第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述71

運動制御・運動学習5

Sat. Jun 6, 2015 3:00 PM - 4:00 PM 第12会場 (ガラス棟 G701)

座長:齊藤展士(北海道大学 大学院保健科学研究院 機能回復学分野)

[O-0533] 単発条件刺激が体性感覚誘発磁界に及ぼす影響

大西秀明1, 菅原和広1, 小丹晋一1, 宮口翔太1, 小島翔1, 田巻弘之1, 白水洋史2, 亀山茂樹2 (1.新潟医療福祉大学運動機能医科学研究所, 2.国立病院機構西新潟中央病院脳神経外科)

Keywords:脳磁図, 電気刺激, 体性感覚誘発磁界

【はじめに,目的】
脳磁計を利用することにより,末梢神経電気刺激による体性感覚誘発磁界(SEF)を記録することができ,刺激と反対側の一次体性感覚野直上で最も大きな振幅を示す。SEF波形は,刺激後約20ms(N20m),35ms(P35m),60ms(P60m)に著明な波形が認められるが,試験刺激の直前に与えられる3発以上の条件刺激によってこれらの成分が減弱することが報告されている(Lim, 2012;Onishi, 2013)。しかし,刺激強度や刺激数,刺激周波数など,条件刺激の各種パラメーターとSEF波形の変動との関係については未だ十分に明らかにされていない。末梢神経電気刺激を利用した大脳皮質感覚運動領野の可塑的変化誘導のメカニズムの解明と可塑的変化の評価指標を開発することを最終的な目標にして,本実験では単発条件刺激の刺激強度がその直後に与えられる試験刺激によって誘発されるSEF波形に与える影響を明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は健常成人15名(25.8±8.0歳)であった。306ch脳磁計を利用して,右正中神経刺激によるSEFを計測した。試験刺激は4.5秒から5.5秒に1回の頻度で与え,刺激強度は90%運動閾値(MT)とした。条件刺激は,試験刺激の450 msから550 ms前に右正中神経に与えた。条件刺激の刺激強度は,70%MT,90%MT,および110%MTの3種類を設定し,3種類の条件刺激と試験刺激の組み合わせと試験刺激のみ(コントロール)の合計4条件をそれぞれランダムに与えた。各条件で200回以上の試験刺激を与えて加算平均処理を行った後,二乗和平方根(root sum square,RSS)処理を行い,N20m,P35m,P60mのピーク潜時および振幅値を算出した。統計処理にはTukey HSDによる多重比較を用い,有意水準は5%とした。
【結果】
N20m,P35m,P60mのいずれのピーク潜時も4条件間で有意な差は認められなかった。一方,各波形の振幅値を比較すると,N20mは,86.1±34.2 fT/cm(コントロール条件),84.4±37.5 fT/cm(70%MT条件),79.3±33.9 fT/cm(90%MT条件),78.2±36.6 fT/cm(110%MT条件)であり有意な差は認められなかったが,P35mは,148.9±103.6 fT/cm(コントロール条件),145.8±102.9 fT/cm(70%MT条件),129.2±86.7 fT/cm(90%MT条件),116.9±83.4 fT/cm(110%MT条件)であり90%MT条件および110%MT条件では,コントロール条件と比較して有意に小さな値を示した。また,110%MT条件では,70%MT条件と比較して有意に小さな値を示した。P60mは,177.9±85.5 fT/cm(コントロール条件),174.3±86.9 fT/cm(70%MT条件),164.4±80.2 fT/cm(90%MT条件),160.4±72.3 fT/cm(110%MT条件)であり90%MT条件および110%MT条件では,コントロールと比較して有意に小さな値を示し,110%MT条件では70%MT条件と比較して有意に小さな値を示した。
【考察】
皮質活動量を示すRSS振幅値において,P35m成分およびP60m成分は単発条件刺激の刺激強度に影響され変動し,70%MT強度では有意な減弱が認められず,90%MT強度以上の条件刺激によって有意に減弱することが明らかになった。先行研究において,3発の条件刺激によってSEFのP35mおよびP60mの振幅値が減弱することが報告されているが(Lim et al, 2012),本実験結果から,1発の条件刺激のみでも刺激強度が90%MT以上であればP35m振幅値が20%程度,P60m振幅値が10%程度減弱することが明らかになった。この結果は,今後,体性感覚刺激によって誘導される神経可塑的変化を評価する際の基礎的データとして重要であると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
理学療法において,各種体性感覚刺激によって神経可塑的変化を誘導する際,その成果を評価するための指標が重要である。本実験結果は,神経可塑的変化の評価指標を作成する前段階として貴重なデータを提供するものであると考えられる。