第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述66

運動制御・運動学習4

Sat. Jun 6, 2015 1:50 PM - 2:50 PM 第12会場 (ガラス棟 G701)

座長:池田由美(首都大学東京 健康福祉学部理学療法学科)

[O-0496] 加齢が歩行時の運動の冗長性の利用に与える影響

武田拓也1, 新小田幸一2, 緒方悠太1, 谷本研二3, 徳田一貫3,4, 阿南雅也2, 高橋真2 (1.広島大学大学院医歯薬保健学研究科博士課程前期保健学専攻, 2.広島大学大学院医歯薬保健学研究院応用生命科学部門, 3.広島大学大学院医歯薬保健学研究科博士課程後期保健学専攻, 4.森整形外科)

Keywords:加齢, 歩行, Uncontrolled manifold

【はじめに,目的】Uncontrolled manifold解析(以下,UCM解析)は運動の冗長性を理解する有用な手法である。この手法では,冗長な多自由度システムにおける分散を,タスクに影響を与えない変動(以下,VUCM)と,影響を与える変動(以下,VORT)に投影する。全体の分散に対してVUCMの占める割合が高ければタスクに対する強いシナジーが存在することを意味し,身体各部の調節に多様な制御パターンを協調的に用いていることを示している。転倒は高齢者の健康維持への重大なリスクとなり,歩行中では遊脚肢のクリアランス低下だけでなく,身体重心(以下,COM)を制御する能力の低下もまた転倒のリスクに直結するとされている。また,加齢に伴う筋力,関節可動域,平衡機能など身体機能の変化や神経筋機能のような制御系に衰退が生じ,歩行において若年者と比較し様々な違いが認められる。加齢が歩行中の遊脚肢の制御に関与する冗長性の利用に与える影響を調べた報告はあるものの,COMの制御に関与する冗長性の利用に与える影響を調べた報告は渉猟する限り見当たらない。そこで本研究は,加齢が歩行時のCOMの制御に関し,運動の冗長性の利用に与える影響をUCM解析により明らかにし,それを基に高齢者の歩行を含めた日常生活活動中の転倒予防に関する理学療法アプローチの一助とすることを目的として行った。
【方法】被験者は健常若年者12人(年齢:22.5±1.5[y),健常高齢者12人(年齢:73.2±3.1[y)であった。課題動作に,被験者が快適と感じるスピードでの平地歩行を採用した。運動学的データは赤外線カメラ6台からなる三次元動作解析システム(Vicon社製)により取得した。得られたデータを基にBodyBuilder(Vicon社製)を用いて,各関節中心座標を算出した。得られたマーカ座標からMATLAB2014a(MathWorks社製)を用いて要素変数とタスク変数の関係式を算出した。要素変数を各セグメント角度,タスク変数をCOMの内外側方向座標,鉛直方向座標と設定した。そして,それぞれのタスク変数に対してUCMの線形近似を行い,内外側および鉛直方向のVUCM(以下,VUCM-ml,VUCM-ver)とVORT(以下,VORT-ml,VORT-ver),これらの差を全体の分散で除した値である協調性の指標(以下,DVml,DVver)を算出した。歩行における右下肢の立脚期を100%に時間正規化し,動作時間の0~50%(以下,立脚期前半)と51~100%(以下,立脚期後半)に区分した。統計学的解析には統計ソフトウェアSPSS Ver.22.0(IBM社製)を用い,2標本t検定またはMann-Whitneyの検定を行った。有意水準は5%未満とした。
【結果】高齢群において,立脚期前半のVUCM-ml,DVml,VUCM-ver,VORT-ver,立脚期後半のVUCM-ml,VUCM-ver,DVverは若年群と比較して,有意に高値を示した(p<0.05)。
【考察】立脚期前半は両脚支持期から片脚支持期への移行期であり,COMが立脚側方向へシフトし片脚支持を保持する制御が,後半では立脚中期から終期にかけてのCOM下降の制御が必要となる。高齢者は,立脚期前半ではCOMの内外側方向の制御,立脚期後半では鉛直方向の制御で,COMに影響を与えない変動と協調性の指標が若年者よりも,有意に高値を示した。これらのことから,高齢者は身体各部の制御方法を変更し,多様な運動の冗長性を用いて協調的な活動の要求を増加させることにより,達成していたと考えられる。本研究では,加齢によるロコモーターシステムの変容を運動の冗長性の利用の面から捉えられた。これは高齢者の歩行時の身体制御に関する新たな知見であり,転倒予防に関する理学療法を考案する手がかりとなる。またより臨床的な意義を明らかにする為に,UCM解析による指標と臨床で用いられているバランスの評価指標との関連を調査する必要がある。
【理学療法学研究としての意義】本研究は,高齢者が歩行の遂行において,多様な運動の冗長性を用いて,協調的な活動の要求を増加させ,対応することを新たな解析手法であるUCM解析により示したことに意義がある。