[O-0578] 急性期脳梗塞症例における機械的血栓回収療法後の血圧管理と離床状況について
キーワード:急性期脳梗塞, 機械的血栓回収療法, 早期リハビリテーション
【はじめに】
脳梗塞急性期の再開通療法では,遺伝子組み換え組織型プラスミノーゲン・アクチベーター製剤(t-PA)を用いた経静脈的血栓融解療法のほか,新たなデバイスを用いた機械的血栓回収療法が普及しつつある。一方,早期リハビリテーション(リハ)の実施に際しては,血圧の変動に留意する必要があるも,機械的血栓回収療法後の血圧管理基準は脳卒中ガイドライン2009でも言及されていない。また,機械的血栓回収療法後は鎮静管理を必要とする場合も多く,静脈注射による保存療法のみの場合と比較し,離床に時間を要す可能性も存在する。
このような背景のなか,本邦にてこれまでに機械的血栓回収療法実施症例における血圧管理や早期リハ,特に離床状況については明らかでない。本報告は,当施設の急性期機械的血栓回収療法実施症例について,早期リハのリスク管理に不可欠である血圧管理状況を調査するとともに,保存療法のみの症例群と年齢と重症度を補正したうえで比較を行い,離床を中心とした早期リハの実施状況を明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は2009年4月~2014年7月までに急性期脳梗塞の診断で当院の脳卒中センターに入院し,リハ依頼のあった連続1,120症例のうち,①発症後3日以内の入院である,②入院前modified Rankin Scale(mRS)が0~3である,③当院の離床プロトコールが適応されている,などの取り込み基準を満たした715症例のうち,急性期に血栓回収療法を実施した60例を血管内治療群とした。またコントロール群は,年齢および車椅子乗車時のNational Institute Health Stroke Scale(NIHSS)を用いた重症度にてマッチングを行い,保存療法群として60例を抽出した。
研究デザインは後ろ向き観察研究とし,年齢,性別,mRS(入院前,退院時),既往歴(脳血管疾患,高血圧,脂質異常症,糖代謝異常,心房細動,虚血性心疾患,心不全),病型(アテローム血栓性,心原性,ラクナ,解離性,塞栓原不明,奇異性),NIHSS(来院時,車椅子負荷試験時,退院時),リハ開始までの日数,車椅子乗車開始までの日数,車椅子負荷試験時血圧反応逸脱の有無,を診療録より調査した。また,血管内治療群においては,術後の血圧管理状況も調査した。
統計学的検討は,カイ二乗検定およびMann-WhitneyのU検定を用い,2群間について比較を行った。統計ソフトはSPSSver12を用い,有意水準は5%未満とした。
【結果】
保存療法群(平均年齢74.4±12.5歳,NIHSS10.9±7.6点)と比較し血管内治療群(74.9±13.4歳,11.2±7.6点)では,病型は心原性が多く(38.3vs70.0%,p=0.001),既往歴では心房細動を有する割合が高かった(35.0vs71.7%,p<0.001)。また,リハ開始(2.1±4.4vs2.6±1.9日,p<0.001)や車椅子獲得(3.7±3.1vs4.7±3.6日,p=0.006)により日数を必要とした。一方,性別,退院時NIHSSスコア,その他の既往歴,入院前と退院時mRSに差は認められなかった。
血管内治療群における術後の収縮期血圧管理目標は,<120mmHgが1例,<130mmHgが4例,<140mmHgが10例,<150mmHgが5例,<160mmHgが16例,<170mmHgが1例,<180mmHgが7例,<185mmHgが8例,<200mmHgが3例,<220mmHgが5例となり,ガイドラインにおける管理目標と比較して多岐にわたっていた。車椅子負荷試験時の血圧反応逸脱は血管内治療群のみに8例で認められ(0.0vs13.3%,p=0.006),そのうち7例は血圧低下例であり,アテローム血栓性が4例含まれていた。
【考察】
結果より,血管内治療群は保存療法群と比較して心原性の脳梗塞症例が多く,不整脈を有する割合が多かった。これは,機械的血栓回収療法は,主幹動脈閉塞症例に対して行われることが多いためであると考えられた。
また,術後の血圧管理基準が多岐にわたっていたことについては,重症度や再開通までの時間やその程度などにより,術後の管理に個別性が高く求められるためであることが考えられた。そのため,機械的血栓回収療法後の早期リハにおいては,より綿密な医師や看護師との連携や情報収集が必要であることが示唆された。また,今回の検討では車椅子負荷試験時に血圧逸脱反応を示す症例の特徴に言及することはできないが,保存療法のみの場合よりもリハ実施中の血圧反応変動が出現しやすい可能性が示唆されるため,十分なリスク管理が必要であると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
今後も治療数が増えていくと推察される脳梗塞機械的血栓回収療法症例における血圧管理基準や離床状況を,単施設ではあるが明らかにしたことで,術後の早期リハビリテーションにおけるリスク管理の一助となると考えられた。
脳梗塞急性期の再開通療法では,遺伝子組み換え組織型プラスミノーゲン・アクチベーター製剤(t-PA)を用いた経静脈的血栓融解療法のほか,新たなデバイスを用いた機械的血栓回収療法が普及しつつある。一方,早期リハビリテーション(リハ)の実施に際しては,血圧の変動に留意する必要があるも,機械的血栓回収療法後の血圧管理基準は脳卒中ガイドライン2009でも言及されていない。また,機械的血栓回収療法後は鎮静管理を必要とする場合も多く,静脈注射による保存療法のみの場合と比較し,離床に時間を要す可能性も存在する。
このような背景のなか,本邦にてこれまでに機械的血栓回収療法実施症例における血圧管理や早期リハ,特に離床状況については明らかでない。本報告は,当施設の急性期機械的血栓回収療法実施症例について,早期リハのリスク管理に不可欠である血圧管理状況を調査するとともに,保存療法のみの症例群と年齢と重症度を補正したうえで比較を行い,離床を中心とした早期リハの実施状況を明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は2009年4月~2014年7月までに急性期脳梗塞の診断で当院の脳卒中センターに入院し,リハ依頼のあった連続1,120症例のうち,①発症後3日以内の入院である,②入院前modified Rankin Scale(mRS)が0~3である,③当院の離床プロトコールが適応されている,などの取り込み基準を満たした715症例のうち,急性期に血栓回収療法を実施した60例を血管内治療群とした。またコントロール群は,年齢および車椅子乗車時のNational Institute Health Stroke Scale(NIHSS)を用いた重症度にてマッチングを行い,保存療法群として60例を抽出した。
研究デザインは後ろ向き観察研究とし,年齢,性別,mRS(入院前,退院時),既往歴(脳血管疾患,高血圧,脂質異常症,糖代謝異常,心房細動,虚血性心疾患,心不全),病型(アテローム血栓性,心原性,ラクナ,解離性,塞栓原不明,奇異性),NIHSS(来院時,車椅子負荷試験時,退院時),リハ開始までの日数,車椅子乗車開始までの日数,車椅子負荷試験時血圧反応逸脱の有無,を診療録より調査した。また,血管内治療群においては,術後の血圧管理状況も調査した。
統計学的検討は,カイ二乗検定およびMann-WhitneyのU検定を用い,2群間について比較を行った。統計ソフトはSPSSver12を用い,有意水準は5%未満とした。
【結果】
保存療法群(平均年齢74.4±12.5歳,NIHSS10.9±7.6点)と比較し血管内治療群(74.9±13.4歳,11.2±7.6点)では,病型は心原性が多く(38.3vs70.0%,p=0.001),既往歴では心房細動を有する割合が高かった(35.0vs71.7%,p<0.001)。また,リハ開始(2.1±4.4vs2.6±1.9日,p<0.001)や車椅子獲得(3.7±3.1vs4.7±3.6日,p=0.006)により日数を必要とした。一方,性別,退院時NIHSSスコア,その他の既往歴,入院前と退院時mRSに差は認められなかった。
血管内治療群における術後の収縮期血圧管理目標は,<120mmHgが1例,<130mmHgが4例,<140mmHgが10例,<150mmHgが5例,<160mmHgが16例,<170mmHgが1例,<180mmHgが7例,<185mmHgが8例,<200mmHgが3例,<220mmHgが5例となり,ガイドラインにおける管理目標と比較して多岐にわたっていた。車椅子負荷試験時の血圧反応逸脱は血管内治療群のみに8例で認められ(0.0vs13.3%,p=0.006),そのうち7例は血圧低下例であり,アテローム血栓性が4例含まれていた。
【考察】
結果より,血管内治療群は保存療法群と比較して心原性の脳梗塞症例が多く,不整脈を有する割合が多かった。これは,機械的血栓回収療法は,主幹動脈閉塞症例に対して行われることが多いためであると考えられた。
また,術後の血圧管理基準が多岐にわたっていたことについては,重症度や再開通までの時間やその程度などにより,術後の管理に個別性が高く求められるためであることが考えられた。そのため,機械的血栓回収療法後の早期リハにおいては,より綿密な医師や看護師との連携や情報収集が必要であることが示唆された。また,今回の検討では車椅子負荷試験時に血圧逸脱反応を示す症例の特徴に言及することはできないが,保存療法のみの場合よりもリハ実施中の血圧反応変動が出現しやすい可能性が示唆されるため,十分なリスク管理が必要であると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
今後も治療数が増えていくと推察される脳梗塞機械的血栓回収療法症例における血圧管理基準や離床状況を,単施設ではあるが明らかにしたことで,術後の早期リハビリテーションにおけるリスク管理の一助となると考えられた。