第50回日本理学療法学術大会

講演情報

口述

口述77

脳損傷理学療法10

2015年6月6日(土) 17:30 〜 18:30 第9会場 (ガラス棟 G409)

座長:石田利江(順天堂大学医学部附属練馬病院 リハビリテーション科)

[O-0577] くも膜下出血患者の超急性期理学療法の展開に向けた連続63症例の後方視的研究

離床の必要性とアウトカムに影響する因子についての考察

守屋正道, 宇治川恭平, 唐牛大吾 (日本大学医学部附属板橋病院リハビリテーション科)

キーワード:くも膜下出血, 早期離床, アウトカム

【はじめに】脳卒中治療ガイドライン2009では,脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血(SAH)について離床時期は個別に検討することが推奨されている。発症後早期の離床は血圧変動が大きく,脳血管攣縮(Spasm)の発生が懸念されること,離床という行為が過負荷になりえることなどを考慮している。超急性期のSAH患者の理学療法に際し,早期離床を許可するのか,安静臥床を強いるのかは一定した見解が得られていない。そこで今回我々は,離床時期が歩行獲得に及ぼす影響について後方視的に調査し,アウトカムに影響する因子についても合わせて検討した。
【方法】2011年2月から2013年7月までにSAHと診断され外科的治療を行い,理学療法を実施した63例(男性26例・女性37例,年齢63.3±13.4歳,クリッピング術54例・コイル塞栓術9例)を対象とした。まず,診療録より年齢,性別,重症度(Hunt & Kosnik分類,WFNS分類),発症から手術までの日数,Spasmの有無,理学療法介入までの日数,離床(端座位経由で車いす乗車)までの日数,歩行獲得(Functional Ambulation Categories:FAC 3)までの日数,退院時のGlasgow Outcome Scores:GOS,modified Rankin Scale:mRS,FACを抽出した。次に,発症後14日以内に離床(端座位経由で車いす乗車)を開始したEarly:E群と,発症後15日以降に離床したLate:L群に分類した。統計解析は2群間において,①抽出項目をunpaired-t検定あるいはχ2検定を用いて比較した。次に,②歩行獲得に影響を与える因子を検討するために,発症から歩行獲得までの日数を従属変数とし,Cox比例ハザードモデルで検討した。さらに,③時間の経過で歩行獲得していく過程に対して,離床までの日数がどうように影響しているか,Kaplan-Meier生存曲線を作成しlog-rank検定を用いて比較した。最後に,④退院時のアウトカムに対して抽出項目の影響を考慮するために,GOS,mRS,FACをそれぞれ従属変数とし多重ロジスティック回帰分析を行った。
【結果】
①2群間において,理学療法開始までの日数および歩行獲得までの日数にのみ有意差を認めた。Spasmの発生数は,E群では4例(うち2例は理学療法介入前のSpasm),L群では8例(全8例が理学療法介入前のSpasm)であった。②記述統計により2群の基本情報に有意差がないことを確認し,比例ハザード分析を実施した結果,離床までの日数にのみ有意差p<0.01を認めた。③歩行獲得率はL群に比してE群の方が有意に高い結果(p<0.005)であった。④多重ロジスティック回帰分析の結果は,Hunt & Kosnik分類が,GOS,mRS,FACの全てのOutcome Measuresに対する有意な因子(p<0.006,p<0.001,p<0.002)であった。また,mRSにおいて年齢(p<0.04)が,FACにおいて発症から離床開始までの日数(p<0.05)が有意な値を示した。
【考察】Shimamuraらは,早期の歩行は術後30日のGOS及びnondemential状態と有意な相関を示したと報告しており,70歳以上の軽症SAH患者において早期離床を推奨している。我々は,年齢,性別,重症度で2群間に有意差を認めないことから,これらの項目では離床を遅延する要因になり得ないことを示唆した。Olkowskiらは,SAH患者における早期離床の安全性と実現の可能性を報告している。本研究において,超急性期の離床は,早期歩行獲得のために重要であることが明らかとなった。E群理学療法介入後のSpasmの発生数は2件であったが,離床との関連性を明らかにすることは困難だった。しかし,早期から離床を促し動作を再獲得していることで,Spasm発生時の僅かな変化に気づき発見後の迅速な対応が可能となる。反対に,臥床を強いる治療は意識障害の遷延につながるだけでなく,Spasm発生時の発見を遅延する可能性が高くなると言える。アウトカムに影響する要因の検討では重症度だけが有意な因子として抽出され,1990年にKassellらの報告した,来院時の意識レベルと6か月後の転帰に関する報告と同様の結果となった。超急性期の理学療法に際し重要なのは全症例の早期離床を遂行することであるが,本研究により抽出された重症度および年齢を考慮した理学療法の展開が望ましいと考えた。
【理学療法学研究としての意義】超急性期からの離床が早期歩行獲得に繋がるという現状を確認したことは,新たな理学療法の可能性を示唆した。加えて,アウトカムに影響する因子を明確にできたことは,臨床での治療指針になり得る。