第50回日本理学療法学術大会

講演情報

口述

口述72

生体評価学5

2015年6月6日(土) 16:10 〜 17:10 第8会場 (ガラス棟 G402)

座長:中山恭秀(東京慈恵会医科大学附属第三病院 リハビリテーション科)

[O-0544] 徒手筋力計を用いた座位での股関節伸展筋力測定法の検討

骨盤肢位の違いと固定の有無が測定値に及ぼす影響

世古俊明1, 隈元庸夫2, 三浦紗世3, 伊藤俊一1 (1.北海道千歳リハビリテーション学院, 2.埼玉県立大学保健医療福祉学部理学療法学科, 3.医療法人社団北星病院)

キーワード:徒手筋力計, 股関節伸展筋力, 座位

【はじめに,目的】
徒手筋力計(HHD)を用いた筋力測定は客観性,簡便性において有用である。一般にHHDでの筋力測定は徒手筋力検査法(MMT)に準じて行なわれることが多い。しかし,抗重力運動に重要な役割を果たす大殿筋の股関節伸展筋力測定は腹臥位で実施するため,脊柱や下肢に屈曲拘縮を有する高齢者では困難となる。またMMTでは立位での別法が設けられているが,転倒のリスクや環境設定を要すること,測定場所が限られることなどが懸念される。そのため,我々は第49回本学会にてHHDを用いた座位での股関節伸展筋力測定法(座位法)の有用性を報告し,今後,骨盤肢位や固定の要因を含めた詳細な測定肢位の検討が課題となった。本研究の目的は,座位法での骨盤肢位の違い,固定の有無が再現性や発揮される股関節伸展筋力値,筋活動に及ぼす影響を検討し,明確な測定法を提言することである。
【方法】
対象は運動器ならびに中枢神経疾患の既往のない健常成人男性10名(23.5±4.4歳,170.2±3.8cm,63.7±9.7kg)とした。課題運動を座位と腹臥位での等尺性股関節伸展運動,測定肢を膝屈曲90度位とした。座位での骨盤肢位の違いは,先行研究より上前腸骨棘~上後腸骨棘を結ぶ線と床面との角度が0度を中間位,骨盤前傾角10°を前傾位,骨盤後傾角10°を後傾位とした3条件で,各々,両手を検査台の上に置き安定を図らせた。また骨盤肢位の3条件において,骨盤への検者による徒手固定有り(固定),なし(非固定)の2条件で課題運動を実施させた。座位での測定時には,膝窩部を検査台の端より離してからHHDを大腿遠位1/3後面に設置し,その後に自重分の影響を最大限取り除くためにゼロ補正を行なった。また,被験者には大腿部を下方へ押すよう指示し,固定時には前方より両腸骨稜部位を検者が固定した。腹臥位での測定はMMTの段階5に従って行わせ,HHDを用いて大腿遠位1/3後面に抵抗を加えた。股関節伸展筋力値(伸展筋力値)はHHD(Mobie MT-100,酒井医療)を用いてトルク値(Nm)を算出後,体重で除した値(Nm/kg)を採用した。筋活動の測定には表面筋電計(Tele Myo G2,Noraxon社製)を用いた。導出筋は右側の大殿筋上下部線維,半腱様筋,腰部背筋,腹直筋の5筋とした。筋活動量はいずれも課題運動での筋活動ピーク値前後0.5秒の積分筋電値をMMT5の筋電値で正規化し算出した値(%MMT)を採用した。座位における各条件での測定値のばらつきを変動係数(CV),伸展筋力値の再現性はICC(1,1),骨盤肢位と固定の2要因での筋力値と筋活動量の比較は二元配置分散分析,多重比較はBonferroni法,MMTとの基準関連妥当性はSpearmanの順位相関係数を用いて検討した。有意水準は5%未満とした。
【結果】
伸展筋力値の再現性は,固定・後傾位で高い再現性が認められた(ICC(1,1)=0.88,95%CI;0.78-0.96)。伸展筋力値および大殿筋上下部線維の筋活動量の比較では骨盤肢位要因と固定要因間に交互作用はなく,各々主効果を認め,固定・後傾位で有意に高値を示した(p<0.01)。このときの大殿筋上部線維,下部線維の活動量は62.4%MMT,69.4%MMTであり,CVは10.2%,12.5%であった。他筋の筋活動量の比較では2要因間に交互作用はなく,固定要因で主効果を認め,骨盤肢位要因では主効果を認めなかった。伸展筋力値の基準関連妥当性は,固定の各肢位で有意な相関を認め,中でも固定・後傾位では高い相関を認めた(r=0.85,p<0.01)。
【考察】
本結果より,座位法は骨盤後傾位で固定することにより,股関節伸展運動時に大殿筋の筋活動が寄与し,再現性および妥当性の高い測定法となり得ることが示唆された。このことは固定・後傾位では,上肢を体幹後方に置いた広い支持基底面で体幹と骨盤の安定性が増すことにより,効率的に股関節伸展筋力を発揮でき,高い再現性が得られたと考える。また主要筋の大殿筋上下部線維は,骨盤後傾位では中間位,前傾位に比べて,その筋走行から股関節伸展方向へ有効に働いたと考える。本研究は対象を健常成人としており,高齢者では筋活動パターンが異なることや運動の理解を得られる可能性への配慮をもとに,今後は高齢者を対象に検討をしていく必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
股関節伸展筋力測定の座位法は,骨盤後傾位で固定することにより,脊柱や下肢に屈曲拘縮を有する高齢者でも簡便に測定が可能であり,治療効果判定の一助となり得る。