第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述76

脳損傷理学療法9

Sat. Jun 6, 2015 5:30 PM - 6:30 PM 第8会場 (ガラス棟 G402)

座長:松尾篤(畿央大学 健康科学部理学療法学科)

[O-0573] Contraversive Pushingに対する主観的評価の正確性

神田千絵1, 稲田亨1, 網本和2 (1.旭川リハビリテーション病院リハビリテーション部, 2.首都大学東京人間健康科学研究科)

Keywords:Contraversive pushing, 主観的評価, Burke Lateropulsion Scale

【はじめに,目的】
Contraversive pushing(以下,Pushing)とは,脳卒中片麻痺者において姿勢の他動的な修正に対し,自らの非麻痺側上下肢を使用し接触面を押して,強く抵抗する現象である。このPushingがあることで入院期間の長期化やADLを著しく阻害するなどの報告があり,その評価と介入は重要である。D´Aquilaらは,起居移動動作におけるPushingを捉えるためのスケールとして,Burke Lateropulsion Scale(以下,BLS)を開発した。BLSは,寝返り・座位・立位・移乗・歩行で構成され,0~17点の範囲でPushingの重症度を評価することができる。このようにPushingを客観的に評価する一方で,臨床ではPushingのスクリーニング目的でセラピストが主観的に評価することも多い。しかしながら,その正確性やPushingの重症度との関連性は明らかではない。そこで,我々は,BLSを用いてPushingに対する主観的評価の正確性および重症度との関連性を検討した。また,BLSでPushing陽性となった者の責任病巣も調査したので報告する。
【方法】
対象は,入院中の脳卒中片麻痺患者123名のうち,意識障害のある者を除き,座位・起立練習が可能な91名(平均年齢70.4±14.0歳,右半球損傷39名,左半球損傷52名)とした。当院のPT26名がPushingの主観的評価(以下,主観的評価)とBLSを実施した。まず,各PTは担当する対象患者の主観的評価を実施し,評価結果を『なし』『疑い』『あり』と表記した。その後,日を改めてBLSを実施した。BLS 3点以上をPushing陽性(Pushing Positive:PP),2点以下をPushing陰性(Pushing Negative:PN)とした。データ解析では,主観的評価の正確性に対し,主観的評価(あり・なし)とBLS(PP・PN)から真陽性,偽陰性,真陰性,偽陽性を求め,感度,特異度,陽性的中率,陰性的中率,正診率を算出した。また,真陽性,偽陰性,真陰性,偽陽性におけるBLSスコアの相違を検討するために,Kruskal Wallis検定後,Bonferroni調整によるMann-Whitney検定を行った。主観的評価とBLSスコア(Pushingの重症度)との関連性には,Spearmanの相関係数を求めた。さらに,PP患者の主要な脳損傷部位について,主観的評価の結果ごとに脳画像を調査した。
【結果】
対象患者91名のうち,75名がPNであった。そのうち,主観的評価『なし』は73名,『疑い』2名,『あり』0名であった。残り16名がPPであり,そのうち主観的評価『なし』は7名,『疑い』4名,『あり』5名であった。主観的評価の正確性に関する検討では,真陽性が5名,偽陰性7名,真陰性73名,偽陽性0名であった。主観的評価の感度は41.7%,特異度100%,陽性的中率100%,陰性的中率91.3%,正診率91.8%であった。真陽性,偽陰性,真陰性,偽陽性におけるBLSスコアの検討では偽陽性が0名であったため,偽陽性以外のBLSスコアを解析した。結果,偽陰性のBLSスコアは,真陽性よりも有意に小さかった(p=0.005)。真陰性は,真陽性よりも有意に小さかった(p<0.0005)。真陰性は,偽陰性よりも有意に小さかった(p<0.0005)。主観的評価とBLSスコアとの関連性では,ρ=0.746(p=0.001)で有意な相関を認めた。PP者における主観的評価毎の脳損傷部位は,『なし』:視床,被殻,島皮質,放線冠,側頭葉および頭頂葉,『疑い』:『なし』の損傷部位に加え,中心後回,『あり』:広範な中大脳動脈領域や深部白質病変であった。
【考察】
特異度,陽性的中率,陰性的中率,正診率の結果から,Pushing『あり』と『なし』の主観的評価は,ある程度,高い正確性があることが明らかになった。しかしながら,感度が低値であった。これは,偽陰性数が影響したものと考える。偽陰性のBLSスコアは,真陽性より低値であったことから,Pushing症状がより軽度な者の主観的評価を誤った可能性があると推察する。Pushing『疑い』と主観的に評価された者は,半数以上がPPであった。以上より,Pushingの主観的評価では,『あり』『疑い』と評価した場合はPPの可能性が高く,『なし』と評価した場合は,大部分がPNだがPushing症状がより軽度の者が含まれることがあるので注意が必要であることが示唆された。PP者に対する主観的評価は,Pushingの重症度と強い関連があった。また,脳の損傷部位は主観的評価『なし』『疑い』『あり』の順で広範囲にわたっている傾向が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
Pushingに対する主観的評価にある程度の正確性があることを示すことができたのは意義深い。Pushing『なし』と評価した際には注意が必要だが,主観的評価によってPushingをスクリーニングできる可能性があることが示唆された。