第50回日本理学療法学術大会

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口述

セレクション 口述11

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Sat. Jun 6, 2015 4:10 PM - 5:10 PM 第7会場 (ホールD5)

座長:三宅わか子(星城大学リハビリテーション学院)

[O-0541] 勤務領域別コンピテンシー特性の比較

堀本ゆかり (常葉大学健康科学部静岡理学療法学科)

Keywords:コンピテンシー, 雇用される能力, 危機管理対策

【はじめに】
理学療法士の雇用に関して,これまで雇用される能力が注目されることは少なかった。一般企業では,セミナーなどを開催し,社会人基礎力の向上に努めている。本研究では急増する理学療法士の臨床人としての基礎力の向上を目指し,勤務領域別の目標とするコンピテンシー特性を調査したので報告する。
【方法】
対象は8県18施設に所属している臨床経験5年以上の理学療法士150名で,平均年齢は35.1±7.3歳,臨床経験年数は11.6±6.8年である。勤務領域の内訳は,治療展開の早い急性期・スポーツ領域(以下,急性期)が23名,回復期リハビリテーション施設(以下,回復期)62名,生活期・老人保健施設(以下,生活期)27名,クリニック13名,研究・教育機関25名である。
方法は文化放送キャリアパートナーズ社製コンピテンシー診断「SPROUT」WEB版を使用した。質問項目は66で,A・Bふたつの質問に対して4つの選択肢が設定されており,そのうち1つを選択する。
統計処理は日本科学技術研修所製 JUSE-StatWorks/V4.0総合編を使用した。勤務領域間の違いを分析することにより,各勤務領域で特に必要とされるコンピテンシーの情報が得られることが期待できる。構造方程式モデリング(SEM)の多母集団の同時分析を行い,危険率p<0.05で解析した。
【結果】
各領域別の6領域のうち何かを変える力は急性期以外の全領域でよく発揮されていた。自らを活かす力は,急性期,研究・教育機関で発揮されており,きちんとする力は回復期,生活期,要望に応える力は急性期,クリニック,互いを活かす力はクリニック,新しい価値を作る力は研究・教育機関でよく発揮されているコンピテンシー項目である。一方,新しい価値をつくる力では研究・教育機関以外は低い値である。さらに,きちんとする力では,急性期,研究・教育機関が低く,要望に応える力では,回復期,生活期が低い値であった。
細分化項目では,急性期は資源活用力,プロセスマネジメントは低く,コンサルテーション,適応力は高い傾向である。回復期リハビリテーション施設では,コンセプト形成と時間管理は低く,意思決定マネジメントと適応力はよく発揮されていた。生活期ではコンサルテーション,コンセプト形成は低く,プロセスマネジメントと意思決定マネジメントは高い傾向であり,クリニックではプロセスマネジメント・情報指向力は低く,適応力・リーダーシップは高い傾向であった。教育・研究機関では,プロセスマネジメント・顧客思考力は低く,コミュニケーション・適応力は高い傾向である。
勤務領域間の比較では,クロンバックのα係数が比較的高い勤務領域である生活期と研究・教育機関の間の違いを分析した。生活期のクロンバックのα係数は0.791,研究・教育機関は0.825であった。カイ二乗検定の結果から,仮定したモデルとデータの適合性も良好であった。また,平均構造から共通因子のパス係数をみると,研究・教育機関の因子平均が5.20だけ大きい結果となった。
【考察】
Goncziらによれば「コンピテンシー(臨床能力)」とは医療専門職としての実践に必要な知識・技術・態度などの組み合わせであるという。理学療法士の勤務領域では,そのコンピテンシーに特徴が見られた。回復期と生活期に勤務する理学療法士には,何かを変える力及びきちんとする力が必要であり,意思決定マネジメント力が特に重要であった。何かを変える力は,理学療法士にとって最も重要なコンピテンシーとも言え,状況を変化させる基礎力の重要性が示唆された。理学療法士の業務は,自己と他者の置かれた環境に応じて適切な選択を行う思考・行動特性が重要である。行動を思考の結果と捉えるのであれば,先輩理学療法士は後輩の思考の変化を期待し,行動を強化あるいは修正するひとつのツールとしてコンピテンシーを利用する事ができる。今後,理学療法士以外の職種との比較・検討,養成校での成長から卒後のモニタリングまでの継時的な追跡を通じ,理学療法業務に関する知識・技術との体系化を目指す必要があると考える。
【理学療法学研究としての意義】
今後,急増する若手理学療法士と部門管理者に対して,組織内外からのマネジメントが必要である。今後は体系化されたカリキュラムの浸透と進捗状況が自己認識できるツールの開発が必要である。コンピテンシーを利用し,画一化されない医療サービス体系を模索・構築することは,組織運営上の危機管理対策としても利用できる。