第50回日本理学療法学術大会

講演情報

口述

口述73

予防理学療法6

2015年6月6日(土) 16:10 〜 17:10 第9会場 (ガラス棟 G409)

座長:柴喜崇(北里大学医療衛生学部)

[O-0552] 介護予防事業参加者の身体機能改善効果と精神心理面の改善の関係

新井武志1,2, 大渕修一2, 河合恒2 (1.目白大学保健医療学部理学療法学科, 2.東京都健康長寿医療センター高齢者健康増進事業支援室)

キーワード:介護予防, 身体機能, 精神心理評価

【はじめに,目的】高齢者の健康寿命の延伸を目的とした介護予防事業が,全国各地で実施されており,一定の成果を上げている。中でも,運動器の機能向上プログラムでは,身体機能の向上だけでなく,健康関連QOLや転倒自己効力感など精神心理面の改善も報告されている。しかし,これまでの調査研究によれば,身体機能の改善が必ずしも精神心理面の改善とは関連しないとの報告もあり,高齢期における身体機能と精神機能面との関連についてはいまだ議論のあるところである。本研究では,都内自治体で実施された運動器の機能向上プログラムにおいて,運動介入前後の身体機能改善効果が精神心理面の改善効果と関連するのか検討した。【方法】本研究の対象者は,東京都A市で実施されている虚弱高齢者向けの運動教室に参加した地域在住の高齢者239名(男性78名,女性161名)であった。参加者は,マシン筋トレやバランストレーニング,ストレッチを組み合わせた,3か月間の運動プログラムに参加した。評価項目は,身体機能が,歩行時間(通常,最大),Timed Up & Go(TUG),片足立ち時間,ファンクショナル・リーチ,握力,膝伸展筋力,膝伸展角速度であった。精神心理面の評価は,健康関連QOL(SF-36の身体および精神のサマリースコア),Tinettiらの転倒自己効力感(MFES),うつ簡易検査(GDS)とした。これらを事前事後に測定した。統計処理として,事前事後でt検定を行い,有意な改善の認められた項目の変化量(事後―事前)を算出,身体機能面の変化量と精神心理面の変化量の相関係数を年齢を調整変数とした偏相関係数で評価した。有意水準は,いずれも危険率5%未満とした。【結果】運動プログラム終了前後で,身体機能面,精神倫理面の評価,全てが有意な改善を認めた。SF-36の身体機能サマリースコアの変化量は,歩行時間(通常,最大)の変化量およびTUGの変化量と有意な相関を認めた。しかし,MFESやGDSの変化量はいずれの身体機能の変化量とも有意な相関関係を示さなかった。【考察】本研究では,身体機能の改善が精神心理面の改善に関連するのかに焦点を置いて相関関係を調べてたところ,歩行,TUGなどの移動能力の改善量がSF-36の身体的サマリースコアの改善量と相関を認めた。移動能力が改善することが,自身の身体機能の自覚的認知に好影響を及ぼすことが示唆された。しかし,GDSやMFESについては,身体機能の改善が必ずしもうつ傾向や自己効力感の改善に好影響を与えるわけでないと考えられた。それらの因果,つまり,身体機能を改善すればうつや自己効力感が改善するのかについては引き続き議論が残る。多様な因子が複雑に関係している可能性が考えられるため,今後因子分析など多変量解析を用いて検討していく必要があると考えられる。【理学療法学研究としての意義】理学療法士は英語ではPhysical Therapistと表記されるように,我々の主たる介入目標は身体(Physical)である。しかし,身体機能の改善が及ぼす波及効果については視野に入れて介入を行っている。今回,身体機能の改善が対象者自身の主観的な身体的健康度の認知に好影響を与えていることが示唆せれ,我々の介入が健康関連QOLにも好影響を及ぼすことが示された。