[O-0547] 被験者の体を固定せずに最大等尺性膝伸展筋力は測定可能か?
弱い筋力対象者の測定の場合
キーワード:ハンドヘルドダイナモメータ, 等尺性膝伸展筋力, 妥当性
【はじめに,目的】
トルクマシンや最大等尺性筋力測定器などの測定器を使用した膝伸展筋力測定の際には,被験者の体の浮き上がりを防ぐため,被験者の体をベルトで椅子に固定して測定する。ハンドヘルドダイナモメータでの膝伸展筋力測定は簡易的である反面,被験者の体を固定せずに行うため,被験者の筋力が体の重さよりも強い場合には臀部が座面から浮いてしまい最大筋力が測定できない可能性がある。我々は,筋力が強い対象者において体を固定しない場合は最大筋力が測定できないことを報告した。しかし,筋力が弱い対象者においては体を固定せずに測定しても臀部が浮かないので最大筋力が測定できると考えられる。従って,最大筋力測定が可能と不可能とを分ける筋力は上半身の重さで作り出されるトルク体重比(以下,重さトルク体重比)であると仮説をたてた。そこで,この研究の目的は,対象者の筋力が重さトルク体重比未満だと固定なしでも固定した場合と同じように測定が可能かを明らかにすることである。
【方法】
対象は健常成人,および当院理学療法科を受診中の65歳以上の患者で神経筋疾患,脊椎疾患,運動制限のある呼吸・循環器疾患,認知症,測定下肢の外傷のない者とした。また測定中に痛みを訴えた者,固定ありで測定した筋力トルク体重比が重さトルク体重比以上の者を除外した。
全ての測定は同一検者1名が行った。徒手保持型筋力測定器(モービー,酒井医療社製)を使用し,右側の最大等尺性膝伸展筋力を測定した。測定条件は被験者の体の固定ありと固定なしの2条件とした。測定姿位は股関節・膝関節90度屈曲位の座位とし,センサベルトを後方の支柱に下腿軸と垂直になるよう締結し,高さはベルトの下縁が被験者の外果下縁から3横指近位で床と水平になるように調整した。膝関節中心からセンサベルト中心までの距離を測定した。固定ありでは,椅子に体幹,骨盤,大腿をベルトで固定し上肢は椅子横のレバーを把持した。固定なしでは,端座位をとり上肢は体側に支持し,体幹を垂直に保ち臀部が浮かないように指示した。測定2から7日前に事前練習を1回実施した。測定は5秒の収縮を2回,間の休憩は1分とした。条件の順はランダムに行い条件間の休憩は10分以上とした。
2回測定の最大値から筋力トルク体重比を算出した。固定なし,固定ありの2条件間でPearsonの相関分析及び対応のあるt検定を行った。いずれの検定も有意水準は5%未満とした。
【結果】
対象者47名のうち,筋力トルク体重比が重さトルク体重比以下であった29名(男性14名,女性15名,平均年齢50±4.9歳)で分析した。相関分析の結果2条件間に有意な相関が認められた(r=0.55,p<0.01)。トルク体重比は固定あり1.73±0.47 Nm/kg,固定なし1.57±0.31Nm/kgで固定なしは有意にトルク体重比が低かった(p<0.05)。
【考察】
今回の結果から,被験者の筋力トルク体重比が重さトルク体重比よりも弱い場合,相関関係は認められたが,固定なしの場合に測定値が弱くなることが明らかとなった。よって,被験者の筋力トルク体重比が重さのトルク体重比より低ければ固定なしでも固定した場合と同様な測定が可能であるという仮説は否定された。その原因の一つとして,被験者に行った「測定時に臀部が浮かないように」との指示が適切ではなく,臀部が浮いてしまうことを気にして十分な力を発揮できなかった可能性がある。今後は被験者が最大限に筋力発揮できるような指示の方法を検討する必要があると思われる。
【理学療法学研究としての意義】
ハンドヘルドダイナモメータを用いて最大膝伸展筋力を計測する方法を検証することは,今後の理学療法において簡便な筋力評価を確立するうえで重要である。
トルクマシンや最大等尺性筋力測定器などの測定器を使用した膝伸展筋力測定の際には,被験者の体の浮き上がりを防ぐため,被験者の体をベルトで椅子に固定して測定する。ハンドヘルドダイナモメータでの膝伸展筋力測定は簡易的である反面,被験者の体を固定せずに行うため,被験者の筋力が体の重さよりも強い場合には臀部が座面から浮いてしまい最大筋力が測定できない可能性がある。我々は,筋力が強い対象者において体を固定しない場合は最大筋力が測定できないことを報告した。しかし,筋力が弱い対象者においては体を固定せずに測定しても臀部が浮かないので最大筋力が測定できると考えられる。従って,最大筋力測定が可能と不可能とを分ける筋力は上半身の重さで作り出されるトルク体重比(以下,重さトルク体重比)であると仮説をたてた。そこで,この研究の目的は,対象者の筋力が重さトルク体重比未満だと固定なしでも固定した場合と同じように測定が可能かを明らかにすることである。
【方法】
対象は健常成人,および当院理学療法科を受診中の65歳以上の患者で神経筋疾患,脊椎疾患,運動制限のある呼吸・循環器疾患,認知症,測定下肢の外傷のない者とした。また測定中に痛みを訴えた者,固定ありで測定した筋力トルク体重比が重さトルク体重比以上の者を除外した。
全ての測定は同一検者1名が行った。徒手保持型筋力測定器(モービー,酒井医療社製)を使用し,右側の最大等尺性膝伸展筋力を測定した。測定条件は被験者の体の固定ありと固定なしの2条件とした。測定姿位は股関節・膝関節90度屈曲位の座位とし,センサベルトを後方の支柱に下腿軸と垂直になるよう締結し,高さはベルトの下縁が被験者の外果下縁から3横指近位で床と水平になるように調整した。膝関節中心からセンサベルト中心までの距離を測定した。固定ありでは,椅子に体幹,骨盤,大腿をベルトで固定し上肢は椅子横のレバーを把持した。固定なしでは,端座位をとり上肢は体側に支持し,体幹を垂直に保ち臀部が浮かないように指示した。測定2から7日前に事前練習を1回実施した。測定は5秒の収縮を2回,間の休憩は1分とした。条件の順はランダムに行い条件間の休憩は10分以上とした。
2回測定の最大値から筋力トルク体重比を算出した。固定なし,固定ありの2条件間でPearsonの相関分析及び対応のあるt検定を行った。いずれの検定も有意水準は5%未満とした。
【結果】
対象者47名のうち,筋力トルク体重比が重さトルク体重比以下であった29名(男性14名,女性15名,平均年齢50±4.9歳)で分析した。相関分析の結果2条件間に有意な相関が認められた(r=0.55,p<0.01)。トルク体重比は固定あり1.73±0.47 Nm/kg,固定なし1.57±0.31Nm/kgで固定なしは有意にトルク体重比が低かった(p<0.05)。
【考察】
今回の結果から,被験者の筋力トルク体重比が重さトルク体重比よりも弱い場合,相関関係は認められたが,固定なしの場合に測定値が弱くなることが明らかとなった。よって,被験者の筋力トルク体重比が重さのトルク体重比より低ければ固定なしでも固定した場合と同様な測定が可能であるという仮説は否定された。その原因の一つとして,被験者に行った「測定時に臀部が浮かないように」との指示が適切ではなく,臀部が浮いてしまうことを気にして十分な力を発揮できなかった可能性がある。今後は被験者が最大限に筋力発揮できるような指示の方法を検討する必要があると思われる。
【理学療法学研究としての意義】
ハンドヘルドダイナモメータを用いて最大膝伸展筋力を計測する方法を検証することは,今後の理学療法において簡便な筋力評価を確立するうえで重要である。