第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述66

運動制御・運動学習4

Sat. Jun 6, 2015 1:50 PM - 2:50 PM 第12会場 (ガラス棟 G701)

座長:池田由美(首都大学東京 健康福祉学部理学療法学科)

[O-0494] 非筋疲労課題における運動時間がPost-exercise depressionに与える影響

宮口翔太1,2, 大西秀明1, 小丹晋一1, 小島翔1, 菅原和広1, 田巻弘之1 (1.新潟医療福祉大学運動機能医科学研究所, 2.中条中央病院リハビリテーション科)

Keywords:磁気刺激, 運動誘発電位, Post-exercise depression

【はじめに,目的】
筋疲労課題後に大脳皮質の興奮性が一定時間低下する現象が観察される。この現象をPost-exercise depression(PED)という。PEDは脊髄反射成分であるH波やF波の振幅が変化しないことから,皮質内由来の現象であることが報告されている(Zanette et al, 1995;Samii et al, 1996)。近年では,非筋疲労課題においてもPEDが出現することが報告されており(Teo et al, 2012;Miyaguchi et al, 2013),運動頻度や筋収縮強度,運動様式がPEDに影響を与えることが明らかになっている(Bonato et al, 2002;宮口ら,2013)。しかし,運動の持続時間がPEDに与える影響については明らかになっていない。そこで本研究は,非筋疲労課題における運動時間がPEDに与える影響を明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は実験内容を十分に説明し同意が得られた健常成人8名(23.9±2.9歳)であった。運動課題は右示指の内外転反復運動とし,2 Hzの頻度にて施行した。筋収縮強度は最大随意収縮時の筋活動の10%とした。運動時間は2分間および6分間の2条件とした。一次運動野の興奮性の評価として運動誘発電位(Motor evoked potential:MEP)を用いた。MEPの計測には,経頭蓋磁気刺激装置Magstim200および8の字コイルを使用した。刺激部位はTMS Neuronavigationを用いて各被験者におけるfMRI画像を元に推定された左大脳皮質一次運動野手指領域周辺にてFDIより最もMEPが誘発される点とした。刺激強度は,安静時に1 mVのMEPを10回中5回以上導出する最小強度とした。磁気刺激の頻度は0.2 Hzとした。運動前にMEPを20波形計測し,運動後8分間における1分ごとのMEPを12波形ずつ計測し,MEPの経時的変化を解析した。解析対象はMEP振幅値とし,運動前および運動後1分から8分に得られた各MEP振幅値の加算平均値を算出した。運動前および運動後1分から8分のMEP振幅値の比較にはDunnet法による検定を用いた。有意水準は5%とした。
【結果】
2分条件におけるMEP振幅値(平均値±標準誤差)は,1.12±0.10 mV(運動前),0.70±0.12 mV(運動後1分),0.73±0.14 mV(運動後2分),0.71±0.17 mV(運動後3分),0.79±0.18 mV(運動後4分),0.86±0.16 mV(運動後5分),0.90±0.17 mV(運動後6分),1.08±0.20 mV(運動後7分),1.02±0.22 mV(運動後8分)となり,運動前後のMEP振幅値に有意差は認められなかった。6分条件におけるMEP振幅値は,1.04±0.06 mV(運動前),0.57±0.08 mV(運動後1分),0.65±0.06 mV(運動後2分),0.76±0.11 mV(運動後3分),0.88±0.12 mV(運動後4分),1.03±0.09 mV(運動後5分),1.06±0.09 mV(運動後6分),1.05±0.10 mV(運動後7分),1.04±0.14 mV(運動後8分)となり,運動前のMEP振幅値に比べ運動後1分(p<0.01),運動後2分(p<0.01),運動後3分(p<0.05)のMEP振幅値が有意に小さい値となった。
【考察】
本研究において,2分間の運動後にはPEDが認められず,6分間の運動後にPEDが認められた。このことは,運動頻度だけでなく運動継続時間もPEDに影響を与えることを示唆している。先行研究では,1 Hzの運動に比べて2 Hzの運動の方がPEDの持続時間が長いことが報告されている(Bonato et al, 2002)。これらのことから,運動遂行時における大脳皮質の活動量がPED発現の有無に影響を及ぼしているのではないかと考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,反復運動課題終了後の大脳皮質の興奮性の変化を明らかにすることを目的としており,脳機能解明の一助となると共に,理学療法場面において,脳卒中患者など中枢神経疾患に対する最適なリハビリテーション介入方法の開発に寄与するものと考えられる。