第50回日本理学療法学術大会

講演情報

口述

口述65

疼痛管理 神経・筋機能制御

2015年6月6日(土) 13:50 〜 14:50 第11会場 (ガラス棟 G610)

座長:生野公貴(西大和リハビリテーション病院 リハビリテーション部)

[O-0493] 機能的電気刺激が回復期脳卒中患者の歩行速度に与える影響

山本洋平 (医療法人尚和会宝塚リハビリテーション病院)

キーワード:ウォークエイド, 機能的電気刺激, 脳卒中

【目的】
脳卒中患者の歩行能力を向上させる手段の一つとして速度を高めた歩行トレーニングが有効とされている。Bruce H. Dobkinらは,強制的に速く歩かせた群はそうでない群と比較して1ヵ月後の歩行速度が有意に高まると報告している。そのため,当院においても脳卒中患者に対して可能な限り歩行速度を高めたトレーニングを取り入れているが,歩行速度を高めるにあたって足部クリアランスの低下が阻害要因となることが多い。これまで速度を高めた歩行トレーニングの有効性は示されているが,速度をいかに高めるかの方法論は十分に検証されているとは言い難い。本研究は歩行速度を高める手段として機能的電気刺激の有効性を検証するものである。

【方法】
対象は当院回復期病棟に入院する脳卒中片麻痺患者10名(男性8名,女性2名,平均年齢64.4歳)とした。選択基準は,1)脳卒中片麻痺で非麻痺側に明らかな麻痺がない,2)発症後1ヵ月以上,6ヶ月以内,3)近位監視レベル以上で10m以上の連続歩行が可能,4)心臓ペースメーカーや金属の埋め込み術の既往がない,とした。方法は,対象者の10m最大歩行速度を機能的電気刺激有りおよび無しでそれぞれ実施した。機能的電気刺激装置は帝人ファーマ社製の歩行神経筋電気刺激装置ウォークエイドを使用し,電気刺激は遊脚期に麻痺側の足関節背屈筋群に対して加えた。また,全ての対象者に油圧制動式短下肢装具Gait Solution Designを装着した。評価項目は,機能的電気刺激有りおよび無しの10m歩行所要時間,川村義肢社製Gait Judge Systemにより計測される踵ロッカーに伴う底屈トルク(ファーストピーク:以下FP)と前足部ロッカーに伴う底屈トルク(セカンドピーク:以下SP),遊脚期の足関節最大背屈角度とした。各データの平均値を算出し対応のあるt検定で比較した。統計学的有意水準は5%とした。

【結果】
10m歩行所要時間の平均値は,電気刺激有りが14.1秒,無しが15.9秒と有意差を認めた。その他の歩行因子では,背屈最大角度が有り1.86±8.54度,無し-0.65±4.08度と有意差を認め,FPは有り4.63±3.30Nm,無し3.54±3.99nm,SPは有り4.54±6.99Nm,無し3.45±3.87と有意差を認めなかった。

【考察】
機能的電気刺激を用いて遊脚期に足関節背屈筋群を促通することで歩行速度が高まったことは,脳卒中片麻痺患者の歩行における遊脚期のクリアランスの重要性を再確認させるものである。脳卒中により生じる運動麻痺や異常筋緊張は関節運動を阻害し,歩行の遊脚期には下垂足を呈すことが多い。それに対して短下肢装具を装着することで一定の改善は可能だが,遊脚期,特に前遊脚期から遊脚初期のクリアランスを確保しきれないことがある。装具による補助のみならず背屈運動が十分なクリアランスには必要であり,機能的電気刺激の背屈筋群への促通がその役割を果たしたことが明らかとなった。また,歩行時のロッカー機能の指標であるFPとSPに有意な変化が見られなかったことは,遊脚期に限定した背屈筋群への電気刺激が立脚期の運動の阻害因子とならないことを示すものと考える。このように,安定した姿勢を保ったまま無理なく歩行速度を高めた状態でトレーニングを継続することは,運動学習効果を引き上げる効果があるものと考える。動作特異性の観点からも獲得したい動作にトレーニングする動作をいかに近づけるかが重要であり,背屈筋群への電気刺激はそれを比較的容易に可能とするものである。以上の理由から,将来獲得する歩行能力を向上させる手段として機能的電気刺激には有効性があるものと考える。本研究の結果は,短下肢装具と機能的電気刺激の併用が足部クリアランスと歩行速度といった歩行因子の即時的変化を可能とし,脳卒中片麻痺患者に対する歩行トレーニングとしての有効性を示唆するものである。

【理学療法学研究としての意義】
これまで機能的電気刺激の主要な目的とされてきた身体機能の補完と麻痺筋の運動機能の改善だけではなく,歩行速度を高めるといった動作を即時的に変化させる手段として有効であることが示唆されたことに研究としての意義があると考える。