第50回日本理学療法学術大会

講演情報

口述

口述69

地域理学療法6

2015年6月6日(土) 15:00 〜 16:00 第10会場 (ガラス棟 G602)

座長:養老栄樹(社会福祉法人 小平市社会福祉協議会 あおぞら福祉センター 機能訓練「歩」)

[O-0519] 慢性疼痛を有する地域在住高齢者における遂行機能と痛みの強度・痛みの恐怖との関連

村田峻輔1, 中津伸之1, 澤龍一1, 三栖翔吾1,2, 上田雄也1, 斎藤貴1, 杉本大貴1, 中村凌1, 小野玲1 (1.神戸大学大学院保健学研究科, 2.神戸市民機構神戸市立医療センター西市民病院)

キーワード:地域在住高齢者, 慢性疼痛, 遂行機能

【はじめに,目的】
高齢者の慢性疼痛の有病率は65%程度と報告されており,多くの高齢者が痛みを抱えつつ日々の生活を営んでいる。慢性疼痛を有する高齢者では,痛みの強度が重要であると考えられており,痛みの強度が高い高齢者はQuality of Lifeが低く,その後の転倒リスクが高くなるなど様々な健康上の問題を呈すと報告されている。加えて,高齢者では痛みの恐怖も重要であるとされており,変形性膝関節症患者において痛みの恐怖が高い者は低い者と比べて,身体機能が低いと報告されている。痛みの強度と痛みの恐怖は慢性疼痛を有する高齢者の健康状態に関わる重要な因子であり,これらの関連因子を明らかにする必要がある。近年,慢性疼痛の予測因子として,遂行機能が重要であることが指摘されている。入院患者を対象とした先行研究において,術前に遂行機能が低い者は術後に慢性疼痛を発症しやすく,また痛みの強度も高くなると報告されている。高齢者においては,遂行機能と痛みの関連を調査した研究はいくつか見られるものの,一貫した結果は得られておらず,関連性は未だ明らかになっていない。加えて,地域在住高齢者において遂行機能と痛みの恐怖との関連を調査した研究は見られない。そこで本研究の目的を,慢性疼痛を有する地域在住高齢者において遂行機能と痛みの強度・恐怖との関連を調査することとした。
【方法】
60歳以上の地域在住高齢者242名のうち,データに欠損のある者,Mini-Mental State Examination(MMSE)が24点未満である者を除いた194名から,加えて3か月以上痛みが持続している慢性疼痛を有する者105名(女性78名,平均年齢74.0±6.6歳)を抽出し,本研究の対象者とした。遂行機能の指標であるDigit Symbol Substitution Test(DSST),痛みの主観的強度を示す指標であるNumeric Rating Scale(NRS),痛みの恐怖の指標であるTampa Scale for Kinesiophobia(TSK)を測定した。その他に年齢,性別,教育歴,服薬数,鎮痛薬の有無,抑うつの指標であるGeriatric Depression Scale(GDS)を測定した。なお,痛みを複数箇所に有している対象者に関してはNRS,痛みの期間それぞれについて最も大きい数値を採用した。統計解析に関しては,NRS,TSKそれぞれとDSSTとの関連を示すためにSpearmanの順位相関係数,Pearsonの積率相関係数を算出した。その後,目的変数をNRS,TSK,説明変数をDSSTとした重回帰分析をそれぞれ行った。なお,調整変数としては年齢,性別,服薬数,鎮痛薬の有無,教育歴,MMSE,GDSに加えて,目的変数がNRSの際はTSKを,TSKの際はNRSをそれぞれ用いた。統計学的有意水準は5%未満とした。
【結果】
単変量解析ではNRSとDSST,TSKとDSSTそれぞれの間において有意な関連が認められた(NRS;ρ=-0.27,p<0.01,TSK;r=-0.24,p<0.05)。重回帰分析においてもNRSとDSST,TSKとDSSTそれぞれの間に有意な関連が認められた(NRS;標準β=-0.30,p<0.05,R2=0.16,TSK;標準β=-0.25,p<0.05,R2=0.26)。
【考察】
本研究の結果より,地域在住高齢者において遂行機能が低い者は痛みの強度が高く,痛みの恐怖も高いことが示された。入院患者を対象とした先行研究において,全人工膝関節置換術及び乳がん手術前の遂行機能が低い者は,術後の痛みの強度が高かったと報告されており,本研究の結果も同様の傾向を示した。遂行機能と痛みに関連が見られる理由として,遂行機能を主に担っている背外側前頭前野が,同時に下降性疼痛抑制機構の働きを有することが考えられる。遂行機能が低下している者は,背外側前頭前野の機能が低下しており,それにより痛みを抑制する機能も同時に低下している可能性がある。本研究は横断研究であるため,因果関係に関しては不明であるが,遂行機能が向上することで同時に痛みの強度と痛みの恐怖が軽減する可能性が考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
遂行機能が痛みの強度や痛みの恐怖に関連することが示され,慢性疼痛を有する高齢者の遂行機能を改善することで,同時に痛みの強度・恐怖も改善することができる可能性を示すことができた。高齢者の健康寿命の延伸に寄与する可能性がある。