第50回日本理学療法学術大会

講演情報

口述

口述71

運動制御・運動学習5

2015年6月6日(土) 15:00 〜 16:00 第12会場 (ガラス棟 G701)

座長:齊藤展士(北海道大学 大学院保健科学研究院 機能回復学分野)

[O-0532] 腰椎後方靭帯系がLifting動作時の協調性に及ぼす影響

緒方悠太1, 新小田幸一2, 武田拓也1, 徳田一貫3,4, 澤田智紀3,4, 谷本研二3, 阿南雅也2, 高橋真2 (1.広島大学大学院医歯薬保健学研究科博士課程前期保健学専攻, 2.広島大学大学院医歯薬保健学研究院応用生命科学部門, 3.広島大学大学院医歯薬保健学研究科博士課程後期保健学専攻, 4.森整形外科)

キーワード:Uncontrolled Manifold Analysis, Lifting, 腰椎

【はじめに,目的】
Lifting動作は日常的に頻回に行われる動作であり,腰痛発生動作の1つである。これまで,Lifting動作と腰痛との関連については主に腰部への負荷を中心として報告されてきた。しかし,Lifting動作では,体幹の安定性を維持と身体重心(以下,COM)の制御の下に,対象物を持ち上げるタスクが要求される。これらのタスクを達成するための身体の各セグメントが取り得るパターンは無数にあり,身体の多くの自由度を協調的に制御する必要がある。したがって,Lifting動作において関節の協調性が重要な意味をもつ。一方で,体幹の安定性には腰椎後方靭帯系(以下,PLS)が深く関連するとされており,PLSの伸長が身体の協調性へ影響を及ぼすことが考えられる。これまで,PLSの伸長が試行間の協調性へ及ぼす影響について報告されたものは渉猟する限り見当たらない。
そこで,本研究は関節運動の協調性の定量的評価法であるUncontrolled Manifold(UCM)解析をLifting動作時のCOMの制御と篭の高さの制御の2つのタスクに対して用い,PLSの伸長はいかなる影響を及ぼすかを明らかにすることを目的として行った。
【方法】
被験者は脊柱や上下肢に整形外科的既往歴および現病歴を有さない健常若年男性7人(身長:1.67±0.07m,体重:62.0±9.2kg,年齢:22.1±1.5歳)であった。課題動作は被験者の脛骨粗面の高さにある5kgの重りの入った篭をstoop法にて2秒間で持ち上げるLifting動作を採用した。先行研究を参考に,脊柱屈曲位での座位を10分間保持することでPLSの伸長を再現し,座位前と座位後に各5試行ずつ課題動作を行った。身体の各評点に貼付したマーカ座標データを赤外線カメラ6台からなる三次元動作解析システム(Vicon社製)を用いて取得し,MATLAB2014a(MathWorks社製)を用いて要素変数とタスク変数の関係式と各要素変数の分散を算出した。要素変数は各身体セグメント角度,タスク変数はCOM制御タスクとしてCOM鉛直方向座標と,Wrist制御タスクとして尺骨形状突起マーカ鉛直方向座標を設定した。そして,Lifting動作を100%に時間正規化し,それぞれのタスク変数に対して,タスクを安定化させる変動(以下,COM-VUCM,Wrist-VUCM),タスクを不安定にする変動(以下,COM-VORT,Wrist-VORT)をそれぞれ算出し,動作全体の10%毎の平均値を比較した。統計学的解析には統計ソフトウェアSPSS Ver.22.0(IBM社製)を用い,座位前後の比較には対応のあるt検定またはWilcoxonの符号付き順位検定を有意水準5%で行った。
【結果】
COM-VUCMは,座位後のLifting動作において,座位前と比較して0~10%,10~20%,20~30%,30~40%の区間で有意に高値を示した(P<0.05)。また,頭部セグメント角度の分散は座位後のLifting動作において,座位前と比較して10~20%,20~30%区間で有意に高値を示した(P<0.05)。頭部セグメント以外のセグメント角度の分散,COM-VORT,Wrist-VUCM,Wrist-VORT,に両条件間では有意な差を認めなかった。
【考察】
本研究では,Lifting動作においてWrist制御タスクに関する協調性の指標は座位前後で変化を認めなかったが,COM制御タスクではCOM-VUCMは座位後に有意に増大した。このことから,PLSの伸張はWrist制御タスクに影響を及ぼさなかったが,COM制御タスクにはタスクをより安定化させる協調的な活動をもたらしたと考えられる。また,Lifting動作における頭部セグメント角度の分散は座位後に座位前と比較して有意に増加した。つまり,若年健常者ではWrist制御タスクに影響の少ない頭部がCOMの安定化に寄与していることが示唆された。腰痛罹患者ではLifting動作初期における様々な力学的変化が報告されており,健常者と異なる制御が生じていると考えられる。本研究では対象が健常若年者であったことから,今後は腰痛罹患者を対象とした更なる研究が必要である。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の意義はUCM解析を駆使したLifting動作の解析より,若年健常者では,PLSの伸長がWrist制御タスクへの影響は少ないが,COM制御タスクにおいてはより協調的な制御が要求されることを明らかにしたことである。また,Lifting動作において腰部への負荷のみに着目するのではなく,身体全体の協調性も考慮する必要があることを示した点で意義がある。