[O-0579] 急性期脳血管障害患者における歩行予後予測モデルの交差妥当性
―他施設での検討―
Keywords:脳卒中, 歩行, 急性期
【はじめに,目的】
脳卒中発症後早期に歩行能力の予後予測ができれば,効果的なリハビリテーションの遂行や転帰決定に必要な情報を早い段階で提供することができる。一方,発症後早期は意識障害や初期治療に伴うドレーン,ライン類の留置等の影響から動作能力を捉えにくく,的確な歩行の予後予測を立てることが困難である。急性期における歩行予後予測の先行研究の中に,藤野らによる発症5日以内で評価を用い1ヶ月後程度の歩行の自立度を高率に判別可能な歩行予後予測モデルがある。しかし,この予測モデルは自験例のみで判別率を算出しており,他の急性期病院で適応できるかは明らかではない。そこで本研究では,他施設での検証標本を用いて,藤野らの考案した予後予測モデルの交差妥当性を検証することである。
【方法】
対象は,2011年11月から2014年9月までに当院に入院し,本研究メンバー(PT)が担当した脳卒中患者89例のうち,再発例,死亡例,アルテプラーゼ静注療法施行例,くも膜下出血例,テント下病変例を除いた62例を対象とした。内訳は脳梗塞52例,脳出血10例,男性33名,女性29名,74.1±12.0歳,PT開始日2.5±0.9日,PT実施期間24.8±18.5日,入院日数27.5±18.4日であり,PTを週7回実施し,1日当たりの平均単位数は1.5±0.4単位であった。情報収集は診療録等から後方視的に行った。収集内容は基本情報のほか,先行研究に準じてTrunk Control Test(TCT),脳卒中運動機能障害重症度スケール(JSS-M),入退院時のFunctional Independence Measure(FIM)を発症5日以内に評価したものとした。歩行自立の判定は退院時FIMの歩行をもとに病棟内歩行が自立した場合を歩行自立(歩行FIM6,7点),それ以外は非自立(歩行FIM5点以下)とした。次に,歩行予後予測モデル(y(判別得点)=-0.019×年齢+0.690×疾患+0.034×TCT-0.044×JSS-M-0.099(定数))を使用して判別得点を算出し,藤野らの報告に基づき判別得点(y)が正の場合を歩行自立,負の場合を歩行非自立と予測した。歩行の予測結果と退院時の歩行自立度を照合により判別的中率を算出し,交差妥当性を検証した。統計処理には解析ソフトSPSS16.0Jを使用し,有意水準は5%未満とした。
【結果】
予後予測モデルに検証標本を当てはめた結果,歩行自立の予測例は40例であり,実際に自立した例は31例であった。歩行非自立の予測例が22例であり,実際に非自立であった例は31例であった。判別的中率は歩行の自立が96.8%,歩行の非自立が67.7%であり,歩行自立の的中率は非常に高い値となった。
【考察】
歩行自立例は高率に予測可能であったが,非自立例の的中率はやや低い結果であった。しかし,急性期病院での転院調整や転帰の検証は発症早期から開始されるため,偽陰性の症例(非自立と予測して実際は自立)よりも偽陽性(自立と予測して実際は非自立)の症例の方が臨床上問題となる。そのため,本研究結果は他施設においても早期からの予後予測に有用であり,臨床応用が可能であることが示唆された。今後,偽陰性例の特徴に関してさらなる検証が課題と考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果により,歩行の予後予測がセラピストの経験則ではなく統一された評価,指標を使用することにより科学的根拠に基づいた予後予測を立てることができる。また,早期に歩行の予後予測が可能となることで,急性期から在宅復帰や回復期リハビリテーション病院等への転院の可否を早い段階で決定するのに有益な客観的情報を提供できる。それにより,患者のADL回復や地域社会への復帰が円滑に進められると考える。
脳卒中発症後早期に歩行能力の予後予測ができれば,効果的なリハビリテーションの遂行や転帰決定に必要な情報を早い段階で提供することができる。一方,発症後早期は意識障害や初期治療に伴うドレーン,ライン類の留置等の影響から動作能力を捉えにくく,的確な歩行の予後予測を立てることが困難である。急性期における歩行予後予測の先行研究の中に,藤野らによる発症5日以内で評価を用い1ヶ月後程度の歩行の自立度を高率に判別可能な歩行予後予測モデルがある。しかし,この予測モデルは自験例のみで判別率を算出しており,他の急性期病院で適応できるかは明らかではない。そこで本研究では,他施設での検証標本を用いて,藤野らの考案した予後予測モデルの交差妥当性を検証することである。
【方法】
対象は,2011年11月から2014年9月までに当院に入院し,本研究メンバー(PT)が担当した脳卒中患者89例のうち,再発例,死亡例,アルテプラーゼ静注療法施行例,くも膜下出血例,テント下病変例を除いた62例を対象とした。内訳は脳梗塞52例,脳出血10例,男性33名,女性29名,74.1±12.0歳,PT開始日2.5±0.9日,PT実施期間24.8±18.5日,入院日数27.5±18.4日であり,PTを週7回実施し,1日当たりの平均単位数は1.5±0.4単位であった。情報収集は診療録等から後方視的に行った。収集内容は基本情報のほか,先行研究に準じてTrunk Control Test(TCT),脳卒中運動機能障害重症度スケール(JSS-M),入退院時のFunctional Independence Measure(FIM)を発症5日以内に評価したものとした。歩行自立の判定は退院時FIMの歩行をもとに病棟内歩行が自立した場合を歩行自立(歩行FIM6,7点),それ以外は非自立(歩行FIM5点以下)とした。次に,歩行予後予測モデル(y(判別得点)=-0.019×年齢+0.690×疾患+0.034×TCT-0.044×JSS-M-0.099(定数))を使用して判別得点を算出し,藤野らの報告に基づき判別得点(y)が正の場合を歩行自立,負の場合を歩行非自立と予測した。歩行の予測結果と退院時の歩行自立度を照合により判別的中率を算出し,交差妥当性を検証した。統計処理には解析ソフトSPSS16.0Jを使用し,有意水準は5%未満とした。
【結果】
予後予測モデルに検証標本を当てはめた結果,歩行自立の予測例は40例であり,実際に自立した例は31例であった。歩行非自立の予測例が22例であり,実際に非自立であった例は31例であった。判別的中率は歩行の自立が96.8%,歩行の非自立が67.7%であり,歩行自立の的中率は非常に高い値となった。
【考察】
歩行自立例は高率に予測可能であったが,非自立例の的中率はやや低い結果であった。しかし,急性期病院での転院調整や転帰の検証は発症早期から開始されるため,偽陰性の症例(非自立と予測して実際は自立)よりも偽陽性(自立と予測して実際は非自立)の症例の方が臨床上問題となる。そのため,本研究結果は他施設においても早期からの予後予測に有用であり,臨床応用が可能であることが示唆された。今後,偽陰性例の特徴に関してさらなる検証が課題と考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果により,歩行の予後予測がセラピストの経験則ではなく統一された評価,指標を使用することにより科学的根拠に基づいた予後予測を立てることができる。また,早期に歩行の予後予測が可能となることで,急性期から在宅復帰や回復期リハビリテーション病院等への転院の可否を早い段階で決定するのに有益な客観的情報を提供できる。それにより,患者のADL回復や地域社会への復帰が円滑に進められると考える。