[O-0520] 地域在住高齢者の“Disabling Foot Pain”の実態に関する疫学的調査
第2報 足部痛および“Disabling Foot Pain”の発生率と関連因子に関する分析
キーワード:地域在住高齢者, Disabling Foot Pain, 疫学調査
【はじめに,目的】
我々は第49回本大会において,地域在住高齢者の足部痛とDisabling Foot Pain(足部痛に関連する能力障害。以下,DFP)の高い存在率(有症率)のについて報告した。本研究の目的は地域在住高齢者コホートを8か月間追跡し,足部痛とDFPの発生率(Incident)とその危険因子を検証することである。
【方法】
松戸地域高齢者コホート研究の一部として実施した。調査対象者は,松戸地域高齢者コホート(3000名)のうち,第1次調査(ベースライン調査)と第2次調査(追跡調査)の2回の調査への参加を完遂した347名の高齢者(第1次調査時年齢65~84歳,男性213名,女性134名)であった。
第1次調査は郵送アンケート調査を実施した。調査内容は人口統計学的指標(年齢,性別,婚姻歴,教育歴,暮らし向き),生活習慣(BMI,飲酒,喫煙),足部痛(過去1か月間において1日以上持続する疼痛)の有無,DFPの有無(日本語版Manchester Foot Pain and Disability Index;以下MFPDI-Jにより判定),腰痛,膝痛の有無,転倒歴の有無,足部の自覚症状の有無(皮膚の色調不良,異常感覚,関節可動域制限,足・爪白癬,肥厚爪・巻爪など14項目の自覚症状の有無),GDS,老研式活動能力指標であった。第2次調査は第1次調査の8か月後に対面アンケート調査を実施し,足部痛の有無,DFPの有無(MFPDI-J)を尋ねた。
第1次調査と第2次調査の結果から足部痛の発症率(%/年),DFPの発症率(%/年)を求めた。さらに,追跡期間中のDFPの変化から,DFPなし群,DFP不変群,DFP改善群,DFP発生群に分け,人口統計学的指標,転倒歴,腰痛,膝痛,足部の自覚症状の有無,GDS,老研式活動能力指標を群間比較した。統計処理はSPSS21.0J(IBM社)を使用しGDS得点,老研式活動能力指標についてはKruskal-Wallis検定を,その他の変数についてはχ2乗検定を行った。
【結果】
足部痛発症率は24.5%/年,DFP発生率は24.3%/年であった。
DFP発生状況は,DFPなし群245名(70.6%),不変群8名(2.3%),改善群48名(13.8%),発生群46名(13.3%)であった。
群間比較では,性差(χ2=0.73),年齢階級(χ2=2.16),飲酒の有無(χ2=3.63),喫煙の有無(χ2=5.24),婚姻歴の有無(χ2=4.61),教育歴(χ2=9.15),暮らし向きの良し悪し(χ2=15.67)については4群間における出現率の差はなかった。肥満度(やせ・標準・肥満)も各群における出現率に有意な差はなかった(χ2=8.92)。
1年以内の転倒歴の有無(χ2=8.63,p<0.05),腰痛の有無(χ2=17.778,p<0.01),膝痛の有無(χ2=34.68,p<0.01)はそれぞれ各群における出現率に有意な差があった。
足部自覚症状の有無では,むずむず足症(χ2=32.5,p<0.01),皮膚の色調不良(χ2=13.52,p<0.05),足部関節可動域制限(χ2=52.39,p<0.01),感覚障害(χ2=23.73,p<0.01),鉤指(χ2=20.41,p<0.01),関節症(χ2=55.02,p<0.01),胼胝・鶏眼(χ2=10.35,p<0.05),バニオン(χ2=14.92,p<0.05),外反母趾(χ2=14.61,p<0.05)の有無が各群において出現率に差があり,一方,扁平足(χ2=2.58),凹足(χ2=1.71),足白癬・爪白癬(χ2=4.14),肥厚爪・巻爪(χ2=7.46)の有無の出現率は各群で差がなかった。
老研式活動能力指標,GDSについては4群間に有意な差はなかった(漸近有意確率;老研式p=0.65,GDS=0.24)。
【考察】
慢性痛については人口統計学的指標や過体重が疼痛の発生や持続に影響することを指摘する先行研究も多いが,本研究のサンプルにおいてはDFPの発生と人口統計学的指標ならびに過体重の間には有意な関連はなかった。DFPの発生には,転倒歴の有無,足部の循環障害(色調不良),神経障害(むずむず足,感覚障害),変形(鉤指,外反母趾,バニオン),関節障害(関節症,可動域制限),皮膚の異常(胼胝・鶏眼)といった多様な自覚症状が影響していた。したがって,高齢者の足部痛やDFPに起因する生活機能障害を予防するには,足部変形や関節機能の評価といった運動器障害だけでなく,転倒歴に代表される歩行能力や皮膚科系症候を含む足部症状のスクリーニングが重要であることが示唆された。
今後はさらにDFPの改善因子を精査し,DFPの効果的な予防法の解明が求められる。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,地域在住高齢者の足部痛とDFPの実態を調べた我が国初の縦断疫学調査である。DFPによる生活機能低下を予防する理学療法の介入手法を確立するうえで極めて重要な基礎資料を提供するものである。
我々は第49回本大会において,地域在住高齢者の足部痛とDisabling Foot Pain(足部痛に関連する能力障害。以下,DFP)の高い存在率(有症率)のについて報告した。本研究の目的は地域在住高齢者コホートを8か月間追跡し,足部痛とDFPの発生率(Incident)とその危険因子を検証することである。
【方法】
松戸地域高齢者コホート研究の一部として実施した。調査対象者は,松戸地域高齢者コホート(3000名)のうち,第1次調査(ベースライン調査)と第2次調査(追跡調査)の2回の調査への参加を完遂した347名の高齢者(第1次調査時年齢65~84歳,男性213名,女性134名)であった。
第1次調査は郵送アンケート調査を実施した。調査内容は人口統計学的指標(年齢,性別,婚姻歴,教育歴,暮らし向き),生活習慣(BMI,飲酒,喫煙),足部痛(過去1か月間において1日以上持続する疼痛)の有無,DFPの有無(日本語版Manchester Foot Pain and Disability Index;以下MFPDI-Jにより判定),腰痛,膝痛の有無,転倒歴の有無,足部の自覚症状の有無(皮膚の色調不良,異常感覚,関節可動域制限,足・爪白癬,肥厚爪・巻爪など14項目の自覚症状の有無),GDS,老研式活動能力指標であった。第2次調査は第1次調査の8か月後に対面アンケート調査を実施し,足部痛の有無,DFPの有無(MFPDI-J)を尋ねた。
第1次調査と第2次調査の結果から足部痛の発症率(%/年),DFPの発症率(%/年)を求めた。さらに,追跡期間中のDFPの変化から,DFPなし群,DFP不変群,DFP改善群,DFP発生群に分け,人口統計学的指標,転倒歴,腰痛,膝痛,足部の自覚症状の有無,GDS,老研式活動能力指標を群間比較した。統計処理はSPSS21.0J(IBM社)を使用しGDS得点,老研式活動能力指標についてはKruskal-Wallis検定を,その他の変数についてはχ2乗検定を行った。
【結果】
足部痛発症率は24.5%/年,DFP発生率は24.3%/年であった。
DFP発生状況は,DFPなし群245名(70.6%),不変群8名(2.3%),改善群48名(13.8%),発生群46名(13.3%)であった。
群間比較では,性差(χ2=0.73),年齢階級(χ2=2.16),飲酒の有無(χ2=3.63),喫煙の有無(χ2=5.24),婚姻歴の有無(χ2=4.61),教育歴(χ2=9.15),暮らし向きの良し悪し(χ2=15.67)については4群間における出現率の差はなかった。肥満度(やせ・標準・肥満)も各群における出現率に有意な差はなかった(χ2=8.92)。
1年以内の転倒歴の有無(χ2=8.63,p<0.05),腰痛の有無(χ2=17.778,p<0.01),膝痛の有無(χ2=34.68,p<0.01)はそれぞれ各群における出現率に有意な差があった。
足部自覚症状の有無では,むずむず足症(χ2=32.5,p<0.01),皮膚の色調不良(χ2=13.52,p<0.05),足部関節可動域制限(χ2=52.39,p<0.01),感覚障害(χ2=23.73,p<0.01),鉤指(χ2=20.41,p<0.01),関節症(χ2=55.02,p<0.01),胼胝・鶏眼(χ2=10.35,p<0.05),バニオン(χ2=14.92,p<0.05),外反母趾(χ2=14.61,p<0.05)の有無が各群において出現率に差があり,一方,扁平足(χ2=2.58),凹足(χ2=1.71),足白癬・爪白癬(χ2=4.14),肥厚爪・巻爪(χ2=7.46)の有無の出現率は各群で差がなかった。
老研式活動能力指標,GDSについては4群間に有意な差はなかった(漸近有意確率;老研式p=0.65,GDS=0.24)。
【考察】
慢性痛については人口統計学的指標や過体重が疼痛の発生や持続に影響することを指摘する先行研究も多いが,本研究のサンプルにおいてはDFPの発生と人口統計学的指標ならびに過体重の間には有意な関連はなかった。DFPの発生には,転倒歴の有無,足部の循環障害(色調不良),神経障害(むずむず足,感覚障害),変形(鉤指,外反母趾,バニオン),関節障害(関節症,可動域制限),皮膚の異常(胼胝・鶏眼)といった多様な自覚症状が影響していた。したがって,高齢者の足部痛やDFPに起因する生活機能障害を予防するには,足部変形や関節機能の評価といった運動器障害だけでなく,転倒歴に代表される歩行能力や皮膚科系症候を含む足部症状のスクリーニングが重要であることが示唆された。
今後はさらにDFPの改善因子を精査し,DFPの効果的な予防法の解明が求められる。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,地域在住高齢者の足部痛とDFPの実態を調べた我が国初の縦断疫学調査である。DFPによる生活機能低下を予防する理学療法の介入手法を確立するうえで極めて重要な基礎資料を提供するものである。