[O-0531] 上肢と下肢の荷重制御の比較からみた部分荷重歩行における荷重制御の正確性
キーワード:荷重量, T字杖, 下肢
【はじめに,目的】
T字杖を用いた部分荷重歩行は,整形外科的な疾患に対する理学療法場面において多く指導する動作である。一般的に杖の使用は姿勢の安定性(Jeka, 2004)や,歩容を正常に近づける(Kuan, 1999)など姿勢や歩行に有効な効果をもたらす。しかしながらその反面,高齢者は杖の操作が困難であることや,杖の使用は注意要求が多く転倒リスクを高める(Bateni, 2005)といった問題も報告されている。また臨床現場では杖に過剰に依存してしまうため,歩行の自立が阻害される症例も存在する。
そこで本研究では姿勢や歩行の安定性に貢献する杖の使用が,部分荷重歩行の際の下肢の荷重制御に与える影響を明らかにするため,T字杖を用いた部分荷重歩行(体重の2/3荷重)において,下肢での荷重制御と上肢(T字杖にかかる荷重)での荷重制御の正確性を比較した。またこれらの荷重制御の方略の違いによる影響と合わせて,歩行形態(2動作歩行,3動作歩行)と荷重を制御する下肢(左下肢,右下肢)の違いの影響についても検討した。
【方法】
対象者は健常成人12名(平均年齢:21.3歳,平均身長:160.8cm,平均体重55.0kg)であった。課題はT字杖を用いた部分荷重歩行において下肢にかかる荷重を体重の2/3に制御することとした。対象者を荷重制御の方略の違いにより,下肢の荷重量(体重の2/3)を制御する群(下肢群:5名)と杖にかかる荷重(体重の1/3)を制御する群(杖群:7名)の2群に配置した。各群の対象者は実験試行前の練習試行で歩行中の下肢もしくは杖の荷重量をデジタルオシロスコープにて確認した。実験試行ではオシロスコープを遮蔽し,電子メトロノームによる60bpmのテンポを聞きながら1秒に1歩のテンポで歩行課題を行った。各群の対象者は歩行形態(2動作歩行・3動作歩行)と荷重制御下肢(左下肢・右下肢)の要因の組み合わせからなる4条件の課題を実施した。各条件のT字杖歩行では,T字杖の接地,荷重を制御する下肢の接地(2動作歩行では杖と荷重制御下肢は同時),反対側下肢の接地の一連の動作を1試行として,10試行の歩行を実施した。
部分荷重歩行における下肢の荷重量はフォースプレート,T字杖にかかる荷重量は杖に取り付けたロードセルにてそれぞれ計測した。得られた荷重データからT字杖と荷重を制御する下肢が接地している間の0.5秒間の荷重量を解析の対象とした。
下肢の荷重制御の正確性として,目標値である体重の2/3に対する恒常誤差(CE:constant error)と10試行内の誤差のばらつき(VE:variable error)を求めた。CEおよびVEはそれぞれ3要因分散分析にて対象者間および対象者内の要因の影響を検定した。またCEについてはone-sample t検定により誤差の有意性を検定した。
【結果】
CEについては分散分析の結果,対象者群間の有意な主効果を認め(F=3.3,p=0.09),杖群よりも下肢群で正確性が高かった。またone-sample t検定の結果から,杖群はすべての条件で有意な過荷重(overshoot)を認めた(すべてp<0.05)。VEについては分散分析の結果,対象者群間の有意な主効果を認め(F=7.0,p=0.02),下肢群よりも杖群でばらつきが小さかった。CE,VEともに歩行形態および荷重制御下肢の要因についての有意な主効果と交互作用は認められなかった。
【考察】
CEの結果から,杖よりも下肢での荷重制御の方が正確であり,杖での荷重制御では下肢の荷重量が目標値に対して過荷重になることが明らかとなった。またVEの結果から,下肢よりも杖での荷重制御の方がパフォーマンスは一貫していることがわかった。これらCEとVEの結果から,杖での荷重制御は一貫して過剰な荷重となるため,下肢の過荷重を誤学習してしまう可能性があると考えられた。なおこの結果は2動作歩行や3動作歩行といった歩行形態の違いや荷重を制御する下肢の左右の違いによる影響は認められなかったため,患者の機能や左右の障害側に関わらず,杖を使用する際には共通して起こりうると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
T字杖での荷重制御が下肢への過剰な荷重を誤学習する可能性を示した結果は,臨床現場において部分荷重歩行を指導する際に考慮すべき重要な知見であると考えられる。つまり杖に意識が向きやすく過剰に依存するような症例では,正確な荷重制御が阻害されてしまうため,下肢での荷重制御を意識させるような指導の工夫が必要であると考えられる。
T字杖を用いた部分荷重歩行は,整形外科的な疾患に対する理学療法場面において多く指導する動作である。一般的に杖の使用は姿勢の安定性(Jeka, 2004)や,歩容を正常に近づける(Kuan, 1999)など姿勢や歩行に有効な効果をもたらす。しかしながらその反面,高齢者は杖の操作が困難であることや,杖の使用は注意要求が多く転倒リスクを高める(Bateni, 2005)といった問題も報告されている。また臨床現場では杖に過剰に依存してしまうため,歩行の自立が阻害される症例も存在する。
そこで本研究では姿勢や歩行の安定性に貢献する杖の使用が,部分荷重歩行の際の下肢の荷重制御に与える影響を明らかにするため,T字杖を用いた部分荷重歩行(体重の2/3荷重)において,下肢での荷重制御と上肢(T字杖にかかる荷重)での荷重制御の正確性を比較した。またこれらの荷重制御の方略の違いによる影響と合わせて,歩行形態(2動作歩行,3動作歩行)と荷重を制御する下肢(左下肢,右下肢)の違いの影響についても検討した。
【方法】
対象者は健常成人12名(平均年齢:21.3歳,平均身長:160.8cm,平均体重55.0kg)であった。課題はT字杖を用いた部分荷重歩行において下肢にかかる荷重を体重の2/3に制御することとした。対象者を荷重制御の方略の違いにより,下肢の荷重量(体重の2/3)を制御する群(下肢群:5名)と杖にかかる荷重(体重の1/3)を制御する群(杖群:7名)の2群に配置した。各群の対象者は実験試行前の練習試行で歩行中の下肢もしくは杖の荷重量をデジタルオシロスコープにて確認した。実験試行ではオシロスコープを遮蔽し,電子メトロノームによる60bpmのテンポを聞きながら1秒に1歩のテンポで歩行課題を行った。各群の対象者は歩行形態(2動作歩行・3動作歩行)と荷重制御下肢(左下肢・右下肢)の要因の組み合わせからなる4条件の課題を実施した。各条件のT字杖歩行では,T字杖の接地,荷重を制御する下肢の接地(2動作歩行では杖と荷重制御下肢は同時),反対側下肢の接地の一連の動作を1試行として,10試行の歩行を実施した。
部分荷重歩行における下肢の荷重量はフォースプレート,T字杖にかかる荷重量は杖に取り付けたロードセルにてそれぞれ計測した。得られた荷重データからT字杖と荷重を制御する下肢が接地している間の0.5秒間の荷重量を解析の対象とした。
下肢の荷重制御の正確性として,目標値である体重の2/3に対する恒常誤差(CE:constant error)と10試行内の誤差のばらつき(VE:variable error)を求めた。CEおよびVEはそれぞれ3要因分散分析にて対象者間および対象者内の要因の影響を検定した。またCEについてはone-sample t検定により誤差の有意性を検定した。
【結果】
CEについては分散分析の結果,対象者群間の有意な主効果を認め(F=3.3,p=0.09),杖群よりも下肢群で正確性が高かった。またone-sample t検定の結果から,杖群はすべての条件で有意な過荷重(overshoot)を認めた(すべてp<0.05)。VEについては分散分析の結果,対象者群間の有意な主効果を認め(F=7.0,p=0.02),下肢群よりも杖群でばらつきが小さかった。CE,VEともに歩行形態および荷重制御下肢の要因についての有意な主効果と交互作用は認められなかった。
【考察】
CEの結果から,杖よりも下肢での荷重制御の方が正確であり,杖での荷重制御では下肢の荷重量が目標値に対して過荷重になることが明らかとなった。またVEの結果から,下肢よりも杖での荷重制御の方がパフォーマンスは一貫していることがわかった。これらCEとVEの結果から,杖での荷重制御は一貫して過剰な荷重となるため,下肢の過荷重を誤学習してしまう可能性があると考えられた。なおこの結果は2動作歩行や3動作歩行といった歩行形態の違いや荷重を制御する下肢の左右の違いによる影響は認められなかったため,患者の機能や左右の障害側に関わらず,杖を使用する際には共通して起こりうると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
T字杖での荷重制御が下肢への過剰な荷重を誤学習する可能性を示した結果は,臨床現場において部分荷重歩行を指導する際に考慮すべき重要な知見であると考えられる。つまり杖に意識が向きやすく過剰に依存するような症例では,正確な荷重制御が阻害されてしまうため,下肢での荷重制御を意識させるような指導の工夫が必要であると考えられる。