[O-0550] インフォーマル・サポートを活用した予防理学療法の試み
~徒歩生活圏の拡大をめざして~
キーワード:介護予防, 予防理学療法, 包括ケアシステム
【はじめに,目的】
住み慣れた地域でいつまでも暮らし続けるには,既存の介護保険制度の枠内だけで完結できるものではない。さらに2014年介護保険法改正により,要支援者への介護予防サービスを,これまでの介護保険給付サービスから,市町村が実施する地域支援事業の中に移行することが決まった。そこでは介護保険制度による「公助」と住民ら「互助」によるインフォーマル・サポートとのバランスのとれた「包括ケアシステム」の整備が喫緊の課題となる。そのためにはこれまで介護予防事業で展開されている心身機能のみならず,“活動”や“参加”の要素に働きかける新たな予防理学療法の展開が求められる。今回要援助高齢者を対象に,空き店舗を転用した地域レストラン,NPOが運営するシニア交流の場など,インフォーマル・サポートを活用した予防理学療法の試みが徒歩生活圏に影響を及ぼすか検証した。
【方法】
対象者は自治会・民生委員を通じこれまでに見守り活動の一環である「声かけ訪問」や「緊急カプセル」を導入した要援助高齢者36名を対象に,同意が得られ介護認定を受けず,外出可能な男女29名(男6名,女23名,平均年齢は75.1±5.2歳)が対象者となった。予防理学療法のプログラム内容は,乗り物をなるべく使わず徒歩にて外出を促すことを目的に,1)「ふれ合い昼食」:近隣との交流を深める目的に地域レストランが提供する週1回の昼食,2)「ふれ合い喫茶」:趣味や外出を促す目的にNPOが提供する週1回の喫茶,3)「ふれ合い講座」:乗り物を使わず歩くことが地域コミュニティとのつながりにいかに重要であるかを目的とした講座4回,10週間実施した。地域レストランやNPOなどインフォーマルなサービス情報を集約したリーフレットを作成し,対象者に配布した。運動機能としてTimed Up and Go test(TUG)とChair Stand Test(CST),日常生活機能は老研式活動能力指標(老健式),徒歩による生活空間はLife-Space Assessmentの下位項目である「自宅近隣」と「町内」を評価した。現在の主観的健康観について4件法で回答を求めた行時の転倒に対する不安感についても4件法で回答を求めた。介入前後の比較についてTUG,CST,老健式は対応のあるT検定を,それ以外の項目ではWilcoxonの符号付順位検定を用い,統計学的有意水準は5%とした。
【結果】
1名の脱落者を除く28名が10週間にわたる本プログラムを完了した。TUGは9.12(1.9)→8.95(1.7),老研式は11.32(1.7)→11.5(1.4)とそれぞれ有意差はみられなかった。CSTは12.24(1.6)→11.95(1.8)と有意差がみられた(p<0.05)。生活空間の「自宅近隣」については,介入前「週4~6回」7名から介入後16名へと有意に増加する結果が得られた(p<0.05)。「町内」について有意差は認められなかった。主観的健康観についても有意差はみられなかったが,転倒恐怖感については,介入前「少し怖い」が11名から介入後6名と有意に減少する結果となった(p<0.05)。
【考察】
今回,地域レストランや交流の場のインフォーマル・サポートを活用した取組みを10週間実施し,徒歩生活圏への影響を検討した。その結果「自宅近隣」では有意差がみられ,徒歩による近隣への外出頻度の増加が確認できた。さらに生活空間が拡大し近隣周辺を歩行する機会が増えたことにより,転倒不安感の軽減につながったものと考える。低強度の家庭内活動が高齢者の下肢機能に影響を及ぼすことが知られており,本介入では下肢筋力強化を目的とはしていなが,介入前に比べ生活空間が拡大し,近隣周辺を歩行する頻度が増加した結果,CSTが改善したものと考える。
今後益々必要とされる住民らによる互助的活動を推進・支援するためには,“活動”や“参加”の要素に働きかける新たな予防理学療法を確立しなければならない。そのためには理学療法士は自治会に積極的に働きかけ,地域包括支援センターと連携しながら近隣資源の情報を集約し,徒歩生活圏の拡大を図れるよう,インフォーマル・サポートを上手く活用した地域づくりに参画することが必要であると考える。
【理学療法学研究としての意義】本研究では理学療法士自ら自治会へアウトリーチし,民生委員の協力を得て地域住民を巻き込んだ取組みを行った。予防理学療法の確立には,自治会へ積極的にはたらきかけ,自助と互助を推進・支援する生活モデルに基づいた理学療法士の役割を担う必要があると考える。
住み慣れた地域でいつまでも暮らし続けるには,既存の介護保険制度の枠内だけで完結できるものではない。さらに2014年介護保険法改正により,要支援者への介護予防サービスを,これまでの介護保険給付サービスから,市町村が実施する地域支援事業の中に移行することが決まった。そこでは介護保険制度による「公助」と住民ら「互助」によるインフォーマル・サポートとのバランスのとれた「包括ケアシステム」の整備が喫緊の課題となる。そのためにはこれまで介護予防事業で展開されている心身機能のみならず,“活動”や“参加”の要素に働きかける新たな予防理学療法の展開が求められる。今回要援助高齢者を対象に,空き店舗を転用した地域レストラン,NPOが運営するシニア交流の場など,インフォーマル・サポートを活用した予防理学療法の試みが徒歩生活圏に影響を及ぼすか検証した。
【方法】
対象者は自治会・民生委員を通じこれまでに見守り活動の一環である「声かけ訪問」や「緊急カプセル」を導入した要援助高齢者36名を対象に,同意が得られ介護認定を受けず,外出可能な男女29名(男6名,女23名,平均年齢は75.1±5.2歳)が対象者となった。予防理学療法のプログラム内容は,乗り物をなるべく使わず徒歩にて外出を促すことを目的に,1)「ふれ合い昼食」:近隣との交流を深める目的に地域レストランが提供する週1回の昼食,2)「ふれ合い喫茶」:趣味や外出を促す目的にNPOが提供する週1回の喫茶,3)「ふれ合い講座」:乗り物を使わず歩くことが地域コミュニティとのつながりにいかに重要であるかを目的とした講座4回,10週間実施した。地域レストランやNPOなどインフォーマルなサービス情報を集約したリーフレットを作成し,対象者に配布した。運動機能としてTimed Up and Go test(TUG)とChair Stand Test(CST),日常生活機能は老研式活動能力指標(老健式),徒歩による生活空間はLife-Space Assessmentの下位項目である「自宅近隣」と「町内」を評価した。現在の主観的健康観について4件法で回答を求めた行時の転倒に対する不安感についても4件法で回答を求めた。介入前後の比較についてTUG,CST,老健式は対応のあるT検定を,それ以外の項目ではWilcoxonの符号付順位検定を用い,統計学的有意水準は5%とした。
【結果】
1名の脱落者を除く28名が10週間にわたる本プログラムを完了した。TUGは9.12(1.9)→8.95(1.7),老研式は11.32(1.7)→11.5(1.4)とそれぞれ有意差はみられなかった。CSTは12.24(1.6)→11.95(1.8)と有意差がみられた(p<0.05)。生活空間の「自宅近隣」については,介入前「週4~6回」7名から介入後16名へと有意に増加する結果が得られた(p<0.05)。「町内」について有意差は認められなかった。主観的健康観についても有意差はみられなかったが,転倒恐怖感については,介入前「少し怖い」が11名から介入後6名と有意に減少する結果となった(p<0.05)。
【考察】
今回,地域レストランや交流の場のインフォーマル・サポートを活用した取組みを10週間実施し,徒歩生活圏への影響を検討した。その結果「自宅近隣」では有意差がみられ,徒歩による近隣への外出頻度の増加が確認できた。さらに生活空間が拡大し近隣周辺を歩行する機会が増えたことにより,転倒不安感の軽減につながったものと考える。低強度の家庭内活動が高齢者の下肢機能に影響を及ぼすことが知られており,本介入では下肢筋力強化を目的とはしていなが,介入前に比べ生活空間が拡大し,近隣周辺を歩行する頻度が増加した結果,CSTが改善したものと考える。
今後益々必要とされる住民らによる互助的活動を推進・支援するためには,“活動”や“参加”の要素に働きかける新たな予防理学療法を確立しなければならない。そのためには理学療法士は自治会に積極的に働きかけ,地域包括支援センターと連携しながら近隣資源の情報を集約し,徒歩生活圏の拡大を図れるよう,インフォーマル・サポートを上手く活用した地域づくりに参画することが必要であると考える。
【理学療法学研究としての意義】本研究では理学療法士自ら自治会へアウトリーチし,民生委員の協力を得て地域住民を巻き込んだ取組みを行った。予防理学療法の確立には,自治会へ積極的にはたらきかけ,自助と互助を推進・支援する生活モデルに基づいた理学療法士の役割を担う必要があると考える。