[O-0566] サッカーインステップキックの助走角度の違いが軸脚の床反力と足部・足関節の関節運動にあたえる影響
Keywords:インステップキック, 足部・足関節, マルチセグメントモデル
【はじめに,目的】
サッカーでは目的や状況に応じて様々な助走角度からボールを蹴ることが求められる。助走角度の違いによって軸脚に起こる変化は,競技力への影響のみならず,身体に過剰なストレスを生じさせる可能性があり,スポーツ障害の予防を考えるうえで重要な問題であると考えられる。特に,サッカー選手のスポーツ傷害統計では,足部・足関節が全体の約30%を占めると報告されている(Yardら,2008)。したがって,助走角度を変化させた際に,高い床反力をほぼ直接的に受けている軸脚の足部・足関節の関節運動を分析することは足部・足関節疾患との関係やこれらの予防を考えるうえで有益となる。足部・足関節のより詳細な運動学的分析のために,近年では足部を複数のセグメントに分割する足部マルチセグメントモデルが用いられている(Deschampsら,2011)。
本研究の目的は,足部マルチセグメントモデルのひとつであるOxford foot modelを用い,インステップキックの助走角度の変化に対し,軸脚の足部・足関節ではどのような挙動が起きているのか明らかにすることとした。仮説は,「キック方向に対して助走角度が大きくなることで,床反力の外側成分が増大し,足部・足関節の前額面上の関節運動が大きくなる」とした。
【方法】
対象は,現在足関節に整形外科疾患のない男性サッカー経験者9名(平均±SD:年齢23.2±5.1歳,身長174.5±3.2cm,体重66.8±4.2kg)とした。課題動作としてキック方向に対して0°,45°,90°の3つの助走角度から,利き脚で各3回の全力のインステップキックを施行した。運動学データは,足部・足関節の分節的な運動が測定可能なOxford foot modelを用いて,骨盤,両下肢に計43個の反射マーカーを貼付した。赤外線カメラ16台,床反力計8基からなる3次元動作分析装置(Vicon社)を用いて計測した。得られたデータからVICON NEXUS 1.8を使用し,Oxford foot modelに基づき処理を行い,軸脚の床反力,足アーチ高,および下腿,後足部,前足部のセグメント間の角度を算出した。なお,セグメント間の角度は,下腿に対する後足部の角度(HFTBA),下腿に対する前足部の角度(FFTBA),後足部に対する前足部の角度(FFHFA)の3種類を求めた。解析区間は軸脚の接地(TD)からボールインパクト(BI)までとし,これらの項目について,TD時の値,最大値(Peak),BI時の値を求めた。
統計学的解析にはSPSS Ver. 19.0 for Windows(IBM社)を使用した。3つの助走角度間での差の比較として反復測定分散分析を行い,多重比較にはBonferroni法を用いた。有意水準は5%とした。
【結果】
0°から90°へと助走角度が大きくなることで,PeakとBIの際の床反力の外側成分は有意に高値を,後方成分は有意に低値を示した(P<.05)。鉛直成分は条件間で有意差を認めなかった。アーチ高は条件間で差を認めなかった。0°と他の2条件間では,PeakのHFTBAの内外旋や内外反角度,FFTBAとFFHFAの回内外角度などに有意差を認めたが(P<.05),45°と90°間では一部を除いてどの項目も差はなかった。0°のHFTBAの内外反角度,FFTBAとFFHFAの回内外角度はTDからBIまでを通して他の2条件との間に有意差を認めた(P<.05)。
【考察】
PeakからBIにかけて,助走角度が大きくなるほど外側への床反力が増大し,後方への床反力が減少することが示されたことから,助走角度の違いによる床反力の変化が足部・足関節に加わるストレスの方向に影響する可能性がある。0°のようにキック方向に対して直線的な助走は斜方や側方からの助走とは異なる足部・足関節の関節運動を示すことが示された。直線的な助走は前額面や水平面上の運動方向に関して,より中間位に近い状態でキック動作が行える利点があり,足関節疾患後の復帰に向けた段階的なリハビリテーションにおいて有用となり得る。
さらに,多くの場合にTDの時点ですでに関節運動に助走角度の違いによる差が生じており,PeakやBIまでその傾向が継続していた。インステップキック時に軸脚の足関節は大きな床反力を緩衝する役割をもつといわれており(Inoueら,2014),サッカー経験者ではインステップキックを遂行するために助走角度に応じて接地前から軸脚の足部・足関節の関節角度を無意識的に変化させている可能性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
スポーツ理学療法領域において,インステップキック時に高い床反力を受ける軸脚の足部・足関節の挙動を分析することは,足部・足関節疾患との関係やこれらの予防を考えるうえで意義深い。
サッカーでは目的や状況に応じて様々な助走角度からボールを蹴ることが求められる。助走角度の違いによって軸脚に起こる変化は,競技力への影響のみならず,身体に過剰なストレスを生じさせる可能性があり,スポーツ障害の予防を考えるうえで重要な問題であると考えられる。特に,サッカー選手のスポーツ傷害統計では,足部・足関節が全体の約30%を占めると報告されている(Yardら,2008)。したがって,助走角度を変化させた際に,高い床反力をほぼ直接的に受けている軸脚の足部・足関節の関節運動を分析することは足部・足関節疾患との関係やこれらの予防を考えるうえで有益となる。足部・足関節のより詳細な運動学的分析のために,近年では足部を複数のセグメントに分割する足部マルチセグメントモデルが用いられている(Deschampsら,2011)。
本研究の目的は,足部マルチセグメントモデルのひとつであるOxford foot modelを用い,インステップキックの助走角度の変化に対し,軸脚の足部・足関節ではどのような挙動が起きているのか明らかにすることとした。仮説は,「キック方向に対して助走角度が大きくなることで,床反力の外側成分が増大し,足部・足関節の前額面上の関節運動が大きくなる」とした。
【方法】
対象は,現在足関節に整形外科疾患のない男性サッカー経験者9名(平均±SD:年齢23.2±5.1歳,身長174.5±3.2cm,体重66.8±4.2kg)とした。課題動作としてキック方向に対して0°,45°,90°の3つの助走角度から,利き脚で各3回の全力のインステップキックを施行した。運動学データは,足部・足関節の分節的な運動が測定可能なOxford foot modelを用いて,骨盤,両下肢に計43個の反射マーカーを貼付した。赤外線カメラ16台,床反力計8基からなる3次元動作分析装置(Vicon社)を用いて計測した。得られたデータからVICON NEXUS 1.8を使用し,Oxford foot modelに基づき処理を行い,軸脚の床反力,足アーチ高,および下腿,後足部,前足部のセグメント間の角度を算出した。なお,セグメント間の角度は,下腿に対する後足部の角度(HFTBA),下腿に対する前足部の角度(FFTBA),後足部に対する前足部の角度(FFHFA)の3種類を求めた。解析区間は軸脚の接地(TD)からボールインパクト(BI)までとし,これらの項目について,TD時の値,最大値(Peak),BI時の値を求めた。
統計学的解析にはSPSS Ver. 19.0 for Windows(IBM社)を使用した。3つの助走角度間での差の比較として反復測定分散分析を行い,多重比較にはBonferroni法を用いた。有意水準は5%とした。
【結果】
0°から90°へと助走角度が大きくなることで,PeakとBIの際の床反力の外側成分は有意に高値を,後方成分は有意に低値を示した(P<.05)。鉛直成分は条件間で有意差を認めなかった。アーチ高は条件間で差を認めなかった。0°と他の2条件間では,PeakのHFTBAの内外旋や内外反角度,FFTBAとFFHFAの回内外角度などに有意差を認めたが(P<.05),45°と90°間では一部を除いてどの項目も差はなかった。0°のHFTBAの内外反角度,FFTBAとFFHFAの回内外角度はTDからBIまでを通して他の2条件との間に有意差を認めた(P<.05)。
【考察】
PeakからBIにかけて,助走角度が大きくなるほど外側への床反力が増大し,後方への床反力が減少することが示されたことから,助走角度の違いによる床反力の変化が足部・足関節に加わるストレスの方向に影響する可能性がある。0°のようにキック方向に対して直線的な助走は斜方や側方からの助走とは異なる足部・足関節の関節運動を示すことが示された。直線的な助走は前額面や水平面上の運動方向に関して,より中間位に近い状態でキック動作が行える利点があり,足関節疾患後の復帰に向けた段階的なリハビリテーションにおいて有用となり得る。
さらに,多くの場合にTDの時点ですでに関節運動に助走角度の違いによる差が生じており,PeakやBIまでその傾向が継続していた。インステップキック時に軸脚の足関節は大きな床反力を緩衝する役割をもつといわれており(Inoueら,2014),サッカー経験者ではインステップキックを遂行するために助走角度に応じて接地前から軸脚の足部・足関節の関節角度を無意識的に変化させている可能性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
スポーツ理学療法領域において,インステップキック時に高い床反力を受ける軸脚の足部・足関節の挙動を分析することは,足部・足関節疾患との関係やこれらの予防を考えるうえで意義深い。