[O-0545] 健常成人を対象としたトルクマシンと等尺性筋力測定器による筋力測定の絶対信頼性
キーワード:大腿四頭筋, 筋力測定, 最小可検変化量
【はじめに,目的】
先行研究において,膝関節伸展筋力は患者の動作能力を予測するための一要素とされていることから,膝関節伸展筋力測定は臨床において有益である。筋力測定には測定誤差が含まれるため,Hardingら(1988)は測定値の信頼性を高めるために反復測定の実施を推奨している。近年では,測定値の絶対信頼性の尺度として,最小可検変化量(以下MDC)を用いて測定間に含まれる誤差を量的に表現している研究が増えてきている。Crystalら(2010)は,トルクマシンを使用して高齢変形性膝関節症患者の等尺性膝関節伸展筋力を測定した際のMDCは最大筋力の約14%であったと報告している。一方で,Adsuarら(2011)は,トルクマシンにより得られた線維筋痛症患者の等尺性膝関節伸展筋力のMDCは最大筋力の約21%であったと報告している。以上の先行研究から,等尺性膝関節伸展筋力のMDCは被験者群により大きく異なる可能性があり,健常成人における等尺性膝関節伸展筋力のMDCを算出している研究は見当たらない。また,トルクマシンは高価で臨床導入しづらいため,代替機器としてより安価な等尺性筋力測定器を使用することがあるが,その2つの機器間で測定誤差の大きさを比較した研究はない。そこで本研究の目的は,健常成人を対象として,トルクマシンと等尺性筋力測定器の2つの機器の,同日内の反復筋力測定のMDCを明らかとし,比較することである。
【方法】
対象は右下肢の膝関節に傷病の既往がなく,現在痛みを生じていない20代の健常成人で,右下肢の最大等尺性膝関節伸展筋力を測定した。対象を2群に分け,トルクマシン(Biodex system 4,BIODEX Medial System,USA)を使用する群と,等尺性筋力測定器(GT-330,OG技研,日本)を使用する群にそれぞれ割り当てた。被験者の姿勢は股関節屈曲90°位で,Biodex群は膝関節屈曲90°位,GT群は膝関節屈曲60°位とした。身体の固定条件は,両群とも骨盤,大腿をベルト固定,上肢は体側のレバーを把持,さらに,Biodex群は体幹をベルト固定した。それぞれの機器で最大筋力を発揮するための練習は,実際に測定を行う2~6日前に行った。被験者は検者の合図により5秒間の最大収縮を2回行い,間の休息時間は1分とした。GT群では対象者のレバーアームを測定し,膝関節伸展トルクを算出した。得られた膝関節伸展トルクを体重で除し,トルク体重比を算出して解析に使用した。統計解析として,測定間のBland-Altman解析を描出し,差の95%信頼区間と,相関係数を算出して系統誤差の有無を調べた後,2回測定の測定関連信頼性を,ICC(1,2)を用いて検定した。ICC値から機器毎に測定値の標準誤差(以下SEM),MDCを算出し,筋力の平均値で除して誤差の割合を計算した。また,F検定を実施し,それぞれのSEMの差を比較した(p=0.05)。
【結果】
対象者はBiodex群23名(男性16名,女性7名),年齢22.0±1.0歳,体重59.0±6.3kg,GT群19名(男性8名,女性11名),年齢23.9±2.2歳,体重58.8±12.0kgであった。2回測定の平均値はBiodex群3.1±0.3Nm/kg,GT群3.1±0.5Nm/kgであった。Bland-Altman解析の結果,差の95%信頼区間は,Biodex群-0.12~0.31,GT群-0.24~0.18,相関係数はそれぞれ-0.09(p=0.69),-0.04(p=0.86)であった。両群とも2回の測定間に明らかな系統誤差は認められなかった。2回測定のICC(1,2)は,Biodex群で0.94,GT群で0.95であった。SEMはBiodex群0.18Nm/kg,GT群0.22Nm/kgであった。MDCはBiodex群0.50Nm/kg,GT群0.61Nm/kgであった。誤差の割合はBiodex群で約16%,GT群で約20%であった。F検定の結果,F(18,22)=2.11,p<0.05で,2群間のF値は1.49であり,有意差は認められなかった。
【考察】
Bland-Altman解析の結果から,2回の測定には偶然誤差のみが影響していると考えられる。両群とも,ICC(1,2)が0.9以上と高く,測定の再現性は高いと言える。絶対信頼性の指標であるMDCはBiodex群が0.50Nm/kg,GT群が0.61Nm/kgであり,健常成人における最大等尺性膝関節伸展筋力の反復測定において,Biodexは約16%,GT-330は約20%の偶然誤差を含む可能性があることが示唆された。F検定の結果からは,両群のSEMに有意差は認められなかったが,Biodexの方がわずかに測定誤差の混入が少ない傾向が認められた。先行研究の患者群と比較して,健常成人では大きく異なるような傾向は認められなかったことから,等尺性筋力測定には最大で20%程度の誤差が含まれる可能性がある。
【理学療法学研究としての意義】
同一機器を使用して対象者の膝関節伸展筋力を測定する場合に,測定値の変化が誤差なのか真の変化なのかを判別することができる。
先行研究において,膝関節伸展筋力は患者の動作能力を予測するための一要素とされていることから,膝関節伸展筋力測定は臨床において有益である。筋力測定には測定誤差が含まれるため,Hardingら(1988)は測定値の信頼性を高めるために反復測定の実施を推奨している。近年では,測定値の絶対信頼性の尺度として,最小可検変化量(以下MDC)を用いて測定間に含まれる誤差を量的に表現している研究が増えてきている。Crystalら(2010)は,トルクマシンを使用して高齢変形性膝関節症患者の等尺性膝関節伸展筋力を測定した際のMDCは最大筋力の約14%であったと報告している。一方で,Adsuarら(2011)は,トルクマシンにより得られた線維筋痛症患者の等尺性膝関節伸展筋力のMDCは最大筋力の約21%であったと報告している。以上の先行研究から,等尺性膝関節伸展筋力のMDCは被験者群により大きく異なる可能性があり,健常成人における等尺性膝関節伸展筋力のMDCを算出している研究は見当たらない。また,トルクマシンは高価で臨床導入しづらいため,代替機器としてより安価な等尺性筋力測定器を使用することがあるが,その2つの機器間で測定誤差の大きさを比較した研究はない。そこで本研究の目的は,健常成人を対象として,トルクマシンと等尺性筋力測定器の2つの機器の,同日内の反復筋力測定のMDCを明らかとし,比較することである。
【方法】
対象は右下肢の膝関節に傷病の既往がなく,現在痛みを生じていない20代の健常成人で,右下肢の最大等尺性膝関節伸展筋力を測定した。対象を2群に分け,トルクマシン(Biodex system 4,BIODEX Medial System,USA)を使用する群と,等尺性筋力測定器(GT-330,OG技研,日本)を使用する群にそれぞれ割り当てた。被験者の姿勢は股関節屈曲90°位で,Biodex群は膝関節屈曲90°位,GT群は膝関節屈曲60°位とした。身体の固定条件は,両群とも骨盤,大腿をベルト固定,上肢は体側のレバーを把持,さらに,Biodex群は体幹をベルト固定した。それぞれの機器で最大筋力を発揮するための練習は,実際に測定を行う2~6日前に行った。被験者は検者の合図により5秒間の最大収縮を2回行い,間の休息時間は1分とした。GT群では対象者のレバーアームを測定し,膝関節伸展トルクを算出した。得られた膝関節伸展トルクを体重で除し,トルク体重比を算出して解析に使用した。統計解析として,測定間のBland-Altman解析を描出し,差の95%信頼区間と,相関係数を算出して系統誤差の有無を調べた後,2回測定の測定関連信頼性を,ICC(1,2)を用いて検定した。ICC値から機器毎に測定値の標準誤差(以下SEM),MDCを算出し,筋力の平均値で除して誤差の割合を計算した。また,F検定を実施し,それぞれのSEMの差を比較した(p=0.05)。
【結果】
対象者はBiodex群23名(男性16名,女性7名),年齢22.0±1.0歳,体重59.0±6.3kg,GT群19名(男性8名,女性11名),年齢23.9±2.2歳,体重58.8±12.0kgであった。2回測定の平均値はBiodex群3.1±0.3Nm/kg,GT群3.1±0.5Nm/kgであった。Bland-Altman解析の結果,差の95%信頼区間は,Biodex群-0.12~0.31,GT群-0.24~0.18,相関係数はそれぞれ-0.09(p=0.69),-0.04(p=0.86)であった。両群とも2回の測定間に明らかな系統誤差は認められなかった。2回測定のICC(1,2)は,Biodex群で0.94,GT群で0.95であった。SEMはBiodex群0.18Nm/kg,GT群0.22Nm/kgであった。MDCはBiodex群0.50Nm/kg,GT群0.61Nm/kgであった。誤差の割合はBiodex群で約16%,GT群で約20%であった。F検定の結果,F(18,22)=2.11,p<0.05で,2群間のF値は1.49であり,有意差は認められなかった。
【考察】
Bland-Altman解析の結果から,2回の測定には偶然誤差のみが影響していると考えられる。両群とも,ICC(1,2)が0.9以上と高く,測定の再現性は高いと言える。絶対信頼性の指標であるMDCはBiodex群が0.50Nm/kg,GT群が0.61Nm/kgであり,健常成人における最大等尺性膝関節伸展筋力の反復測定において,Biodexは約16%,GT-330は約20%の偶然誤差を含む可能性があることが示唆された。F検定の結果からは,両群のSEMに有意差は認められなかったが,Biodexの方がわずかに測定誤差の混入が少ない傾向が認められた。先行研究の患者群と比較して,健常成人では大きく異なるような傾向は認められなかったことから,等尺性筋力測定には最大で20%程度の誤差が含まれる可能性がある。
【理学療法学研究としての意義】
同一機器を使用して対象者の膝関節伸展筋力を測定する場合に,測定値の変化が誤差なのか真の変化なのかを判別することができる。