第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述71

運動制御・運動学習5

Sat. Jun 6, 2015 3:00 PM - 4:00 PM 第12会場 (ガラス棟 G701)

座長:齊藤展士(北海道大学 大学院保健科学研究院 機能回復学分野)

[O-0535] ステップ動作における接地位置の修正のタイミングが姿勢制御に及ぼす影響

飯倉由季子1, 上村一貴2, 小河原將央1, 加藤智裕1, 内山靖3 (1.名古屋大学医学部保健学科理学療法学専攻, 2.名古屋大学未来社会創造機構, 3.名古屋大学大学院医学系研究科リハビリテーション療法学専攻)

Keywords:ステップ動作, 姿勢制御, 予測的姿勢調節

【はじめに,目的】

外的環境に対応して,ステップ動作中に足の接地位置を修正する機能は,バランスの喪失や転倒などの危機回避のために不可欠である。Melzerら(2007)は,ステップ動作が(a)反応相:開始合図から,一側への体重移動開始(体重の5%以上の移動)まで,(b)予測的姿勢調節(以下APA)相:体重移動開始から遊脚側離地まで,(c)遊脚相:遊脚側離地から接地までの三つの相に細分化できることを報告しており,各相は異なる役割を担っているとされている。Tsengら(2009)は,ステップ動作における接地位置の修正を開始するタイミングが遅いほど,接地位置の正確性が低下すると報告している。接地位置の修正を開始するタイミングは(a)~(c)の相と深く関連すると考えられるが,これらの影響を検討した先行研究は少ない。
本研究は,健常人においてステップ動作における接地位置を修正するタイミングが姿勢制御に及ぼす影響を明らかにすることを目的とする。
【方法】

対象者は健常成人20名(年齢21.8±1.4歳)とした。測定機器は重心動揺計(アニマ社製ツイングラビコーダG-6100)を用いた。課題はステップ動作課題とし,前方のモニターに示される矢印の方向へ,できるだけ速くかつ正確にステップするよう指示した。矢印に対応するステップの接地位置は遊脚側の前方,もしくは前方の2倍の距離となる遠方とした。加えて,最初の矢印(primary cue)に続けて,異なる方向の矢印(secondary cue)が出現する試行を負荷し,接地位置を変更するよう指示した。なお,指標を踏めなかった試行はエラーとした。
床反力垂直成分のデータから,総ステップ時間(開始合図から遊脚側接地まで)を求め,(a)から(c)の3相を求めた。secondary cueを与えるタイミングはprimary cue出現後0.2秒(早:反応相中),0.4秒,(中:APA相中),0.6秒(遅:遊脚離地直前)の3種類とした。加えて,COPの軌跡からAPA中のCOP後方・側方移動距離を測定した。COP移動距離は個々人の支持基底面前後・左右の距離で除し,正規化した。
統計処理は,secondary cueを与えるタイミングによりCOP移動距離や時間の差異を比較するために,一元配置分散分析,Friedman検定及び多重比較(Tukey法)を行い,有意水準は全て5%とした。
【結果】

ステップエラー率は,secondary cueを与えるタイミングが遅くなるにつれ増大した(早:0%,中:2.5%,遅:20%)。COP後方移動距離は,secondary cueを与えるタイミングが中(APA相中)ならびに遅(遊脚離地直前)である時,早(反応相)に比べ有意に減少した。{早:0.19±0.05,中:0.16±0.05,遅0.17±0.06}。COP側方移動距離に有意な変化はみられなかった。
反応時間,APA時間に有意な変化はみられなかったが,遊脚時間がsecondary cueを与えるタイミングが遅くなるにつれ有意に増大し{早:0.50±(秒),中:0.54±0.56(秒),遅:0.62±0.08(秒)},同様に総ステップ時間もsecondary cueを与えるタイミングが遅くなるにつれ有意に増大した{早:1.14±0.09(秒),中:1.20±0.05(秒),遅:1.28±0.10(秒)}。
【考察】

COP後方移動距離は,APA相および遊脚離地直前にsecondary cueを与えた場合,反応相にsecondary cueを与えた場合に比べ小さくなっていた。ステップ動作ではAPAにより予め接地位置に対する姿勢調節を行っており,APA中のCOP後方移動距離は前方への推進力を反映している。反応相までは,secondary cueの示す方向に適応したAPAが出現し,APAによる接地位置の修正が可能であると考えられる。対してAPA相以降は,secondary cueの示す方向に適応したAPAが出現せず,APAによる姿勢制御は行えていないのではないかと考えられる。加えて,secondary cueのタイミングが遅くなるにつれて,遊脚時間,総ステップ時間が延長していた。遊脚時間の延長は重心やステップ時間を制御し推進力を調整しているとされている。APA相以降は,secondary cueの示す方向に適応したAPAが出現しないため,COP後方移動距離が減少する。減少した前方への推進力を遊脚時間の延長で補うという代償的戦略をとっているのではないかと考えられる。
以上より,APAによる接地位置の修正は,反応相まで可能であるが,APA相以降は,遊脚時間の延長という代償的な戦略をとる可能性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】

本研究は健常成人において,ステップ動作における接地位置の修正のタイミングが姿勢制御に及ぼす影響を明らかにすることで,有疾患者や転倒リスクの高い高齢者における転倒予防を目的とした理学療法プログラムを開発するための基準となる情報を提供する。