第50回日本理学療法学術大会

講演情報

口述

口述74

地域理学療法7

2015年6月6日(土) 16:10 〜 17:10 第10会場 (ガラス棟 G602)

座長:鈴木英樹(日高在宅療養支援センター デイサービス)

[O-0556] ショートステイ入所前後における要介護高齢者の日常生活動作,行動心理症状と介護者の介護負担の変化についての検討

岡前暁生1, 原田和宏2, 岡田誠1, 松下和弘1, 村岸亜伊子1, 和田智弘1, 内山侑紀3, 福田能啓3, 浅川康吉4, 道免和久5 (1.兵庫医科大学ささやま医療センター, 2.吉備国際大学大学院保健科学研究科, 3.兵庫医科大学地域総合医療学, 4.群馬大学大学院保健学研究科保健学専攻, 5.兵庫医科大学リハビリテーション医学教室)

キーワード:ショートステイ, 要介護高齢者, 介護負担

【はじめに,目的】
ショートステイは介護者のレスパイト目的などに利用されている。海外では約2週間の入所による高齢者のADL・問題行動の変化の有無や程度について報告があるが一定した見解は示されていない。また,これらの先行研究では評価前1週間以上の状態を評定しているものが多い。一方国内では,ショートステイの入所期間は1週間以内のものが多く,入所前後の調査による機能的状態の変化については検証されていない。また,入所前後の介護者の介護負担の変化に関連する要因については十分に検討されていない。本研究の目的は,ショートステイ入所前後の要介護高齢者のADLおよび行動心理症状の変化を2日間の評定により記述し,併せて介護者の介護負担の変化に関連する要因について検証することである。
【方法】
対象は,平成25年7月~平成26年6月までに介護老人保健施設のショートステイを利用した要介護高齢者50名(男性23名,性27名),平均年齢84.0±9.8歳,その主介護者50名(男性4名,女性46名),平均年齢63.2±9.3歳である。除外基準は,緊急利用となった者,病状の不安定な者や急な体調の変化が生じた者,病院や施設からの入退所者,普段の生活の様子を観察できる介護者がいない者,介護者から正確な情報を得ることが困難な者とした。調査は入所前後に主介護者から回答を得た。記載内容は,入所前については入所2日前から前日の様子,入所後については退所翌日から2日後の様子とした。要介護者の評価項目は,基本属性,ADLの指標としてBarthel Index(以下BI),抑うつ状態の指標としてCornell Scale for Depression in Dementia(以下CSDD)を2日間評定に改変した改変版,行動心理症状の指標としてNeuropsychiatric Inventory(以下NPI)を2日間評定の重症度得点に改変した改変版,意欲の指標としてVitality Index(以下VI)を用いた。介護者の評価項目は,基本属性,介護負担の指標としてZarit介護負担尺度短縮版(J-ZBI_8)を用いた。統計学的検定は,2日間評定の信頼性についてはBland-Altman分析を用いて本来の評定期間の値との間にある系統誤差を調べ,主観的指標で入所前後に変化がなかった対象者で検者内信頼性を検討した。入所前後の機能的状態の変化についてはWilcoxon検定を行った。介護負担の変化に関連する要因については維持改善群と悪化群に分け,基本属性と各評価項目をMann-WhitneyのU検定,χ2独立性の検定を用いて比較し,有意差が認められた項目を独立変数,介護負担の変化を従属変数としたロジスティック回帰分析を行った。有意水準は5%未満とした。
【結果】
NPI改変版はBland-Altman分析の結果,4週間評定と比較して比例誤差は認められなかったが加算誤差が認められ平均値で0.9点低い値であった。CSDD改変版は1週間評定と比較して系統誤差は認められなかった。検者内信頼性については,NPI改変版はカッパ係数が0.971,CSDD改変版は級内相関係数ICC(1,1)=0.981であった。BIは入所前(44.7±30.0)と比べ入所後(47.0±30.4)は有意に高値であった(p<0.05)。CSDD改変版は入所前(6.7±4.7)と比べ入所後(5.8±4.9)は有意に低値であった(p<0.05)。NPI改変版は入所前(2.1±2.9)と比べ入所後(1.5±1.9)は有意に低値であった(p<0.05)。VIは有意な差は認めなかった。介護負担の維持改善群(32名)と悪化群(18名)を比較した結果,要介護度(維持改善群で要介護度が高い)と介護者仕事の有無(維持改善群で仕事有が多い)で有意な差が認められた(p<0.05)。ロジスティック回帰分析の結果,要介護度(odds比=1.826,95%信頼区間1.041-3.203,p<0.05)と介護者仕事の有無(odds比=5.686,95%信頼区間1.018-31.760,p<0.05)が独立した有意な関連因子として抽出された。
【考察】
NPI改変版は本来の4週間評定と比べ行動心理症状がやや軽症になることを考慮する必要があるが,今回用いた2日間評定は良好な信頼性があることが示された。要介護高齢者のADL,行動心理症状は,入所前と比べ入所後で改善することが示唆された。入所前後の介護者の介護負担の変化は,要介護高齢者の介護度が高く,仕事をしている介護者において介護負担が軽減されやすいことが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
ショートステイに関わる理学療法士が行う日常生活における諸活動の自立性の向上のための介入の効果判定やより適切な介入を行うために,入所前後の自宅での要介護者と介護者の状態を把握することは重要である。