第50回日本理学療法学術大会

講演情報

口述

口述70

スポーツ・評価

2015年6月6日(土) 15:00 〜 16:00 第11会場 (ガラス棟 G610)

座長:小尾伸二(山梨大学医学部附属病院 リハビリテーション部), 竹村雅裕(筑波大学体育系)

[O-0526] 競泳ストリームライン姿勢での立位脊柱アライメント

非競泳選手と大学競泳選手との比較

鈴木雄太1, 浦辺幸夫2, 前田慶明2, 山本圭彦2, 森山信彰2, 河原大陸2, 森田美穂1 (1.広島大学医学部保健学科, 2.広島大学大学院医歯薬保健学研究科)

キーワード:競泳ストリームライン, 脊柱アライメント, 上肢挙上角度

【はじめに,目的】

競泳選手に発生する障害の特徴は,水中での同一動作の繰り返しによる過用症候群が多い。特に,腰部障害の発生頻度が最も多く,上級者よりも初級者で好発するとの報告がある(有吉,1990)。

競泳競技では,水中で身体を水平に保持した,いわゆる「けのび」の姿勢とされるストリームライン(Streamline:SL)が最も基本的な姿勢である。しかし,上肢を挙上したSL姿勢は,腰椎前弯を増大させ,椎間関節後方への負担の増加から腰部障害の一因となると考えられている。腰椎前弯の少ないSL姿勢をとることは,腰部障害予防の観点から重要である。

一般に,上肢挙上に伴って腰椎前彎角はほぼ直線的に増加することが知られている。一方で,競泳選手を対象にした研究では,肩関節屈曲角度が30°から120°までは腰椎前彎角度が直線的に増加するが,150°からSL立位姿勢では腰椎前彎角がほとんど変化しなかったとされている(大林ら,2007)。このことから,競泳未経験者ではSL立位時に腰椎前彎角が大きいことが推察され,腰部障害が上級者よりも初級者で好発する一因となる可能性が考えられる。

本研究では,非競泳選手と競泳選手の胸椎,腰椎および骨盤のアライメントを測定し,SL立位姿勢での上肢挙上角度と脊柱アライメントの関係を明らかにすることを目的とした。仮説は,「非競泳選手では立位姿勢と比較してSL立位時に腰椎前彎角の増大が起こるが,競泳選手では腰椎前彎角の増大が小さい」とした。
【方法】

対象は腰背部に整形外科疾患がなく,大学に所属し競泳経験のない非競泳群20名と,大学水泳部に所属し継続的な練習を行っている競泳群26名とした。脊柱アライメントの測定には,Spinal Mouseを用い,第7頸椎から第3仙椎までの矢状面のアライメントを測定した。測定肢位は,静止立位とSL立位とし,各姿勢で3回ずつ測定し平均値を求めた。分析項目は胸椎後彎角,腰椎前彎角,仙骨傾斜角とした。静止立位では「腕を胸の前で組み,前方を注視して足部は両肩峰間の距離に開く」ように口頭で指示した。SL立位では「両上肢の手掌と手背を重ねて挙上し,耳垂をはさむ」ように指示し,その時の上肢挙上角度を東大式角度計を用いて計測した。上肢が前方に傾斜している者には「上肢と床面が垂直になる」ように指示した。統計学的解析にはSPSS Ver.20.0を用いた。非競泳群と競泳群との群間比較には対応のないt検定を用いた。SL立位での胸椎前彎角,腰椎後弯角,仙骨傾斜角と上肢挙上角度との相関関係をみるため,Pearsonの相関係数を用いた。危険率5%未満を有意とした。
【結果】

非競泳群では競泳群と比較して,静止立位時の腰椎前彎角と仙骨傾斜角,SL立位時の腰椎前彎角,仙骨傾斜角が増大した(p<0.05)。非競泳群では静止立位時,SL立位時ともに腰椎がより前彎位を呈し,骨盤がより前傾したアライメントであった。

さらに,非競泳群では,上肢挙上角度とSL立位時の腰椎前彎角に有意な負の相関を認めた(r=-0.45,p<0.05)。一方で,競泳群では,上肢挙上角度とSL立位時の腰椎前彎角に有意な正の相関を認め(r=0.56,p<0.01),SL立位時の仙骨傾斜角に有意な負の相関を認めた(r=-0.55,p<0.01)。両群で上肢挙上角度に有意差は認められなかった。
【考察】

非競泳群では上肢挙上角度が大きい者ほど,SL立位時の腰椎前彎角が増大するのに対し,競泳群では腰椎前彎角が減少しており,これは骨盤後傾運動が起こっていたことを示す。その理由として,水中での抵抗が少なく,かつ腰部への負担が少ないSL姿勢は腰椎前彎角が小さいとされることから(松浦,2013),競泳選手ではSL立位時に骨盤後傾運動によって平坦な腰椎を保持できていたことが示唆された。

さらに,非競泳選手では立位SL時と比較して水中SL時で腰椎前彎角が増強するとの報告もある(金岡,2007)ことから,非競泳群が水泳をする際に腰部障害が好発する要因のひとつに,競泳群よりもSL姿勢での腰椎前彎角が増大することが考えられた。腰椎前彎角の増大は,背筋群の過緊張や椎間関節への負担の増大をまねき,骨成熟が未熟な時期では腰椎分離症発生の要因にもなる。これらを予防するためのトレーニングとして,骨盤後傾運動に着目する必要がある。
【理学療法学研究としての意義】

非競泳群と競泳群では,SL立位時に脊柱アライメントが異なることが示され,競泳未経験者が水泳を行う際,腰椎前彎角の増大による腰部障害発生の可能性が高まることが考えられた。これは腰部障害予防対策への一助となり得る。