[O-0561] 妊娠末期における習慣的身体活動の分娩所要時間に及ぼす影響
キーワード:妊娠, 身体活動量, 分娩所要時間
【はじめに,目的】分娩所要時間の遷延は手術分娩や胎児の窒息,母体の感染症や合併症などのリスク上昇につながるといわれている。さらに,分娩時間の遷延は出産体験への不満感を招く一因子であり,その後の出産意欲を低下させるという報告もされている。これらのことから分娩は短縮化する必要があるといえる。分娩所要時間には有酸素能力や運動との関連が先行研究で報告されているが,骨盤底筋群トレーニングや水中エアロビクスなど特定の運動介入のものや,アスリートなど特殊な妊婦を対象としている研究が多い。しかし,多くの妊婦が子育てや仕事などの時間的制約によりこのような運動プログラムへの参加が出来ていないのが現状である。そのため,特定の運動だけでなく有酸素能力の維持・向上に効果的である日常生活での習慣的身体活動を維持することが重要と考えられる。また,初産婦と経産婦では分娩所要時間の平均時間が大きく異なる事は知られているにもかかわらず先行研究においては考慮されていない,あるいは初産婦のみを対象としているものがほとんどで経産婦についての報告は少ない。そこで本研究の目的は,初産婦,経産婦それぞれの妊娠末期における習慣的身体活動が分娩所要時間に与える影響を明らかにすることとした。
【方法】対象は妊娠末期に研究参加の同意が得られ,欠損なくデータ収集が出来た121名のうち,自然分娩により出産をした初産婦48名(平均年齢28.8±4.7歳,新生児体重=3058.6±371.5g),経産婦55名(平均年齢32.7±5.5歳,新生児体重=3167.7±366.1g)の合計103名とした。妊娠末期では一般情報に加え,習慣的身体活動を質問紙により評価した。妊娠末期における習慣的身体活動はBaecke physical activity Questionnaireの日本語版を用いた。初産婦と経産婦それぞれにおいて合計点数の中央値で高活動群と低活動群に群分けした。分娩所要時間は,分娩記録より分娩第1期,分娩第2期,総分娩時間に分けて収集した。全ての解析は初産婦,経産婦それぞれに対して実施した。各分娩所要時間の群間比較は,Wilcoxonの順位和検定で比較した。多変量解析では,目的変数を分娩所要時間,説明変数を高活動群/低活動群,交絡因子を年齢,妊娠前から記入時の増加体重,出産回数,新生児体重,出産時妊娠週数,妊娠前の運動の有無として強制投入法による重回帰分析を行った。
【結果】初産婦における高活動群と低活動群の間で分娩第1期時間,分娩第2期時間,総分娩時間に有意な違いはみられなかった。経産婦において,低活動群と比較して高活動群の分娩第2期の時間が有意に短かった(中央値(最小-最大):20(4-175)分,11(1-102)分,p<.05)。交絡因子の調整後においても高活動群の分娩第2期時間が有意に短かった(β=-.36,p=.007,R2=.28)。しかし,分娩第1期の時間と総分娩時間では2群間に有意な違いはみられなかった。
【考察】分娩所要時間に関与する因子として,陣痛と腹圧を合わせた娩出力と,産道,娩出物が分娩3要素といわれている。分娩第2期は陣痛に加えて妊婦のいきみによる腹圧が加わって胎児を娩出させる段階であり,この時期には妊婦の有酸素能力や腹筋群など骨格筋の収縮力が大きく関与しているため習慣的身体活動との関連が示唆されたと考えられる。一方で分娩第1期は分娩開始から,子宮頸管の熟化と,陣痛による胎児の下降で圧迫され子宮下部が伸展し子宮口が全開大するまでの時期であり,いきみは禁忌とされている。よって分娩第1期の時間は頸管の熟化と陣痛が主な要素であると考えられ,習慣的身体活動がこれらに影響を与えるのは困難であったと考えられる。また,総分娩時間のうち分娩1期の時間が大きな割合を占めているため,総分娩時間の短縮化に至らなかったものと考えられる。一方で初産婦に有意差がみられなかったことについては,初産婦は経産婦と比べて子宮頸部や外陰および会陰部が伸展しにくく軟産道の抵抗が強いため,娩出力以外に産道の抵抗性が分娩所要時間に大きく影響していることが考えられる。今後の研究で産道の抵抗性に影響する因子や,その他の分娩所要時間に関連する因子を解明する必要がある。
【理学療法学研究としての意義】妊娠末期の習慣的身体活動は経産婦の分娩第2期の時間に影響する一要因であることが示された。胎児・母体への悪影響は主に分娩第2期の遷延において多く報告されており,妊娠末期の女性に対して適切な運動習慣の指導を行うことで分娩経過と分娩結果に良い効果をもたらす可能性が示唆された。
【方法】対象は妊娠末期に研究参加の同意が得られ,欠損なくデータ収集が出来た121名のうち,自然分娩により出産をした初産婦48名(平均年齢28.8±4.7歳,新生児体重=3058.6±371.5g),経産婦55名(平均年齢32.7±5.5歳,新生児体重=3167.7±366.1g)の合計103名とした。妊娠末期では一般情報に加え,習慣的身体活動を質問紙により評価した。妊娠末期における習慣的身体活動はBaecke physical activity Questionnaireの日本語版を用いた。初産婦と経産婦それぞれにおいて合計点数の中央値で高活動群と低活動群に群分けした。分娩所要時間は,分娩記録より分娩第1期,分娩第2期,総分娩時間に分けて収集した。全ての解析は初産婦,経産婦それぞれに対して実施した。各分娩所要時間の群間比較は,Wilcoxonの順位和検定で比較した。多変量解析では,目的変数を分娩所要時間,説明変数を高活動群/低活動群,交絡因子を年齢,妊娠前から記入時の増加体重,出産回数,新生児体重,出産時妊娠週数,妊娠前の運動の有無として強制投入法による重回帰分析を行った。
【結果】初産婦における高活動群と低活動群の間で分娩第1期時間,分娩第2期時間,総分娩時間に有意な違いはみられなかった。経産婦において,低活動群と比較して高活動群の分娩第2期の時間が有意に短かった(中央値(最小-最大):20(4-175)分,11(1-102)分,p<.05)。交絡因子の調整後においても高活動群の分娩第2期時間が有意に短かった(β=-.36,p=.007,R2=.28)。しかし,分娩第1期の時間と総分娩時間では2群間に有意な違いはみられなかった。
【考察】分娩所要時間に関与する因子として,陣痛と腹圧を合わせた娩出力と,産道,娩出物が分娩3要素といわれている。分娩第2期は陣痛に加えて妊婦のいきみによる腹圧が加わって胎児を娩出させる段階であり,この時期には妊婦の有酸素能力や腹筋群など骨格筋の収縮力が大きく関与しているため習慣的身体活動との関連が示唆されたと考えられる。一方で分娩第1期は分娩開始から,子宮頸管の熟化と,陣痛による胎児の下降で圧迫され子宮下部が伸展し子宮口が全開大するまでの時期であり,いきみは禁忌とされている。よって分娩第1期の時間は頸管の熟化と陣痛が主な要素であると考えられ,習慣的身体活動がこれらに影響を与えるのは困難であったと考えられる。また,総分娩時間のうち分娩1期の時間が大きな割合を占めているため,総分娩時間の短縮化に至らなかったものと考えられる。一方で初産婦に有意差がみられなかったことについては,初産婦は経産婦と比べて子宮頸部や外陰および会陰部が伸展しにくく軟産道の抵抗が強いため,娩出力以外に産道の抵抗性が分娩所要時間に大きく影響していることが考えられる。今後の研究で産道の抵抗性に影響する因子や,その他の分娩所要時間に関連する因子を解明する必要がある。
【理学療法学研究としての意義】妊娠末期の習慣的身体活動は経産婦の分娩第2期の時間に影響する一要因であることが示された。胎児・母体への悪影響は主に分娩第2期の遷延において多く報告されており,妊娠末期の女性に対して適切な運動習慣の指導を行うことで分娩経過と分娩結果に良い効果をもたらす可能性が示唆された。