[O-0554] 虚弱高齢者の運動介入前後における身体機能とセルフ・エフィカシーの関連
Keywords:介護予防, 自己効力感, 地域在住高齢者
【はじめに,目的】
介護予防とは「要介護状態の発生をできる限り防ぐ(遅らせる)こと,そして要介護状態にあってもその悪化をできる限り防ぐこと,さらには軽減を目指すこと」と定義されている。そして介護予防の具体的な手段である介護予防ケアマネジメントにおいて,明確な目標設定をするためには,介入の効果に影響する因子や,その影響を評価したデータ(エビデンス)が必要と考えられる。しかし,どのような対象に,どのような介入効果が期待できるかといった予後予測についてエビデンスは皆無に近い。運動介入効果に影響を与える因子の一つとして自己効力感(セルフ・エフィカシー:以下SE)が注目されており,SEを身体機能改善の予測因子とした効果の影響について研究が進められている。本研究では虚弱高齢者向けに開発された身体活動SE尺度を使用し,運動器の機能向上プログラムに参加した地域在住虚弱高齢者への運動介入効果(具体的には,運動介入前後の身体機能変化量)に対する介入前の身体活動SEの影響を検討することを目的とした。
【方法】
対象は都内A自治体の地域在住高齢者で,プログラム参加者44名とした。身体機能の評価は握力,開眼片足立ち時間,Timed Up & Go(以下TUG),5m通常歩行時間(以下通常歩行),5m最大歩行時間(以下最大歩行),膝伸展筋力体重比を測定した。SEに関しては稲葉らの虚弱高齢者の身体活動SE尺度で評価を行った。統計処理に関して身体機能評価の変化については,対応のあるt検定を用いて評価した。SEに関してはWilcoxon符号付き順位和検定で評価した。有意な変化・改善の認められた項目は,介入前後での変化量を算出し,介入前のSEと介入前後での身体機能の変化量との相関関係についてSpearmanの順位相関係数と,介入前の身体機能を制御変数として投入した偏相関係数を用いて評価した。統計解析にはIBM SPSS statistics 21を使用し,危険率5%未満を有意とした。
【結果】
運動プログラムを中断した者は9名(20.0%),プログラム修了者の平均の出席率は80.8%であった。運動介入前後での変化では,身体機能に関してはTUG・通常歩行・最大歩行・膝伸展筋力体重比で統計上有意な改善が認められた。SEに関しては歩行SEに有意な向上が認められた。有意な変化が認められた身体機能の変化量と介入前のSEとの相関関係については,介入前の身体活動SEと最大歩行変化量(r=0.42,p<0.05),階段昇りSEと最大歩行変化量(r=0.39,p<0.05)に有意な正の相関関係を認めた。重量物挙上SEは,TUG変化量(r=0.40,p<0.05),最大歩行変化量(r=0.35,p<0.05)と有意な正の相関関係を認めた。しかし,介入前の身体機能評価数値を制御変数として投入した偏相関係数で評価したところ,いずれの関係も有意な相関関係は認められなかった。
【考察】
介入前のSEと身体機能変化量の関係については,介入前の身体活動SEおよび階段昇りSEは最大歩行の変化量と,重量物挙上SEはTUGの変化量と有意な正の相関関係が認められた。しかし,介入前のSEと身体機能には有意な相関関係があるため,制御変数として介入前の身体機能評価数値を投入したところ,偏相関係数では介入前のSEと身体機能変化量に有意な相関関係は認められなかった。先行研究において,新井らは身体機能のレベルが低いものほど身体機能改善効果が高いことを報告している。制御変数である介入前の身体機能の影響を取り除くと介入前のSEの高・低は身体機能変化量に影響を与えないという本研究の結果と,新井らの先行研究の結果を合わせて考えると,身体機能の改善効果には介入前のSEよりは,むしろ介入前の身体機能レベルが強く影響しているものと考えられる。したがって,本研究の結果は介入前のSEの高・低にかかわらず,高齢者の身体機能を向上させられる可能性を示唆していると考える。
【理学療法学研究としての意義】
SEの介入前の状態が身体機能の変化量にどのように影響するか明らかにできれば,介護予防の効果・予後予測や,より明確で効果の高いケアプラン作成の重要な示唆が得られると考えられ,その点で大きな意義があると考える。
介護予防とは「要介護状態の発生をできる限り防ぐ(遅らせる)こと,そして要介護状態にあってもその悪化をできる限り防ぐこと,さらには軽減を目指すこと」と定義されている。そして介護予防の具体的な手段である介護予防ケアマネジメントにおいて,明確な目標設定をするためには,介入の効果に影響する因子や,その影響を評価したデータ(エビデンス)が必要と考えられる。しかし,どのような対象に,どのような介入効果が期待できるかといった予後予測についてエビデンスは皆無に近い。運動介入効果に影響を与える因子の一つとして自己効力感(セルフ・エフィカシー:以下SE)が注目されており,SEを身体機能改善の予測因子とした効果の影響について研究が進められている。本研究では虚弱高齢者向けに開発された身体活動SE尺度を使用し,運動器の機能向上プログラムに参加した地域在住虚弱高齢者への運動介入効果(具体的には,運動介入前後の身体機能変化量)に対する介入前の身体活動SEの影響を検討することを目的とした。
【方法】
対象は都内A自治体の地域在住高齢者で,プログラム参加者44名とした。身体機能の評価は握力,開眼片足立ち時間,Timed Up & Go(以下TUG),5m通常歩行時間(以下通常歩行),5m最大歩行時間(以下最大歩行),膝伸展筋力体重比を測定した。SEに関しては稲葉らの虚弱高齢者の身体活動SE尺度で評価を行った。統計処理に関して身体機能評価の変化については,対応のあるt検定を用いて評価した。SEに関してはWilcoxon符号付き順位和検定で評価した。有意な変化・改善の認められた項目は,介入前後での変化量を算出し,介入前のSEと介入前後での身体機能の変化量との相関関係についてSpearmanの順位相関係数と,介入前の身体機能を制御変数として投入した偏相関係数を用いて評価した。統計解析にはIBM SPSS statistics 21を使用し,危険率5%未満を有意とした。
【結果】
運動プログラムを中断した者は9名(20.0%),プログラム修了者の平均の出席率は80.8%であった。運動介入前後での変化では,身体機能に関してはTUG・通常歩行・最大歩行・膝伸展筋力体重比で統計上有意な改善が認められた。SEに関しては歩行SEに有意な向上が認められた。有意な変化が認められた身体機能の変化量と介入前のSEとの相関関係については,介入前の身体活動SEと最大歩行変化量(r=0.42,p<0.05),階段昇りSEと最大歩行変化量(r=0.39,p<0.05)に有意な正の相関関係を認めた。重量物挙上SEは,TUG変化量(r=0.40,p<0.05),最大歩行変化量(r=0.35,p<0.05)と有意な正の相関関係を認めた。しかし,介入前の身体機能評価数値を制御変数として投入した偏相関係数で評価したところ,いずれの関係も有意な相関関係は認められなかった。
【考察】
介入前のSEと身体機能変化量の関係については,介入前の身体活動SEおよび階段昇りSEは最大歩行の変化量と,重量物挙上SEはTUGの変化量と有意な正の相関関係が認められた。しかし,介入前のSEと身体機能には有意な相関関係があるため,制御変数として介入前の身体機能評価数値を投入したところ,偏相関係数では介入前のSEと身体機能変化量に有意な相関関係は認められなかった。先行研究において,新井らは身体機能のレベルが低いものほど身体機能改善効果が高いことを報告している。制御変数である介入前の身体機能の影響を取り除くと介入前のSEの高・低は身体機能変化量に影響を与えないという本研究の結果と,新井らの先行研究の結果を合わせて考えると,身体機能の改善効果には介入前のSEよりは,むしろ介入前の身体機能レベルが強く影響しているものと考えられる。したがって,本研究の結果は介入前のSEの高・低にかかわらず,高齢者の身体機能を向上させられる可能性を示唆していると考える。
【理学療法学研究としての意義】
SEの介入前の状態が身体機能の変化量にどのように影響するか明らかにできれば,介護予防の効果・予後予測や,より明確で効果の高いケアプラン作成の重要な示唆が得られると考えられ,その点で大きな意義があると考える。