第50回日本理学療法学術大会

講演情報

口述

口述65

疼痛管理 神経・筋機能制御

2015年6月6日(土) 13:50 〜 14:50 第11会場 (ガラス棟 G610)

座長:生野公貴(西大和リハビリテーション病院 リハビリテーション部)

[O-0492] 慢性期脳梗塞症例に対する1か月間の機能的電気刺激療法を用いたホームエクササイズは脳活動に影響を与えるか

―PET画像を用いた検討―

久保田雅史1, 五十嵐千秋1, 神澤朋子2, 山村修2, 渡部雄大1, 松尾英明1, 嶋田誠一郎1, 馬場久敏1, 辻川哲也3, 岡沢秀彦3, 加藤龍4, 横井浩史5 (1.福井大学医学部附属病院リハビリテーション部, 2.福井大学医学部附属病院神経内科, 3.福井大学医学部高エネルギー医学研究センター, 4.横浜国立大学大学院工学研究院システムの創生部門, 5.電気通信大学大学院情報理工学研究科知能機械工学専攻)

キーワード:機能的電気刺激, 脳梗塞, PET

【はじめに,目的】
機能的電気刺激(functional electrical stimulation:FES)は,運動機能を改善する目的で脳卒中や脊髄損傷後の症例で用いられており,実際に歩行などの運動機能が改善した報告が散見される。近年では,電気刺激に伴い体性感覚皮質や島の賦活が報告されるなど,FESが脳活動に与える影響に注目されている。しかし,実際にFESの治療中及び治療期間前後の脳機能画像を評価した報告は我々が捗猟し得た限りない。ポジトロン断層法(positron emission tomography:PET)は,放射性トレーサーを用いて脳血流量を間接的に測定することで,脳活動の変化を客観的に把握することができる。電気刺激がPET撮像に影響を与えることはなく,fMRIほど動きが制約されないことから,FESの脳機能評価としてPETは有用である。そこで本研究では,慢性期脳梗塞症例に対して1か月間のFESを用いたhome exerciseを実施し,その前後の運動課題中の脳活動をPETを用いて評価し,若干の知見を得たので報告する。
【方法】
症例は発症3年以上経過した慢性期脳梗塞症例5名である(平均発症期間7.6±3.7年,男性3名,女性2名,平均年齢61.8±20.1歳)。本研究はcross-over designとし,FESを用いたhome exercise 1か月間とFESを用いないhome exerciseを1か月実施する期間を作成し,その順序はランダムに規定した。home exercise開始前及び各時期終了後にPET撮像と身体機能評価を実施した。脳機能画像評価はH2[15O]-PETにて測定し,頭部の過剰な動きを抑制するために頸椎カラーを装着した。PET撮像は,①安静,②随意運動のみ,③電気刺激のみ,④随意運動と電気刺激の併用の4タスクとし,3分間のタスク中の脳血流を測定した。電気刺激は麻痺側大腿四頭筋に実施し,電極は内側広筋と外側広筋のモーターポイントに貼り付けた。電気刺激はCarrier周波数2000Hz,Burst周波数を100Hz,Duty比50%の双極矩形波とし,疼痛は感じないが十分筋収縮が生じる強度とした。運動タスクは下肢伸展運動とし,最大等速性筋力の10%の負荷量を抵抗とした。下肢伸展運動は4秒間伸展―4秒間屈曲のリズムとし,伸展相に電気刺激が同期するよう設定した。各時期前後には身体機能評価として,Hand held dynamometerを用いた等尺性筋力,バランス機能評価であるBerg balance scale(BBS),歩行機能評価を実施した。1ヶ月間のhome exerciseは座位での膝伸展運動とし(20分間2セット/日,5回/週),FESを用いた時期には運動に合わせて電気刺激を負荷させるようにした。
【結果】
Home exercise開始前の脳機能画像評価では,随意運動のみでは対側運動野を中心に血流増大が認められ,電気刺激のみでは血流増大は認めず,電気刺激と随意運動の併用では対側感覚野に血流増大領域が拡大していた。比較的麻痺重症例では,随意運動のみでは両側の運動関連領域の血流が増大していたが,電気刺激と随意運動の併用により同側脳血流は減少し,対側運動関連領域に賦活は限局化していた。1か月間のFES併用のhome exercise後のPETでは,介入前と同様な運動タスクであるにも関わらず,随意運動のみで血流増大領域の限局化がみられた。一方,FES非実施home exercise前後ではこの限局化の反応は明確ではなかった。大腿四頭筋等尺性筋力やBBSでは,FES実施home exercise期間でもFES非実施home exercise期間でも増加する傾向を認めたが,各期間で明らかな違いは認められなかった。
【考察】
随意運動のみと比較して電気刺激を併用することにより即時的に感覚野まで賦活範囲が拡大しており,電気刺激を併用することで感覚入力が増大していることが考えられた。1か月間FESを用いたhome exerciseを実施することで,FESを実施しない時期と比較して明らかな身体機能の変化は見られなかったが,PET画像では随意運動のみで賦活する範囲が限局化していた。これは,限局化した脳活動で同一のタスクが行えるよう変化していることを示唆しているのではないかと推測された。
【理学療法学研究としての意義】
脳卒中ガイドラインでFESは推奨されているものの,実際の臨床で広く使用されているとは言い難い。その理由としてFESがもたらす効果が十分解明されていないことが考えられる。本研究では,慢性期脳梗塞症例においてもFESを用いたhome exerciseによって短期的に脳賦活パターンに変化が生じたことが示され,理学療法研究として意義が大きいと考えられる。