした。実施手順は,1)実施前にプログラマーとデバイスを交信させ,デバイス設定条件,リード検出感度閾値,デバイス作動率,不整脈イベントの有無をチェック,2)体表心電図を装着,3)EMSベルトを装着,EMS電源をオン,4)プログラムモニターでnoiseが生じないか確認,5)EMS実施中はプログラマーモニター,体表モニターで監視を継続,6)EMS終了後にデバイス設定条件,リード検出感度閾値に変化がないがないか確認,の6項目を順番に施行した。安全対策として,ガイドラインでR-R間隔が3秒未満であれば循環動態に悪影響はないとされていることから,デバイスの影響が出現したときに3秒未満でEMS中止可能な体制を医師立会いのもと,プログラマー,体表モニター,EMSにそれぞれスタッフがつき事前にシミュレーションを行い3秒未満に対応できることを確認した。またデバイス作動に影響しない検出感度閾値以下のノイズであっても,念のためEMSを終了させるようにした。さらに各患者のデバイス条件や想定される事象と対応策のチェックシートを作成した。
【結果】EMSの刺激強度は全症例で±30mAであった。ベルト電極とリードまでの距離はAリード:22.6-32.1cm,Vリード:18.2-23.8cmであった。EMS実施中に心血管イベントは生じなかった。ICDの1例でのみVリードの心内心電図に雑音が生じたが,ベルト電極を腰部から大腿に変更したところ(リード先端とベルト間距離:21.0→38.0cm)雑音は消失した。しかし,雑音が生じてもペーシングに影響はなかった。下肢痛の出現はなく,血圧,脈拍の有意な変動はみられなかった。デバイス設定条件の影響も見られなかった。
【考察】EMSは心疾患患者においても効果を示す報告が散見され,臥床したままで実施できるメリットもあり,積極的な運動療法が困難な重症心不全患者に適したプログラムの一つと考えられる。一方で重症心不全患者ではデバイスを植え込まれていることが多く,EMSによるデバイス誤作動を回避する安全対策が必要となる。本研究では電気刺激強度が低強度であり,デバイスの影響はほとんど見られなかったが,電気刺激装置の種類や刺激強度,また患者個人によって影響に差があると予想されるために,実施前のリスク評価と十分なモニタリングは必須であると思われる。
【理学療法学研究としての意義】デバイスの工学的理解と十分なリスク評価,安全対策を行うことで,デバイス患者に電気を用いた物理療法を安全に行える可能性があり,理学療法士もデバイスの工学的理解は必要と思われる。