[O-0524] 地域在住後期高齢女性の認知機能が1年後の外出頻度に及ぼす影響
Keywords:外出頻度, 認知機能, 閉じこもり
【はじめに,目的】
高齢者の閉じこもりは,外出頻度の低下および生活空間の狭小化が深刻に進んだ状態であり,要介護状態や寝たきりへの移行リスクが高いことが知られている。近年では,介護予防施策としての閉じこもり対策が講じられており,高齢者の積極的な外出行動を維持・促進することは重要な課題とされている。
高齢期における閉じこもりは,移動能力に何らかの障害があるために外出が困難な場合と,移動能力は保たれているにも関わらず外出しようとしない場合の2種類に分けられるとされている。特に,後者の閉じこもりを予防するために必要な機能には,服装・荷物を準備する,公共交通機関の時刻を調べる,お金を支払うなどの手段的日常生活動作能力が含まれるため,基本的な認知機能が維持されている必要がある。これまで,外出頻度の低下や閉じこもりの発生と認知症リスクについての議論は多くなされてきたが,認知機能が外出頻度の変化に及ぼす影響は十分に検討されていない。
本研究は,地域に自立して生活する後期高齢女性の認知機能に焦点を当て,1年後の外出頻度の変化について縦断的に分析することを目的とした。
【方法】
対象は,2012年11月と2013年11月の2度の調査に参加した,地域在住後期高齢女性57名(平均年齢78.6±3.4歳)とした。なお,歩行または日常生活動作に介助を要する者,脳神経疾患の既往を持つ者,およびMini Mental State Examinationで20点未満の者は分析から除外した。ベースライン調査では,対象者の基本情報に加え,日常の外出頻度を0~7(日/週)の8段階で聴取した。なお,本研究で扱う外出は,“仕事や買い物,通院などで家の外に出る回数”とし,庭先程度の外出は除外した。また,運動機能として握力,膝伸展筋力,および歩行速度を測定した。認知機能は,National Center for Geriatrics and Gerontology functional assessment toolを用い,単語の遅延再生,物語の遅延再認,改訂版Trail making test part AおよびB(TMT-A,B),Symbol digit substitution task(SDST)を測定した。ベースライン調査から1年後に,再び日常の外出頻度について聴取し,1年間で外出頻度が1(日/週)以上低下した者を低下群,その他の者を維持向上群として対象者を2群に分類した。
統計解析は,対応のないt検定およびMann-Whitney検定を用いて,ベースラインの特性を群間で比較した。その後,ベースラインの各変数を独立変数,年齢および教育年数を共変量,1年後の外出頻度低下の有無を従属変数としたロジスティック回帰分析を実施した。なお,有意水準は5%未満とした。
【結果】
ベースライン調査における外出頻度は,週0日が0名,週1日が1名,週2日が7名,週3日が12名,週4日が10名,週5日が9名,週6日が8名,週7日が10名であった。57名の対象者のうち,1年間で外出頻度が低下した者は23名(40.4%),維持または向上した者は34名(59.6%)であった。低下群は維持向上群と比較して,TMT-Bの所要時間が有意に長く(p<0.01),SDSTの得点が有意に低かった(p<0.01)。その他の変数に群間差はなかった。ロジスティック回帰分析の結果,1年後の外出頻度の維持向上に対するオッズ比は,TMT-Bの所要時間で0.94(95%信頼区間:0.90-0.98,p<0.01),SDSTの得点で1.11(95%信頼区間:1.02-1.21,p<0.05)であった。
【考察】
対象者の約40%に1年間で外出頻度の低下が認められたことから,自立した日常生活を送る高齢者に対しても外出行動を支援することの重要性が確認された。また,共変量で調節した上で認知機能が1年後の外出頻度に影響したことから,外出頻度を高いレベルで維持するためには,認知機能を維持することも重要な要因であると考えられた。特に,TMT-BおよびSDSTは遂行機能や処理速度を反映する検査であり,外出行動にはこれらの領域の認知機能が重要な役割を果たす可能性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
この研究は,地域在住高齢者の外出頻度低下に関わる要因について,認知機能を領域別に評価して縦断的に分析したものである。本研究で得られた結果は,理学療法士による地域での介護予防活動において,高齢者の積極的な外出行動を維持・促進するために,運動機能のみならず遂行機能や処理速度といった認知機能も考慮すべき必要性を示しており,閉じこもり予防のための知見を補完するものであると考える。
高齢者の閉じこもりは,外出頻度の低下および生活空間の狭小化が深刻に進んだ状態であり,要介護状態や寝たきりへの移行リスクが高いことが知られている。近年では,介護予防施策としての閉じこもり対策が講じられており,高齢者の積極的な外出行動を維持・促進することは重要な課題とされている。
高齢期における閉じこもりは,移動能力に何らかの障害があるために外出が困難な場合と,移動能力は保たれているにも関わらず外出しようとしない場合の2種類に分けられるとされている。特に,後者の閉じこもりを予防するために必要な機能には,服装・荷物を準備する,公共交通機関の時刻を調べる,お金を支払うなどの手段的日常生活動作能力が含まれるため,基本的な認知機能が維持されている必要がある。これまで,外出頻度の低下や閉じこもりの発生と認知症リスクについての議論は多くなされてきたが,認知機能が外出頻度の変化に及ぼす影響は十分に検討されていない。
本研究は,地域に自立して生活する後期高齢女性の認知機能に焦点を当て,1年後の外出頻度の変化について縦断的に分析することを目的とした。
【方法】
対象は,2012年11月と2013年11月の2度の調査に参加した,地域在住後期高齢女性57名(平均年齢78.6±3.4歳)とした。なお,歩行または日常生活動作に介助を要する者,脳神経疾患の既往を持つ者,およびMini Mental State Examinationで20点未満の者は分析から除外した。ベースライン調査では,対象者の基本情報に加え,日常の外出頻度を0~7(日/週)の8段階で聴取した。なお,本研究で扱う外出は,“仕事や買い物,通院などで家の外に出る回数”とし,庭先程度の外出は除外した。また,運動機能として握力,膝伸展筋力,および歩行速度を測定した。認知機能は,National Center for Geriatrics and Gerontology functional assessment toolを用い,単語の遅延再生,物語の遅延再認,改訂版Trail making test part AおよびB(TMT-A,B),Symbol digit substitution task(SDST)を測定した。ベースライン調査から1年後に,再び日常の外出頻度について聴取し,1年間で外出頻度が1(日/週)以上低下した者を低下群,その他の者を維持向上群として対象者を2群に分類した。
統計解析は,対応のないt検定およびMann-Whitney検定を用いて,ベースラインの特性を群間で比較した。その後,ベースラインの各変数を独立変数,年齢および教育年数を共変量,1年後の外出頻度低下の有無を従属変数としたロジスティック回帰分析を実施した。なお,有意水準は5%未満とした。
【結果】
ベースライン調査における外出頻度は,週0日が0名,週1日が1名,週2日が7名,週3日が12名,週4日が10名,週5日が9名,週6日が8名,週7日が10名であった。57名の対象者のうち,1年間で外出頻度が低下した者は23名(40.4%),維持または向上した者は34名(59.6%)であった。低下群は維持向上群と比較して,TMT-Bの所要時間が有意に長く(p<0.01),SDSTの得点が有意に低かった(p<0.01)。その他の変数に群間差はなかった。ロジスティック回帰分析の結果,1年後の外出頻度の維持向上に対するオッズ比は,TMT-Bの所要時間で0.94(95%信頼区間:0.90-0.98,p<0.01),SDSTの得点で1.11(95%信頼区間:1.02-1.21,p<0.05)であった。
【考察】
対象者の約40%に1年間で外出頻度の低下が認められたことから,自立した日常生活を送る高齢者に対しても外出行動を支援することの重要性が確認された。また,共変量で調節した上で認知機能が1年後の外出頻度に影響したことから,外出頻度を高いレベルで維持するためには,認知機能を維持することも重要な要因であると考えられた。特に,TMT-BおよびSDSTは遂行機能や処理速度を反映する検査であり,外出行動にはこれらの領域の認知機能が重要な役割を果たす可能性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
この研究は,地域在住高齢者の外出頻度低下に関わる要因について,認知機能を領域別に評価して縦断的に分析したものである。本研究で得られた結果は,理学療法士による地域での介護予防活動において,高齢者の積極的な外出行動を維持・促進するために,運動機能のみならず遂行機能や処理速度といった認知機能も考慮すべき必要性を示しており,閉じこもり予防のための知見を補完するものであると考える。