[O-0491] 機能的電気刺激(FES)を想定した前脛骨筋への長時間電気刺激が足関節背屈運動に及ぼす影響に関する検討
キーワード:機能的電気刺激, 前脛骨筋, 足関節背屈運動
【はじめに,目的】
機能的電気刺激(FES)の一例として,片麻痺患者の下垂足歩行に対する機能再建があり,歩容や歩行速度改善などの観点からの有効性が既に報告されている。しかし,先行研究は,10m歩行等の短時間で終了する評価法を用いており,実際の日常生活で想定されるFESの長時間実施に伴う問題点,特に筋疲労に伴う下垂足出現の問題を検討した研究は皆無である。以上から本研究の目的は,片麻痺下垂足歩行へのFESの長時間実施に関する臨床研究の前段階として,健常者に対するFESを想定した前脛骨筋への長時間電気刺激が足関節背屈運動に及ぼす影響について検討することとした。
【方法】
本研究への参加に同意の得られた若年健常者14名(女性7名,男性7名,年齢21.6±1.3歳)を対象とし,以下の2つの実験を無作為の実施順序で日を改めて実施した。〈実験1:FES条件〉安静背臥位を保持した対象者の右前脛骨筋(TA)に低周波治療器(ES-420,伊藤超短波)を用いて電気刺激を加え,足関節背屈運動を誘発させた。刺激電極は,TAの運動点とTAの筋腹遠位端付近に設置した。刺激条件は,波形を矩形波,パルス幅を100μsec,周波数を20Hzとし,パルス振幅は,対象者の足関節が正常歩行の遊脚期と同様に底背屈0°となるように調整した(平均39.1mA)。オン・オフ時間は,正常歩行での遊脚期と立脚期の比率が2:3であることを考慮し,オン時間を2秒,オフ時間を3秒に設定した。その上で,電気刺激を30分間継続した。〈実験2:コントロール条件〉対象者は,実験1と同一肢位にて随意運動による右足関節底背屈0度までの背屈運動を30分間継続した。その際,実験1のオン・オフ時間を考慮し,背屈運動の持続時間を2秒,運動の休止時間を3秒とした。評価では足関節背屈角度(背屈角)とTAの筋血流量に注目した。背屈角(単位:度)は,各実験ともに実験開始時,10分後,20分後,30分後において,実験1のオン時間および実験2の背屈運動中に背屈角が最大となった時点で,矢状面上で撮影されたデジタル画像を画像処理ソフト(ImageJ 1.43u,NIH)を用いて測定した。測定のための指標は,腓骨頭,外果,第5中足骨頭および底とした。TAの筋血流量は,近赤外線分光分析装置(OEG-16,Spectratech)を用いて,TAの筋腹中央部分での酸素化ヘモグロビン量(HbO2,単位:mmol/mm)を各実験実施中に連続測定した。統計学的分析では,背屈角,HbO2ともに実験開始時の値を基準とし,各実験の10分毎の値の基準値からの経時的変化をDunnett法にて検討した。統計学的検定の有意水準は5%とした。
【結果】
背屈角(平均値)については,実験2では明らかな経時的変化を認めなかったが,実験1では実験開始時と比較して10分後(-3.79)および20分後(-4.45)での有意な減少を認めた。一方,30分後(-3.60)では20分後と比較して増加傾向を認めたものの,実験開始時よりは依然として減少傾向を認めた。HbO2(平均値)については,実験2では明らかな経時的変化を認めなかったが,実験1では実験開始時と比較して10分後以降の全てで有意な増加を認めた(10分後:0.11,20分後:0.14,30分後:0.18)。
【考察】
本研究結果は,FES条件では開始10分程で適切な背屈角を保てなくなるが,筋血流量についてはコントロール条件である随意運動よりも増加することを示している。背屈角の結果について,FES条件での電気刺激による筋収縮では随意運動と異なり遅筋よりも速筋がより動員されやすくなることが分かっている。この場合,筋収縮に必要なATPの産生は解糖系が主体となることが予想される。その結果,FES条件では代謝産物である乳酸が蓄積されやすくなった結果,筋疲労に伴うTAの張力低下が生じ,早い段階で適切な背屈角を保てなくなったと推察される(Hamada, 2003.)。一方,筋血流量の結果については,速筋は遅筋よりも収縮速度が速いため,同程度の関節運動であればコントロール条件である随意運動よりもFES条件である電気刺激の方で筋ポンプ作用が強くなった結果,FES条件で筋血流量がより増加したのではないかと推察する。また,FES条件では,筋血流量の増加により20~30分後での乳酸の蓄積がある程度緩和された結果,同時間帯での背屈角の僅かな増加傾向を認めた可能性が考えられる。今後,実際に下垂足歩行を呈する片麻痺患者を対象とした臨床的検討が急務である。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,FESを想定したTAへの長時間電気刺激の観点から比較的短時間での下垂足出現の問題について検討した初めての報告であり,今後の臨床的検討の必要性を提起した点で意義深いと考える。
機能的電気刺激(FES)の一例として,片麻痺患者の下垂足歩行に対する機能再建があり,歩容や歩行速度改善などの観点からの有効性が既に報告されている。しかし,先行研究は,10m歩行等の短時間で終了する評価法を用いており,実際の日常生活で想定されるFESの長時間実施に伴う問題点,特に筋疲労に伴う下垂足出現の問題を検討した研究は皆無である。以上から本研究の目的は,片麻痺下垂足歩行へのFESの長時間実施に関する臨床研究の前段階として,健常者に対するFESを想定した前脛骨筋への長時間電気刺激が足関節背屈運動に及ぼす影響について検討することとした。
【方法】
本研究への参加に同意の得られた若年健常者14名(女性7名,男性7名,年齢21.6±1.3歳)を対象とし,以下の2つの実験を無作為の実施順序で日を改めて実施した。〈実験1:FES条件〉安静背臥位を保持した対象者の右前脛骨筋(TA)に低周波治療器(ES-420,伊藤超短波)を用いて電気刺激を加え,足関節背屈運動を誘発させた。刺激電極は,TAの運動点とTAの筋腹遠位端付近に設置した。刺激条件は,波形を矩形波,パルス幅を100μsec,周波数を20Hzとし,パルス振幅は,対象者の足関節が正常歩行の遊脚期と同様に底背屈0°となるように調整した(平均39.1mA)。オン・オフ時間は,正常歩行での遊脚期と立脚期の比率が2:3であることを考慮し,オン時間を2秒,オフ時間を3秒に設定した。その上で,電気刺激を30分間継続した。〈実験2:コントロール条件〉対象者は,実験1と同一肢位にて随意運動による右足関節底背屈0度までの背屈運動を30分間継続した。その際,実験1のオン・オフ時間を考慮し,背屈運動の持続時間を2秒,運動の休止時間を3秒とした。評価では足関節背屈角度(背屈角)とTAの筋血流量に注目した。背屈角(単位:度)は,各実験ともに実験開始時,10分後,20分後,30分後において,実験1のオン時間および実験2の背屈運動中に背屈角が最大となった時点で,矢状面上で撮影されたデジタル画像を画像処理ソフト(ImageJ 1.43u,NIH)を用いて測定した。測定のための指標は,腓骨頭,外果,第5中足骨頭および底とした。TAの筋血流量は,近赤外線分光分析装置(OEG-16,Spectratech)を用いて,TAの筋腹中央部分での酸素化ヘモグロビン量(HbO2,単位:mmol/mm)を各実験実施中に連続測定した。統計学的分析では,背屈角,HbO2ともに実験開始時の値を基準とし,各実験の10分毎の値の基準値からの経時的変化をDunnett法にて検討した。統計学的検定の有意水準は5%とした。
【結果】
背屈角(平均値)については,実験2では明らかな経時的変化を認めなかったが,実験1では実験開始時と比較して10分後(-3.79)および20分後(-4.45)での有意な減少を認めた。一方,30分後(-3.60)では20分後と比較して増加傾向を認めたものの,実験開始時よりは依然として減少傾向を認めた。HbO2(平均値)については,実験2では明らかな経時的変化を認めなかったが,実験1では実験開始時と比較して10分後以降の全てで有意な増加を認めた(10分後:0.11,20分後:0.14,30分後:0.18)。
【考察】
本研究結果は,FES条件では開始10分程で適切な背屈角を保てなくなるが,筋血流量についてはコントロール条件である随意運動よりも増加することを示している。背屈角の結果について,FES条件での電気刺激による筋収縮では随意運動と異なり遅筋よりも速筋がより動員されやすくなることが分かっている。この場合,筋収縮に必要なATPの産生は解糖系が主体となることが予想される。その結果,FES条件では代謝産物である乳酸が蓄積されやすくなった結果,筋疲労に伴うTAの張力低下が生じ,早い段階で適切な背屈角を保てなくなったと推察される(Hamada, 2003.)。一方,筋血流量の結果については,速筋は遅筋よりも収縮速度が速いため,同程度の関節運動であればコントロール条件である随意運動よりもFES条件である電気刺激の方で筋ポンプ作用が強くなった結果,FES条件で筋血流量がより増加したのではないかと推察する。また,FES条件では,筋血流量の増加により20~30分後での乳酸の蓄積がある程度緩和された結果,同時間帯での背屈角の僅かな増加傾向を認めた可能性が考えられる。今後,実際に下垂足歩行を呈する片麻痺患者を対象とした臨床的検討が急務である。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,FESを想定したTAへの長時間電気刺激の観点から比較的短時間での下垂足出現の問題について検討した初めての報告であり,今後の臨床的検討の必要性を提起した点で意義深いと考える。