[O-0574] 回復期病棟における脳卒中患者のpusher症候群の経過と垂直認知の検証
Keywords:回復期, 脳卒中, pusher症候群
【はじめに,目的】
脳卒中後の特徴的な姿勢障害の1つにpusher症候群(以下pusher)がある。pusherが出現することで動作獲得やADLの介助量増加に繋がり,在院日数を平均して3.6週延長させ,最終アウトカムに到達するのにpusherでない患者と比べて約2倍の時間が必要との報告がある。また,Scale for Contraversive Pushing(以下SCP)を使用した有症率は,対象患者,測定時期,カットオフ値,患者数の違いはあるものの9.4%~16.0%程度,経過については5.0±4.3週で消失すると報告されている。国内の先行研究でもpusherの経過については様々報告されているが,SCPを使用してpusherを定義し経過をまとめた論文は,発症から40日まで報告している1件のみである。また,垂直認知に関して,視覚的垂直認知や身体的垂直認知,前庭機能について様々な報告があるが一定の見解は得られていない。即ち,SCPを使用してpusherの有無を定義した上で,回復期病棟転院時の有症率,消失時期,垂直認知との関連については知見が乏しい。本研究では,回復期病棟転院時にpusherを呈する脳卒中患者に対して,SCPを使用し有症率,消失時期,Vertical Board(以下VB)を使用して視覚的垂直認知(Subjective visual vertical:以下SVV)と身体的垂直認知(Subjective postural vertical:以下SPV)との関係性を明らかにする。
【方法】
対象は,2013年10月1日から2014年9月30日までに回復期病棟に入院した825名中,初発の小脳テント上に病巣を呈する脳卒中患者263名とした。その中でSCP各下位項目>0の脳卒中患者28名(年齢74.8±9.1歳)をpusher症例とし,除外基準はくも膜下出血,前庭機能障害,転院後評価困難になった者や著しく機能低下した者とした。入院中月2回SCPを測定し,いずれかの下位項目=0となった時点をpusher消失時期とした。半球間別の経過はKaplan Meierの生存曲線,消失日数の比較にはLogRank検定を使用した。SVV,SPVの対象患者は,前記の条件に加えて口頭にて垂直認知を伝えることができた7名(以下P群)とした。コントロール群はSCPでpusherなしの同条件脳卒中患者(以下NP群)とし,2群間で比較した。測定は月2回行い,方法は,VBを使用した先行研究と同様に,一側に15°傾斜させた位置から2°/秒の速さで反対側に傾斜させていき,被験者が垂直と感じた時点の座面傾斜角度を記録した。角度は,鉛直位を0°,非麻痺側側をプラス,麻痺側側をマイナスと定義した。測定する開始側を非麻痺側,麻痺側,麻痺側,非麻痺側の順で開眼,閉眼それぞれ4回ずつ行った。統計処理はMann-WhitneyのU検定を使用して比較した。SPSS(ver.20)を使用し,有意水準は5%未満とした。
【結果】
回復期病棟入院時の有症率は10.6%であり,その後21名の経過を観察した結果,発症から消失まで平均101±52日で,pusherの消失時期は半球間に有意差はなかった(p=0.19)。座面傾斜角度は,NP群のSVV中央値の平均-0.3(Max-2.85,Mini0.4),SPV中央値の平均-0.3(Max-3.05,Min -0.05)であった。P群の入院時SVV中央値の平均0.96(Max 4.3,Min 0.45),SPV中央値の平均2.00(Max 2.8,Min 0.9)であった。SVVp=0.25 d=0.63,SPVp=0.02 d=1.95であり,P群とNP群ではSPVにのみ有意差が見られた。
【考察】
先行研究では,半球間別の消失時期について測定時期や方法が統一されておらず,一定の見解が得られていなかった。本研究の結果から,回復期病棟転院時に残存している初発のpusher消失時期について,半球間に有意差はないという結果となった。また,本研究では発症からpusher消失まで平均が101±52日であり回復期以降のpusherの消失時期が確認された。国内外の先行研究よりもpusher消失までの平均日数が長かった要因として,回復期病棟転院時に残存しているpusher症例を対象にしたためと考えられる。垂直認知に関して先行研究との測定方法に違いがあるものの,P群とNP群でSPVのみ傾斜があったと報告していた(Karnath et al., 2000;Perennou et al., 2008)。本研究の結果から回復期病棟入院時の脳卒中患者と比べて,SVVに有意差はなくSPVのみ有意に傾斜していた。pusherの姿勢障害にSVVよりもSPVの傾斜が存在することが示唆される結果となったが,今後症例数を増やして再度検証していく必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
回復期病棟転院時に残存している初発脳卒中患者のpusher消失時期として予後予測の一助になると考える。また,pusher症例が非pusher症例と比べて身体的垂直認知のみ有意に傾斜していたことから,身体的垂直認知の改善を図ることで早期にpusherの消失に繋がる可能性が示唆された。
脳卒中後の特徴的な姿勢障害の1つにpusher症候群(以下pusher)がある。pusherが出現することで動作獲得やADLの介助量増加に繋がり,在院日数を平均して3.6週延長させ,最終アウトカムに到達するのにpusherでない患者と比べて約2倍の時間が必要との報告がある。また,Scale for Contraversive Pushing(以下SCP)を使用した有症率は,対象患者,測定時期,カットオフ値,患者数の違いはあるものの9.4%~16.0%程度,経過については5.0±4.3週で消失すると報告されている。国内の先行研究でもpusherの経過については様々報告されているが,SCPを使用してpusherを定義し経過をまとめた論文は,発症から40日まで報告している1件のみである。また,垂直認知に関して,視覚的垂直認知や身体的垂直認知,前庭機能について様々な報告があるが一定の見解は得られていない。即ち,SCPを使用してpusherの有無を定義した上で,回復期病棟転院時の有症率,消失時期,垂直認知との関連については知見が乏しい。本研究では,回復期病棟転院時にpusherを呈する脳卒中患者に対して,SCPを使用し有症率,消失時期,Vertical Board(以下VB)を使用して視覚的垂直認知(Subjective visual vertical:以下SVV)と身体的垂直認知(Subjective postural vertical:以下SPV)との関係性を明らかにする。
【方法】
対象は,2013年10月1日から2014年9月30日までに回復期病棟に入院した825名中,初発の小脳テント上に病巣を呈する脳卒中患者263名とした。その中でSCP各下位項目>0の脳卒中患者28名(年齢74.8±9.1歳)をpusher症例とし,除外基準はくも膜下出血,前庭機能障害,転院後評価困難になった者や著しく機能低下した者とした。入院中月2回SCPを測定し,いずれかの下位項目=0となった時点をpusher消失時期とした。半球間別の経過はKaplan Meierの生存曲線,消失日数の比較にはLogRank検定を使用した。SVV,SPVの対象患者は,前記の条件に加えて口頭にて垂直認知を伝えることができた7名(以下P群)とした。コントロール群はSCPでpusherなしの同条件脳卒中患者(以下NP群)とし,2群間で比較した。測定は月2回行い,方法は,VBを使用した先行研究と同様に,一側に15°傾斜させた位置から2°/秒の速さで反対側に傾斜させていき,被験者が垂直と感じた時点の座面傾斜角度を記録した。角度は,鉛直位を0°,非麻痺側側をプラス,麻痺側側をマイナスと定義した。測定する開始側を非麻痺側,麻痺側,麻痺側,非麻痺側の順で開眼,閉眼それぞれ4回ずつ行った。統計処理はMann-WhitneyのU検定を使用して比較した。SPSS(ver.20)を使用し,有意水準は5%未満とした。
【結果】
回復期病棟入院時の有症率は10.6%であり,その後21名の経過を観察した結果,発症から消失まで平均101±52日で,pusherの消失時期は半球間に有意差はなかった(p=0.19)。座面傾斜角度は,NP群のSVV中央値の平均-0.3(Max-2.85,Mini0.4),SPV中央値の平均-0.3(Max-3.05,Min -0.05)であった。P群の入院時SVV中央値の平均0.96(Max 4.3,Min 0.45),SPV中央値の平均2.00(Max 2.8,Min 0.9)であった。SVVp=0.25 d=0.63,SPVp=0.02 d=1.95であり,P群とNP群ではSPVにのみ有意差が見られた。
【考察】
先行研究では,半球間別の消失時期について測定時期や方法が統一されておらず,一定の見解が得られていなかった。本研究の結果から,回復期病棟転院時に残存している初発のpusher消失時期について,半球間に有意差はないという結果となった。また,本研究では発症からpusher消失まで平均が101±52日であり回復期以降のpusherの消失時期が確認された。国内外の先行研究よりもpusher消失までの平均日数が長かった要因として,回復期病棟転院時に残存しているpusher症例を対象にしたためと考えられる。垂直認知に関して先行研究との測定方法に違いがあるものの,P群とNP群でSPVのみ傾斜があったと報告していた(Karnath et al., 2000;Perennou et al., 2008)。本研究の結果から回復期病棟入院時の脳卒中患者と比べて,SVVに有意差はなくSPVのみ有意に傾斜していた。pusherの姿勢障害にSVVよりもSPVの傾斜が存在することが示唆される結果となったが,今後症例数を増やして再度検証していく必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
回復期病棟転院時に残存している初発脳卒中患者のpusher消失時期として予後予測の一助になると考える。また,pusher症例が非pusher症例と比べて身体的垂直認知のみ有意に傾斜していたことから,身体的垂直認知の改善を図ることで早期にpusherの消失に繋がる可能性が示唆された。