[O-0509] 下腿筋機能と関節弛緩性の関係性の検討
Keywords:超音波診断装置, 関節弛緩性, 筋厚
【はじめに,目的】
近年,足関節外側靭帯損傷後の評価方法として超音波画像診断が注目されている。超音波診断装置は,筋や靭帯の描出ができ,動的な評価が可能な方法であるため,靭帯含め軟部組織の評価で特に有用とされている。
足関節外側靭帯損傷における再発の危険因子は,靭帯損傷による構造的不安定性,腓骨筋筋力の低下,腓骨筋反応時間の遅延,足関節の背屈制限,足関節背屈筋力の低下等がある。先行研究において下腿筋の評価としては,足部の等速性運動時の筋力や表面筋電計を用いた計測が行われている。しかし,足部の運動は主動作筋以外の補助筋の作用も大きく,個々の筋を対象に機能評価しているとは言い難い。
本研究は下腿筋の筋形態を超音波診断装置を用い評価することで,下腿筋機能と関節弛緩性との関係性を明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は過去1年以内に下肢の整形外科疾患を罹患していない20名40足とした。対象の内訳は男性:女性=32:8,年齢25.3±3.0歳であった。
下腿筋の評価には超音波画像診断装置Xario(東芝メディカルシステムズ(株)製)を使用,プローブはリニア型6.6-9.0(MHz)を用いた。下腿筋は,前脛骨筋(以下TA)と,腓骨筋(以下Pero)を対象とした。プローブを当てる位置はCroftsらの方法に従い,腓骨頭と外果を結んだ直線上においてTAは近位20%,Peroは近位50%の位置とした。運動課題は,TAが最大努力の足関節背屈運動を,Peroが,最大努力の足部外反運動を行うこととした。TA,Peroは羽状筋であり,その発揮筋力は,生理学的筋断面積と羽状角の余弦の積で仮定されるため,得られた画像より筋厚,羽状角を計測した。筋厚は下腿長で除し正規化した。距骨の前方引き出し距離(以下ADT距離)は,踵部を固定し,下腿を他動的に後方に押し込んだ際の腓骨に対する距骨の移動距離とした。
関節可動域は,足関節底屈・背屈,内転・外転を日本整形外科学会の定義に基づき徒手計測した。足関節底屈・背屈角度は,自動運動,他動運動の2条件で計測した。
全身関節弛緩性は中嶋らの方法を用い,脊柱,肩,肘,手,股,膝,足の7関節7点満点で評価した。
以上の計測データについてADT距離の結果を基に2群(高群,低群)に分けた。各群間における各項目の平均値の差の有無をMann-WhitneyのU検定を用い検証した。また,各々のデータにおける関係性はSpearmanの順位相関係数を用い検証した。有意水準は5%未満とした。
【結果】
2群間において,全身関節弛緩性は高群で有意に高かった(P<0.05)。TA筋厚増加量は高群(9.3±5.6)×10-3,低群(5.9±4.8)×10-3で有意差を認めた(P<0.05)。自動背屈角度(以下A背屈)は高群20.2±7.5度,低群15.6±6.9度で有意差を認めた(P<0.05)。他動背屈角度(以下P背屈)は高群25.7±7.4度,低群21.5±6.2度であり高群に背屈角度の増大傾向がみられた(P=0.06)。他の項目は2群間に有意差を認めなかった。
全対象において,A背屈とP背屈(相関係数r=0.89),A底屈とP底屈(相関係数r=0.83)で高い相関を認めた。他の項目間には相関を認めなかった。
【考察】
ADT距離増大が生じている群は,距腿関節の可動性が高く,背屈運動時に距骨が脛腓間内を滑りやすいため,有意に背屈角度が増大したと考えた。羽状角は有意差を認めなかったが,TA筋厚増加量で有意差を認めたことから考えて,生理学的筋断面積増加による発揮筋力の増大が生じていると考えた。これらの背屈角度の増大と発揮筋力の増大は,ADT距離増大を生じている者が高い足関節背屈機能を有していることを示唆した。すなわち,距腿関節の可動性は足関節背屈機能と関係性があると考えられる。
足関節背屈機能が低いものは全身関節弛緩性が低いことが示された。また,他動可動域制限は自動可動域制限を招くと考えられる。つまり,足関節靭帯損傷の再発予防のためには,他動足関節背屈角度だけでなく全身関節弛緩性も考慮し検討する必要性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
今後は,足関節外側靭帯損傷の程度による分類を用いた評価が必要になると考える。そして,今回の結果を踏まえ下腿筋の評価を行うことで足関節外側靭帯損傷の再発における筋機能の影響を知る一助になると考える。
近年,足関節外側靭帯損傷後の評価方法として超音波画像診断が注目されている。超音波診断装置は,筋や靭帯の描出ができ,動的な評価が可能な方法であるため,靭帯含め軟部組織の評価で特に有用とされている。
足関節外側靭帯損傷における再発の危険因子は,靭帯損傷による構造的不安定性,腓骨筋筋力の低下,腓骨筋反応時間の遅延,足関節の背屈制限,足関節背屈筋力の低下等がある。先行研究において下腿筋の評価としては,足部の等速性運動時の筋力や表面筋電計を用いた計測が行われている。しかし,足部の運動は主動作筋以外の補助筋の作用も大きく,個々の筋を対象に機能評価しているとは言い難い。
本研究は下腿筋の筋形態を超音波診断装置を用い評価することで,下腿筋機能と関節弛緩性との関係性を明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は過去1年以内に下肢の整形外科疾患を罹患していない20名40足とした。対象の内訳は男性:女性=32:8,年齢25.3±3.0歳であった。
下腿筋の評価には超音波画像診断装置Xario(東芝メディカルシステムズ(株)製)を使用,プローブはリニア型6.6-9.0(MHz)を用いた。下腿筋は,前脛骨筋(以下TA)と,腓骨筋(以下Pero)を対象とした。プローブを当てる位置はCroftsらの方法に従い,腓骨頭と外果を結んだ直線上においてTAは近位20%,Peroは近位50%の位置とした。運動課題は,TAが最大努力の足関節背屈運動を,Peroが,最大努力の足部外反運動を行うこととした。TA,Peroは羽状筋であり,その発揮筋力は,生理学的筋断面積と羽状角の余弦の積で仮定されるため,得られた画像より筋厚,羽状角を計測した。筋厚は下腿長で除し正規化した。距骨の前方引き出し距離(以下ADT距離)は,踵部を固定し,下腿を他動的に後方に押し込んだ際の腓骨に対する距骨の移動距離とした。
関節可動域は,足関節底屈・背屈,内転・外転を日本整形外科学会の定義に基づき徒手計測した。足関節底屈・背屈角度は,自動運動,他動運動の2条件で計測した。
全身関節弛緩性は中嶋らの方法を用い,脊柱,肩,肘,手,股,膝,足の7関節7点満点で評価した。
以上の計測データについてADT距離の結果を基に2群(高群,低群)に分けた。各群間における各項目の平均値の差の有無をMann-WhitneyのU検定を用い検証した。また,各々のデータにおける関係性はSpearmanの順位相関係数を用い検証した。有意水準は5%未満とした。
【結果】
2群間において,全身関節弛緩性は高群で有意に高かった(P<0.05)。TA筋厚増加量は高群(9.3±5.6)×10-3,低群(5.9±4.8)×10-3で有意差を認めた(P<0.05)。自動背屈角度(以下A背屈)は高群20.2±7.5度,低群15.6±6.9度で有意差を認めた(P<0.05)。他動背屈角度(以下P背屈)は高群25.7±7.4度,低群21.5±6.2度であり高群に背屈角度の増大傾向がみられた(P=0.06)。他の項目は2群間に有意差を認めなかった。
全対象において,A背屈とP背屈(相関係数r=0.89),A底屈とP底屈(相関係数r=0.83)で高い相関を認めた。他の項目間には相関を認めなかった。
【考察】
ADT距離増大が生じている群は,距腿関節の可動性が高く,背屈運動時に距骨が脛腓間内を滑りやすいため,有意に背屈角度が増大したと考えた。羽状角は有意差を認めなかったが,TA筋厚増加量で有意差を認めたことから考えて,生理学的筋断面積増加による発揮筋力の増大が生じていると考えた。これらの背屈角度の増大と発揮筋力の増大は,ADT距離増大を生じている者が高い足関節背屈機能を有していることを示唆した。すなわち,距腿関節の可動性は足関節背屈機能と関係性があると考えられる。
足関節背屈機能が低いものは全身関節弛緩性が低いことが示された。また,他動可動域制限は自動可動域制限を招くと考えられる。つまり,足関節靭帯損傷の再発予防のためには,他動足関節背屈角度だけでなく全身関節弛緩性も考慮し検討する必要性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
今後は,足関節外側靭帯損傷の程度による分類を用いた評価が必要になると考える。そして,今回の結果を踏まえ下腿筋の評価を行うことで足関節外側靭帯損傷の再発における筋機能の影響を知る一助になると考える。