第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述68

人体構造・機能情報学2

Sat. Jun 6, 2015 3:00 PM - 4:00 PM 第9会場 (ガラス棟 G409)

座長:前島洋(北海道大学 大学院保健科学研究院 機能回復学分野)

[O-0515] 脳出血後のスキルトレーニングがAMPA受容体サブユニットと興奮性および抑制性ニューロンに与える影響

玉越敬悟1,2,3, 川中健太郎4, 大西秀明1,2, 高松泰行3, 石田和人3 (1.新潟医療福祉大学医療技術学部理学療法学科, 2.新潟医療福祉大学運動機能医科学研究所, 3.名古屋大学大学院医学系研究科, 4.新潟医療福祉大学健康科学部健康栄養学科)

Keywords:脳出血, スキルトレーニング, AMPA受容体

【はじめに,目的】
これまでに脳出血後のスキルトレーニングは,PSD95タンパクの発現量を増加させ,運動機能回復を促進させることを報告した。PSD95はAMPA受容体の足場タンパクであり,そのAMPA受容体はシナプス可塑性に関わる長期増強の役割を担っていることから,スキルトレーニングによる運動機能回復の促進にはAMPA受容体が関与している可能性が高い。また,運動学習による脳地図の再組織化には,興奮性ニューロンと抑制性ニューロンが関与していることが報告されている。そこで本研究では,脳出血後のスキルトレーニングが,大脳皮質感覚運動野におけるAMPA受容体サブユニットと興奮性および抑制性ニューロンに与える影響について検討した。
【方法】
実験動物にはWistar系雄性ラット(250~270 g)を用いた。対象を無作為に非運動群(ICH群;n=6)とスキルトレーニング群(ICH+AT群;n=6)の2群に分けた。脳出血モデルは,深麻酔下にて,頭頂部の皮膚を切開し,頭蓋骨表面のブレグマから左外側3.0 mm,前方0.2 mmの位置に小穴をあけ,マイクロインジェクションポンプにつないだカニューレを頭蓋骨表面から6.0 mmの深さまで挿入し,コラゲナーゼ(200 U/ml,1.2 ul)を注入して作製した。スキルトレーニング群は,全身の協調運動,運動学習が必要なトレーニングとしてアクロバッティック課題を実施した。トレーニング内容は,格子台,縄梯子,綱渡り,平行棒,障壁の5課題で各コース長1 mを移動させた。介入は,術後4~28日まで,1日4回実施した。ただし,術後4~6日の介入には必要最低限の補助を加えた。感覚運動機能評価はmodified limb placingとpostural instability testを用いて経時的に実施した。脳出血後29日目に深麻酔下で潅流脱血を行い,両側の大脳皮質感覚運動野を採取した。リアルタイムPCR(ABI 7300 PCR system)を用いて,AMPA受容体サブユニットであるGluR1,GluR2,GluR3,GluR4のmRNA発現量を解析した。また,興奮性ニューロンの活動指標として小胞性グルタミン酸トランスポーター(vGlut1),抑制性ニューロンの活動指標としてグルタミン酸脱水素酵素(GAD67)のmRNA発現量を解析した。
【結果】
運動機能評価のmodified limb placingとpostural instability testにおいてICH+AT群はICH群より早期から有意な改善を示した(P<0.05)。AMPA受容体サブユニットのmRNA発現量解析で,傷害側感覚運動野におけるICH+AT群のGluR1,2,3,4 mRNA発現量がICH群より有意に高値を示した(P<0.05)。非傷害側感覚運動野では,ICH+AT群のGluR1,2 mRNA発現量がICH群より有意に高値を示した(P<0.05)。また,ICH群のGluR3,4 mRNA発現量がICH+AT群より有意に高値を示した(P<0.05)。vGtut1とGAD67のmRNA発現量解析で,両側感覚運動野におけるICH+AT群のvGlut1とGAD67のmRNA発現量がICH群より有意に高値を示した(P<0.05)。
【考察】
脳出血後のスキルトレーニングは感覚運動機能の回復を促進させる効果があることが分かった。これは,傷害側の大脳皮質感覚運動野におけるAMPA受容体の全サブユニットの増加と,興奮性ニューロンと抑制性ニューロンの活動増大が寄与していると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,脳卒中後の運動療法としてスキルトレーニングが科学的根拠に基づいて有効な治療法であることを示した。スキルトレーニングの更なる作用機序を解明することで効率的かつ効果的な治療開発に貢献できると考えられる。