第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述67

生体評価学4

Sat. Jun 6, 2015 3:00 PM - 4:00 PM 第8会場 (ガラス棟 G402)

座長:樋口謙次(東京慈恵会医科大学附属柏病院リハビリテーション科)

[O-0507] 超音波画像を用いた膝関節伸展等尺性筋力の予測

北川孝1,2, 寺田茂1, 三秋泰一2, 中川敬夫2 (1.金沢赤十字病院リハビリテーション科, 2.金沢大学大学院医薬保健学総合研究科保健学専攻)

Keywords:超音波画像診断, 等尺性膝伸展筋力, 筋厚

【はじめに,目的】
近年,超音波診断装置を用いた筋内脂肪増加の評価方法として筋エコー輝度(以下,筋輝度)の有用性が注目されている(Euardo 2012, Fukumoto 2012)。また機器による筋輝度測定の違いをキャリブレーションした指標として輝度比(Luminosity ratio,LR)が報告されている(Wu 2010)。大腿四頭筋の筋力発揮には筋厚や羽状角などの筋の形態的要因が影響するとされているが,筋力と筋輝度およびLRとの関連についての報告は十分にはない。また筋輝度と筋力の関係を検討したものは対象者が限られた年代を対象としているものが多い。本研究の目的は幅広い年代の健常者における大腿四頭筋の筋厚,筋輝度およびLRが膝伸展筋力に及ぼす影響を調べ,その値から膝関節伸展の最大等尺性筋力の予測式を立てることである。
【方法】
対象は成人男女各20名(平均年齢38.7±11.5歳,身長165.9±7.5cm,体重58.8±10.0kg,大腿周径50.2±4.4cm)とした。選択基準は20-59歳の健常者で日常生活が自立している者とし,除外基準は体幹または下肢の手術歴のある者,神経学的疾患および筋骨格系疾患を有する者とした。測定項目は皮下脂肪厚・輝度および大腿直筋(RF)・中間広筋(VI)の筋厚・筋輝度,膝関節伸展等尺性筋力とした。超音波診断装置(GEヘルスケア社製LOGIQ P5)を使用し,安静端座位での利き足の大腿四頭筋の横断画像を記録した。10MHzのリニアプローブを使用し,ゲインなどの画質条件は同一の設定で測定した。記録部位は上前腸骨棘と膝蓋骨上縁の中点とし,プローブは皮膚面に対して垂直に保持し,筋肉を圧迫しないよう皮膚に軽く接触させた。画像解析ソフト(Image J)を使用して3回の画像の皮下脂肪厚(fat-T)および皮下脂肪輝度(fat-EI),RFの筋厚(RFMT)および筋輝度(RFEI),VIの筋厚(VIMT)および筋輝度(VIEI)を測定し,平均値を算出した。またRFEI,VIEIをfat-EIで除したものをそれぞれRFLR,VILRとした。膝関節伸展等尺性筋力の測定には筋力測定装置(ミナト医科学株式会社製コンビット)を使用し,膝関節屈曲60°位の端座位にて利き足の膝関節伸展等尺性筋力(Nm)を測定した。筋力値は3回測定したうちの最大値を使用した。統計学的解析としてPearsonの相関係数およびSpearmanの順位相関係数を用い対象者の筋力値とその特性および画像所見との関連性を検討した。また筋力値を従属変数,対象者の特性および画像所見の中から筋力値と有意な相関がみられた項目を独立変数とし,ステップワイズ法を用いて重回帰分析を行った。すべての統計の有意水準は5%未満とした。また本研究での皮下脂肪輝度および筋輝度の信頼性を調べるためにfat-EI,RFEI,VIEIそれぞれの同一検者による2回の測定値について級内相関係数を求めた。
【結果】
輝度測定の級内相関係数は0.99であった。筋力値は151.3±52.3Nm,fat-Tは0.54±0.25cm,fat-EIは94.1±11.3pixel,RFMTは1.87±0.42cm,RFEIは71.9±13.8pixel,RFLRは0.77±0.17,VIMTは2.02±0.50cm,VIEIは54.7±11.8pixel,VILRは0.59±0.14であった。相関分析の結果,筋力値と身長,体重,大腿周径,fat-T,fat-EI,RFMT,RFEI,RFLR,VIMT,VIEI,VILRに有意な相関がみられた。重回帰分析の結果,筋力値に影響を与える有意な因子として身長,VIMTが抽出された。標準回帰係数は身長が0.57(p<0.001),VIMTが0.49(p<0.001)であった。筋力値の予測式は,[筋力値(Nm)=-585.1+3.95×身長(cm)+40.5×VIMT(cm),p<0.001]であり,その決定係数は0.67であった。
【考察】
級内相関係数で求めた輝度の信頼性は0.99であり,高い信頼性が認められた。本研究の結果より,膝関節伸展の最大筋力には身長および中間広筋の筋厚が影響することが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
臨床では膝関節周囲の疼痛や臥床状態などにより膝関節伸展筋力を測定することが困難な患者が多く見受けられる。そのような症例においても本研究における結果が応用できれば,非侵襲的に筋の量および質の評価が可能となると期待される。