第50回日本理学療法学術大会

講演情報

口述

口述69

地域理学療法6

2015年6月6日(土) 15:00 〜 16:00 第10会場 (ガラス棟 G602)

座長:養老栄樹(社会福祉法人 小平市社会福祉協議会 あおぞら福祉センター 機能訓練「歩」)

[O-0522] 地域在住高齢者における動脈硬化と領域特異的認知機能の関連

杉本大貴1, 三栖翔吾1,2, 澤龍一1, 上田雄也1,3, 中津伸之1, 斎藤貴1, 中村凌1, 村田峻輔1, 小野玲1 (1.神戸大学大学院保健学研究科, 2.神戸市立医療センター西市民病院, 3.神戸大学医学部附属病院)

キーワード:動脈硬化, 課題遂行能力, 認知機能

【はじめに,目的】
認知機能低下のリスク要因として動脈硬化が指摘されつつある。しかし,動脈硬化を測定する指標である,脈波伝播速度(pulse wave velocity:PWV)は,測定時の血圧に依存することや四肢加圧による筋性血管反射により大動脈の痙攣が生じるなどの問題点があるので,動脈硬化と認知機能低下が真に関係があるのかは未だ明らかとは言えない。それらの問題点を解決する動脈硬化指標として心臓足首血管指数(cardio-ankle vascular index:CAVI)が注目されている。CAVIと認知機能との関連性については,全般的認知機能について報告されている。近年,全般的認知機能よりも遂行機能などの領域特異的認知機能がその後の身体機能の低下と関連することが報告されているが,CAVIと領域特異的認知機能については未だ明らかでない。本研究の目的は,地域在住高齢者において,CAVIで測定した動脈硬化と領域特異的認知機能との関連を検討することである。
【方法】
本研究の解析対象者は,我々が主催する測定会に参加した地域在住高齢者140名のうち60歳未満の者,Mini-Mental State Examination(以下,MMSE)24点未満の者,脳卒中の既往のある者,閉塞性動脈硬化症の疑いがある者,データ欠損がある者を除いた105名(男性33名,女性72名,平均73.8±6.2歳)とした。動脈硬化指標としてCAVI,全般的認知機能としてMMSE,注意機能・課題遂行能力としてTrail making test A,B(以下,TMT-A,B)の遂行時間とDigit Symbol Substitution Test(以下,DSST)の2分間の正当数を測定した。また意味記憶,言語流暢性の指標として,Category Word Fluency Test(以下,CWFT)とLetter Word Fluency Test(以下,LWFT)の1分間の回答数を測定した。対象者をCAVIの値により,Arterial Stiffness(+)群(CAVI≧10)とArterial Stiffness(-)群(CAVI<10)に分類した(以下,AS(+)群,AS(-)群)。統計解析は,AS(+)群とAS(-)群の間で各認知機能に差があるかどうかを対応のないt検定あるいはMann-Whitney U検定を用いて検討した。2群間で有意な差が認められた認知機能については,それぞれの認知機能を目的変数とし,動脈硬化を説明変数,年齢,性別,Body mass index,教育年数を調整変数とした重回帰分析を実施した。各統計指標は5%未満を有意とした。
【結果】
解析対象者はAS(+)群33名,AS(-)群72名であった。単変量解析においてAS(+)群はAS(-)群と比較して,TMT-AとTMT-Bの遂行時間が長く(TMT-A;80.5[最大-最小:165.0-47.3]vs. 69.7[最大-最小:154.7-36.2],p<.05),(TMT-B;140.2[最大-最小:640.0-59.5]vs. 100.2[最大-最小:260.2-40.8],p<.05),DSSTの正当数が少なく(53.2±15.1 vs. 64.2±17.2,p<.001),LWFTの回答数が少なかった(9.7[最大-最小:17-4]vs. 12.9[最大-最小:22-4],p<.001)。各認知機能を目的変数,説明変数に動脈硬化とし,年齢,性別,BMI,教育年数で調整した多変量解析において,動脈硬化はTMT-Bの遂行時間(β=0.23,p<0.05)およびLWFTの回答数(β=-0.29,p<0.01)との有意な関連が認められた。
【考察】
本研究において,CAVIにより測定された動脈硬化とTMT-B,LWFTとの関連が示された。TMT-Bは,注意機能や視覚探索能力に加えて概念の変換能力を必要とし,課題遂行能力検査として使用されている。また,CWFTが側頭葉に依存した検査であるとされているのに対して,LWFTは語彙の意味を抑制しながら頭文字から語を検索する知的柔軟性を必要とし,前頭葉に依存した検査であると考えられている。したがって,本研究の結果より,動脈硬化が課題遂行能力および前頭葉機能と関連している可能性が示唆された。動脈硬化と認知機能との関連の背景には,白質病変などの脳の虚血性変化が関与していると考えられている。動脈硬化と白質病変の局在について検討された報告では,動脈硬化は,課題遂行や情報処理をつかさどる左上縦束における白質病変の容積と関連していることが明らかにされ,本研究における動脈硬化とTMT-B,LWFTとの関連においても白質病変などの脳の病的変化の影響が考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
本研究において動脈硬化は課題遂行能力および前頭葉機能と関連していることが示された。有酸素運動による定期的な運動は動脈硬化を予防させるため,適切な運動による動脈硬化予防により認知機能低下が予防できることが示唆された。