[O-0555] 膝痛ならびに腰痛を有する地域在住高齢者の運動機能,心理面,身体活動量,転倒リスクの特性
キーワード:地域在住高齢者, 痛み発生部位, 身体活動量
【目的】痛みは運動機能の低下や抑うつなどといった心理面の障害に影響をおよぼすだけでなく,身体活動量の低下,すなわち不活動状態の惹起とも関連することが報告されている。疫学調査の結果では,膝痛や腰痛の有訴者数は加齢とともに増加することが明らかになっており,地域在住高齢者を対象とした自験例の調査結果でも膝痛や腰痛は高頻度に認められている。つまり,膝痛や腰痛を有する高齢者では,運動機能の低下や心理面の障害,身体活動量の低下により転倒する可能性が高く,活動や参加の制限を引き起こすことが考えられる。しかし,これらの痛みを有する高齢者の運動機能,心理面,身体活動量,転倒リスクを検討した報告はなく,具体的な痛み対策についても明確に示されていない。本研究の目的は,痛みの発生部位に着目し,地域在住高齢者の運動機能,心理面,身体活動量,転倒リスクの特性を明らかにすることである。
【方法】対象は,介護予防事業に参加し何らかの痛みを有する65歳以上の地域在住高齢者240名(平均77.2歳,男性36名,女性204名)とした。対象者の痛み発生部位は,身体図式を用いて対面問診により聴取し,評価項目は,運動機能,心理面,身体活動量,転倒リスク数とした。運動機能は,椅子起立時間とTimed up and go testを測定し,心理面は老年期うつ評価尺度(GDS-15)を用いて評価した。身体活動量は3軸加速度計ライフコーダ(スズケン社製)を1週間装着してもらい,その際の平均歩数を算出した。転倒リスク数は,鈴木らの15項目の転倒アセスメントを用いて,その合計数から評価した。分析は,痛み発生部位によって対象者を膝に痛みを有する者(膝痛群),腰に痛みを有する者(腰痛群),膝と腰の両方に痛みを有する者(膝・腰痛群),膝と腰以外に痛みを有する者(対照群)の4群に分類し,運動機能,心理面,身体活動量,転倒リスク数を比較した。統計処理は,一元配置分散分析を用いて有意差を判定し,有意差を認めた場合は多重比較検定(Tukey法)を行った。
【結果】痛みの発生部位別の人数は,膝痛群57名(平均76.5歳),腰痛群60名(平均77.7歳),膝・腰痛群97名(平均77.5歳),対照群26名(平均76.4歳)であった。一元配置分散分析の結果,椅子起立時間,GDS-15,歩数,転倒リスク数に有意差を認めた(p<0.05)。さらに多重比較の結果,椅子起立時間では,膝・腰痛群が腰痛群より有意に高値を示し,GDS-15では,膝・腰痛群が膝痛群ならびに腰痛群よりも有意に高値を示した。歩数では,腰痛群が膝痛群ならびに対照群よりも有意に低値を示し,膝・腰痛群が対照群より有意に低値を示した。転倒リスク数では,膝・腰痛群が対照群よりも有意に高値を示した。対照群と膝痛群の2群間には全ての項目で有意差を認めなかった。
【考察】介護予防事業に参加した多くの地域在住高齢者で膝痛と腰痛を有しており,特に膝痛と腰痛を合併している高齢者が多かった。痛みの発生部位別の特性として,膝痛を有している高齢者では,運動機能や心理面,身体活動量,転倒リスクは膝と腰以外に痛みを有している高齢者と同等であることが考えられた。一方,腰痛を有している高齢者では,膝やその他の部位に痛みを有している高齢者と比べ,歩数が低下していた。つまり,腰痛と身体活動量の低下は相互に関連しており,腰痛の発生と不活動状態の惹起といった悪循環に至っている可能性が示唆された。さらに,膝痛と腰痛を合併している高齢者では,歩数の減少だけでなく下肢筋力の低下やうつ症状が著しくなり,転倒リスクも高くなることが明らかとなった。したがって,膝痛と腰痛を合併している高齢者では,転倒予防の観点が必要となり,運動機能や心理面,身体活動量を総合した評価介入が必要であると思われた。本研究は,痛みの発生部位に着目し上記した評価項目の特性について検討したが,痛みの期間や部位数ならびに痛みの程度については検討ができていない。今後は,これらに点を考慮した更なる研究が必要である。
【理学療法学研究としての意義】地域在住高齢者では痛みを高頻度に認めるにも関わらず,具体的な痛み対策については示されていない。本研究より,痛みの発生部位別の運動機能,心理面,身体活動量,転倒リスクの特性について明らかとなったことは,高齢者に対する痛み評価の重要性を提示できたとともに,痛みを有する高齢者に対する効果的な介入プログラムの提供につなげる上でも非常に意義があると考える。
【方法】対象は,介護予防事業に参加し何らかの痛みを有する65歳以上の地域在住高齢者240名(平均77.2歳,男性36名,女性204名)とした。対象者の痛み発生部位は,身体図式を用いて対面問診により聴取し,評価項目は,運動機能,心理面,身体活動量,転倒リスク数とした。運動機能は,椅子起立時間とTimed up and go testを測定し,心理面は老年期うつ評価尺度(GDS-15)を用いて評価した。身体活動量は3軸加速度計ライフコーダ(スズケン社製)を1週間装着してもらい,その際の平均歩数を算出した。転倒リスク数は,鈴木らの15項目の転倒アセスメントを用いて,その合計数から評価した。分析は,痛み発生部位によって対象者を膝に痛みを有する者(膝痛群),腰に痛みを有する者(腰痛群),膝と腰の両方に痛みを有する者(膝・腰痛群),膝と腰以外に痛みを有する者(対照群)の4群に分類し,運動機能,心理面,身体活動量,転倒リスク数を比較した。統計処理は,一元配置分散分析を用いて有意差を判定し,有意差を認めた場合は多重比較検定(Tukey法)を行った。
【結果】痛みの発生部位別の人数は,膝痛群57名(平均76.5歳),腰痛群60名(平均77.7歳),膝・腰痛群97名(平均77.5歳),対照群26名(平均76.4歳)であった。一元配置分散分析の結果,椅子起立時間,GDS-15,歩数,転倒リスク数に有意差を認めた(p<0.05)。さらに多重比較の結果,椅子起立時間では,膝・腰痛群が腰痛群より有意に高値を示し,GDS-15では,膝・腰痛群が膝痛群ならびに腰痛群よりも有意に高値を示した。歩数では,腰痛群が膝痛群ならびに対照群よりも有意に低値を示し,膝・腰痛群が対照群より有意に低値を示した。転倒リスク数では,膝・腰痛群が対照群よりも有意に高値を示した。対照群と膝痛群の2群間には全ての項目で有意差を認めなかった。
【考察】介護予防事業に参加した多くの地域在住高齢者で膝痛と腰痛を有しており,特に膝痛と腰痛を合併している高齢者が多かった。痛みの発生部位別の特性として,膝痛を有している高齢者では,運動機能や心理面,身体活動量,転倒リスクは膝と腰以外に痛みを有している高齢者と同等であることが考えられた。一方,腰痛を有している高齢者では,膝やその他の部位に痛みを有している高齢者と比べ,歩数が低下していた。つまり,腰痛と身体活動量の低下は相互に関連しており,腰痛の発生と不活動状態の惹起といった悪循環に至っている可能性が示唆された。さらに,膝痛と腰痛を合併している高齢者では,歩数の減少だけでなく下肢筋力の低下やうつ症状が著しくなり,転倒リスクも高くなることが明らかとなった。したがって,膝痛と腰痛を合併している高齢者では,転倒予防の観点が必要となり,運動機能や心理面,身体活動量を総合した評価介入が必要であると思われた。本研究は,痛みの発生部位に着目し上記した評価項目の特性について検討したが,痛みの期間や部位数ならびに痛みの程度については検討ができていない。今後は,これらに点を考慮した更なる研究が必要である。
【理学療法学研究としての意義】地域在住高齢者では痛みを高頻度に認めるにも関わらず,具体的な痛み対策については示されていない。本研究より,痛みの発生部位別の運動機能,心理面,身体活動量,転倒リスクの特性について明らかとなったことは,高齢者に対する痛み評価の重要性を提示できたとともに,痛みを有する高齢者に対する効果的な介入プログラムの提供につなげる上でも非常に意義があると考える。