第50回日本理学療法学術大会

講演情報

口述

セレクション 口述10

代謝

2015年6月6日(土) 15:00 〜 16:00 第5会場 (ホールB5)

座長:横地正裕(医療法人三仁会あさひ病院 リハビリテーション科), 井垣誠(公立豊岡病院日高医療センター リハビリテーション技術科)

[O-0501] 2型糖尿病患者の超音波検査を用いた骨格筋の質の定量的評価とインスリン抵抗性との関連

平沢良和, 久堀陽平, 山本洋司, 松木良介, 渡辺広希, 草場正彦, 梅本安則 (関西電力病院リハビリテーション科)

キーワード:2型糖尿病, インスリン抵抗性, 超音波画像診断

【はじめに,目的】2型糖尿病のインスリン抵抗性の病態には肝,脂肪細胞,骨格筋が関与し,骨格筋のインスリン抵抗性として異所性脂肪である骨格筋細胞内脂質が関連することが報告されている。また膝伸展筋力の筋量比がインスリン抵抗性と関連することも報告されている。しかし,これらの評価にはCTやMRIなどによる検査が必要であり,臨床の運動指導にて簡便に測定することは困難である。近年超音波画像の筋輝度が骨格筋内の結合組織や脂肪細胞など非収縮組織を示すことが報告され超音波検査による筋の質の評価が着目されているが,筋厚や筋輝度がインスリン抵抗性と関連するかは明らかとされていない。本研究の目的は2型糖尿病患者の大腿四頭筋の筋厚および筋輝度,膝伸展筋力筋厚比がインスリン抵抗性と関連するか検討することである。
【方法】対象は当院に教育入院をした2型糖尿病患者26名である。内訳は平均年齢53.3±10.6歳,男性20名,女性6名,身長166.6±7.8cm,体重70.7±9.6kg,BMI25.5±3.1,HbA1c7.2±0.9%,糖尿病推定罹病期間2年(1~28年)である。糖尿病に対して薬物療法が実施されている,あるいは空腹時血糖値が140mg/dL以上の患者は除外した。測定項目は膝伸展筋力,大腿四頭筋の筋厚および筋輝度とした。膝伸展筋力はHand-held Dynamometer(アニマ社製μ-TasF-1)を用いて,端坐位膝関節屈曲90度位での左右の最大等尺性筋力を測定した。筋力値は左右各2回測定し最大値を採用した。超音波診断装置(日立メディコ社製Noblus)を使用し,10MHzのリニアプローブにてゲインなどの画質条件は同一の設定で測定した。測定部位は安静背臥位で上前腸骨棘と膝蓋骨上縁を結んだ直線上の中点とした。大腿骨が鮮明に描出されるようにプローブの角度を調整し,筋を圧迫しないようにプローブを軽く皮膚に接触させて測定した。大腿四頭筋の筋厚として大腿直筋と中間広筋を合わせた筋厚を計測し,左右の筋厚の平均値を算出した。また膝伸展筋力を筋厚で除し左右の膝伸展筋力筋厚比の平均値を算出した。画像解析ソフト(image J)を使用して大腿直筋と中間広筋の領域の筋輝度を各2回計測し,それぞれの平均値を算出した。さらに左右の大腿直筋と中間広筋との平均値を求め,大腿四頭筋の筋輝度として採用した。対象者の診療録より教育入院時の空腹時インスリン値および空腹時血糖値を調査しインスリン抵抗性の指標としてHomeostasis model assessment-insulin resistance(HOMA-IR)を算出した[HOMA-IR=空腹時インスリン値(μU/mL)×空腹時血糖値(mg/dL)÷405]。統計学的解析はピアソンの積率相関係数を用いて年齢,BMI,HbA1c,糖尿病推定罹病期間,HOMA-IR,筋厚,筋輝度,膝伸展筋力筋厚比との関連性を検討した。統計処理にはIBM SPSS Statistics Version21を用いた。有意水準は5%未満とした。
【結果】筋厚38.1±4.8mm,筋輝度95.0±24.5pixel,膝伸展筋力筋厚比1.07±0.22kg/mm,HOMA-IR1.74±0.62であった。HOMA-IRとの有意な相関関係を認めたのは筋輝度(r=0.41,p<0.05)であり,筋厚(r=-0.32,p=0.11)と膝伸展筋力筋厚比(r=0.20,p=0.33)は有意な相関関係を認めなかった。また筋輝度は年齢(r=0.39,p=0.06),BMI(r=0.12,p=0.58),HbA1c(r=0.11,p=0.96),糖尿病推定罹病期間(r=0.28,p=0.18)と有意な相関関係を認めなかった。
【考察】本研究により2型糖尿病患者の大腿四頭筋の筋輝度がインスリン抵抗性と関連することが明らかとなった。筋生検において脂肪浸潤と筋輝度との関連が報告されており,超音波画像の高輝度が骨格筋内脂質の増加を示しインスリン抵抗性と関連することが示唆された。2型糖尿病では骨格筋量の減少や下肢筋力の低下がインスリン抵抗性と関連するが,本研究における筋厚や膝伸展筋力筋厚比はインスリン抵抗性と有意な相関関係を認めなかった。今回の検討では内側広筋や外側広筋の筋厚は含まれておらず筋厚と膝伸展筋力筋厚比がインスリン抵抗性と関連しなかった可能性がある。また筋輝度は加齢や疾患により高輝度を呈し筋力低下と関連することが報告されているが,本研究では筋輝度は加齢や糖尿病関連因子と有意な相関関係を認めなかった。今回の検討では症例数が少ないためさらに症例数を増やして検討する必要がある。
【理学療法学研究としての意義】超音波検査による骨格筋の評価において大腿四頭筋の筋輝度とインスリン抵抗性が関連することが示唆された。超音波検査は非侵襲的でリアルタイムに測定可能であり糖尿病の運動指導や運動療法の効果判定の指標として有用となる。