[O-0502] 糖尿病患者における足底表在感覚閾値が10m前方・後方歩行能力に及ぼす影響
キーワード:糖尿病性神経障害, 足底感覚, 視覚情報
【目的】
糖尿病(以下DM)患者の人口は近年急激な増加をしており,2014年には5人に1人がDMまたは,DM予備軍とされている。DMは血糖値のコントロールが不良になる疾患であり,合併症を呈するリスクがある。DMにおける三大合併症として末梢神経障害,腎症,網膜症がある。DM性神経障害は足部のしびれ,振動感覚の消失,アキレス腱反射の消失により足部に障害をきたすことが報告されている。
DM性神経障害による表在感覚の閾値を定量的に評価するためにSemmes-Weinstein-Monofilament(以下SWM)を使用することがある。一般的に手や足底等の表在感覚を評価する際に用いられている。なかでも足底はDM性神経障害の指標として用いられ,SWMはDM性末梢神経障害との関係が強くSWMのEvaluator Size 5.07の触圧10gという値がひとつの目安となっている。さらに10gの触圧を感じない患者では足病変であるDM性潰瘍の発症リスクが高くなることが報告されている。
ADLが自立した軽度の身体機能低下では前方歩行能力は低下しにくい。後ろ向きに歩行する後方歩行はバランス機能を反映していると報告されている。後方歩行は前方歩行では判別困難なバランス機能を評価できる。合併症を発症する前に,DM患者の軽度身体機能低下を評価する必要性がある。そこで,DM患者における足底表在感覚閾値が10m前方・後方歩行能力に及ぼす影響を検討した。
【方法】
当院でDMと診断され教育入院となった患者57例(男性43名,女性14名,年齢59.2±13.6歳,身長163.4±8.4cm,体重60.0±16.5kg;平均±標準偏差)であった。対象者はADL動作が自立しており独歩自立であった。
足底表在感覚閾値の評価としてSWMを使用した。Evaluator Size(触圧覚)は2.83(0.07g),3.61(0.4g),4.31(2.0g),4.56(4.0g),5.07(10.0g),6.65(300.0g)の6本セットを使用した。測定姿勢はプラットフォーム上で背臥位にて,視覚の影響を受けないように閉眼で行った。SWMの測定部位は左右の母趾,母趾球,小趾球,踵の計8ヶ所に対して直角に曲がるまで1.5秒間押し付け,正答の有無を確認した。測定部位のすべてを正答できたsizeを個人の代表値とし,SWMのsizeごとに群分けを行った。
歩行能力の評価は10mの前方歩行と後方歩行の最速の所要時間と歩数を計測した。統計学的解析は前方歩行と後方歩行を被験者内要因とし,SWMの各サイズを被験者間要因とした二元配置分散分析を行った。下位検定はBonferroni法を用い,有意水準はすべて5%未満とした。統計ソフトはSPSS ver.20を使用した。
【結果】
size2.83は正答者なし。size3.61は正答者なし。size4.31は9例(年齢49.1±13.5歳),10m前方歩行:5.5±0.8秒,13.6±0.9歩。10m後方歩行:8.3±3.1秒,18.1±2.9歩。size4.56は20例(年齢61.7±14.0歳),10m前方歩行:6.2±0.8秒,14.2±1.5歩。10m後方歩行:10.9±4.8秒,21.3±4.2歩。size5.07は18例(年齢56.8±12.7歳),10m前方歩行:6.2±1.0秒,14.6±1.9歩。10m後方歩行:11.5±4.3秒,24.9±7.1歩。size6.65は11例(年齢67.1±8.6歳),10m前方歩行:7.5±1.5秒,16.6±1.8歩。10m後方歩行:20.0±9.2秒,36.0±13.5歩であった。
二元配置分散分析の結果,足底感覚閾値の上昇に伴い有意に前方・後方歩行能力が低下し,歩行能力およびSWM要因に主効果と交互作用を認めた。
【考察】
歩行能力およびSWM要因に交互作用を認めたことは,前方歩行と後方歩行の特徴が影響していると考える。後方歩行の特徴は進行方向の視覚情報が得られない,そのため足底表在感覚が重要となる。健常であれば足底から足底接地のタイミングをフィードバックすることができるが,足底表在感覚が低下したDM患者では足底からのフィードバックが得られにくいた。足底表在感覚低下に伴いバランス機能も低下し十分に重心を足底内に保つことができないため,歩幅と歩行速度が減少したと考える。足底表在感覚の低下は他の神経器官の低下を伴っている可能性がある。高血糖症状が長期間続くと前庭機能が低下すると報告がある。DM患者における後方歩行は足底表在感覚低下の影響を受ける評価指標だと考える。
【理学療法学研究としての意義】
DM性潰瘍やDM性末梢神経障害と関係が深いSWMのsize5.07の評価に加え,後方歩行はDM患者のバランス機能や歩行能力の評価として有用である。足底表在感覚が歩行能力を反映する評価項目であることより,介入実施前に足部の評価を十分に行う重要である。低下している身体機能に合わせたリハビリテーションが必要だと考える。
糖尿病(以下DM)患者の人口は近年急激な増加をしており,2014年には5人に1人がDMまたは,DM予備軍とされている。DMは血糖値のコントロールが不良になる疾患であり,合併症を呈するリスクがある。DMにおける三大合併症として末梢神経障害,腎症,網膜症がある。DM性神経障害は足部のしびれ,振動感覚の消失,アキレス腱反射の消失により足部に障害をきたすことが報告されている。
DM性神経障害による表在感覚の閾値を定量的に評価するためにSemmes-Weinstein-Monofilament(以下SWM)を使用することがある。一般的に手や足底等の表在感覚を評価する際に用いられている。なかでも足底はDM性神経障害の指標として用いられ,SWMはDM性末梢神経障害との関係が強くSWMのEvaluator Size 5.07の触圧10gという値がひとつの目安となっている。さらに10gの触圧を感じない患者では足病変であるDM性潰瘍の発症リスクが高くなることが報告されている。
ADLが自立した軽度の身体機能低下では前方歩行能力は低下しにくい。後ろ向きに歩行する後方歩行はバランス機能を反映していると報告されている。後方歩行は前方歩行では判別困難なバランス機能を評価できる。合併症を発症する前に,DM患者の軽度身体機能低下を評価する必要性がある。そこで,DM患者における足底表在感覚閾値が10m前方・後方歩行能力に及ぼす影響を検討した。
【方法】
当院でDMと診断され教育入院となった患者57例(男性43名,女性14名,年齢59.2±13.6歳,身長163.4±8.4cm,体重60.0±16.5kg;平均±標準偏差)であった。対象者はADL動作が自立しており独歩自立であった。
足底表在感覚閾値の評価としてSWMを使用した。Evaluator Size(触圧覚)は2.83(0.07g),3.61(0.4g),4.31(2.0g),4.56(4.0g),5.07(10.0g),6.65(300.0g)の6本セットを使用した。測定姿勢はプラットフォーム上で背臥位にて,視覚の影響を受けないように閉眼で行った。SWMの測定部位は左右の母趾,母趾球,小趾球,踵の計8ヶ所に対して直角に曲がるまで1.5秒間押し付け,正答の有無を確認した。測定部位のすべてを正答できたsizeを個人の代表値とし,SWMのsizeごとに群分けを行った。
歩行能力の評価は10mの前方歩行と後方歩行の最速の所要時間と歩数を計測した。統計学的解析は前方歩行と後方歩行を被験者内要因とし,SWMの各サイズを被験者間要因とした二元配置分散分析を行った。下位検定はBonferroni法を用い,有意水準はすべて5%未満とした。統計ソフトはSPSS ver.20を使用した。
【結果】
size2.83は正答者なし。size3.61は正答者なし。size4.31は9例(年齢49.1±13.5歳),10m前方歩行:5.5±0.8秒,13.6±0.9歩。10m後方歩行:8.3±3.1秒,18.1±2.9歩。size4.56は20例(年齢61.7±14.0歳),10m前方歩行:6.2±0.8秒,14.2±1.5歩。10m後方歩行:10.9±4.8秒,21.3±4.2歩。size5.07は18例(年齢56.8±12.7歳),10m前方歩行:6.2±1.0秒,14.6±1.9歩。10m後方歩行:11.5±4.3秒,24.9±7.1歩。size6.65は11例(年齢67.1±8.6歳),10m前方歩行:7.5±1.5秒,16.6±1.8歩。10m後方歩行:20.0±9.2秒,36.0±13.5歩であった。
二元配置分散分析の結果,足底感覚閾値の上昇に伴い有意に前方・後方歩行能力が低下し,歩行能力およびSWM要因に主効果と交互作用を認めた。
【考察】
歩行能力およびSWM要因に交互作用を認めたことは,前方歩行と後方歩行の特徴が影響していると考える。後方歩行の特徴は進行方向の視覚情報が得られない,そのため足底表在感覚が重要となる。健常であれば足底から足底接地のタイミングをフィードバックすることができるが,足底表在感覚が低下したDM患者では足底からのフィードバックが得られにくいた。足底表在感覚低下に伴いバランス機能も低下し十分に重心を足底内に保つことができないため,歩幅と歩行速度が減少したと考える。足底表在感覚の低下は他の神経器官の低下を伴っている可能性がある。高血糖症状が長期間続くと前庭機能が低下すると報告がある。DM患者における後方歩行は足底表在感覚低下の影響を受ける評価指標だと考える。
【理学療法学研究としての意義】
DM性潰瘍やDM性末梢神経障害と関係が深いSWMのsize5.07の評価に加え,後方歩行はDM患者のバランス機能や歩行能力の評価として有用である。足底表在感覚が歩行能力を反映する評価項目であることより,介入実施前に足部の評価を十分に行う重要である。低下している身体機能に合わせたリハビリテーションが必要だと考える。