第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述77

脳損傷理学療法10

Sat. Jun 6, 2015 5:30 PM - 6:30 PM 第9会場 (ガラス棟 G409)

座長:石田利江(順天堂大学医学部附属練馬病院 リハビリテーション科)

[O-0581] 当院SCUにおける早期離床阻害因子と病型・重症度の関係

藤原直1,2, 岡和田愛実1, 小林雅之1, 澤田三津子1 (1.社会医療法人禎心会禎心会病院リハビリテーション部, 2.社会医療法人禎心会禎心会病院SCU)

Keywords:早期離床, 血圧管理, 重症度

【はじめに,目的】
現在,脳卒中に対する早期離床はその後の転帰や予後を左右することが過去の報告でも明らかになっており,脳卒中ガイドラインでもグレードAのエビデンスレベルとなっている。しかし,ガイドラインにおいて,脳卒中の病型ごとに早期離床の明確な中止基準やプロトコールが示されていないため,治療方針も施設ごとで異なっている。一方,当院の早期離床に関する特徴として,①目標収縮期血圧が一般的なガイドラインより厳重で,かつ1日単位で変更しうる事,②開頭血栓除去術や,脳底動脈などの後方循環系の血行再建術のような,複雑でハイリスクな術後の患者が多い事,③包括的なリハビリテーション指示の体制をとっている事が挙げられる。当院は主治医から安静度の制限と目標血圧値の指示が出され,その後の離床可否の判断は各リハビリ担当に委ねられるため,介入者間でのバイアスがかかりやすい。そこで本研究では,各リハビリ担当者が離床を控えた事由とその患者の傾向を調査する事によって,当院における早期離床阻害因子を明らかにする事とした。
【方法】
対象は2014年7月から9月の期間で,当院脳卒中ケアユニット(SCU)に最低24時間以上在床した患者64名。対象の病型は脳梗塞,脳出血,くも膜下出血の3種類で,主治医から安静度に制限がないとされた時点から14日間,理学療法介入時の離床の可否を記録し,離床を中止した場合はその事由を調査した。この際の離床の定義は,早期ADL能力の判断材料となりうる端座位以上とした。調査項目は年齢,性別,病型,手術の有無,初回介入時のNational Institutes of Health Stroke Scale(NIHSS),上下肢のBrunnstrom recovery stage(BRS),Japan Coma Scale(JCS)とした。そして14日間離床を中止せずに毎回可能だった群を「離床可能群」,離床を1回でも中止した群を「離床中止群」とし,それぞれの各項目を比較検討した。名義尺度の比較にはχ2検定,順序尺度または正規分布になり得ない尺度はMann-WhitnyのU検定を行った。その後有意差を認めた項目をロジスティック回帰分析の説明変数とし,オッズ比,95%信頼区間(95%CI)を算出した。有意水準はいずれも5%未満とした。
【結果】
離床可能群(39名),離床中止群(25名)をそれぞれ比較した結果,病型間に有意差を認めた(p=0.013)。特に離床中止群で脳出血の割合が多い傾向にあった。またNIHSS(p=0.03),上肢BRS(p=0.01),下肢BRS(p=0.01)でそれぞれ有意差を認めた。年齢,性別,手術の有無,JCSには有意な差は認めなかった。有意差を認めた項目に対するロジスティック回帰分析の結果は,病型のオッズ比2.92,95%CI 1.08~7.95,NIHSSのオッズ比0.92,95%CI 0.83~1.02,上肢BRSのオッズ比0.87,95%CI 0.41~1.13,下肢BRSのオッズ比0.04 95%CI 0.16~1.26となり,病型の違いが離床の可否をより左右する結果となった。中止事由はどの病型においても,血圧の基準値超,熱発の2つが半分以上を占めた。
【考察】
離床中止群でNIHSS,および上下肢のBRSが有意に高かった。これらは脳卒中の重症度を表している。またその中止事由は血圧の基準値超え,熱発が半数を占めていた。先行研究では,重症度と熱発の原因となる誤嚥性肺炎や尿路感染症などの合併症も,脳卒中の重症度と深く関係していると報告されている。血圧の基準値超,熱発ともにそれぞれ病巣の大きさに伴う随伴症状と考えると,脳卒中の重症度が離床の可否に影響を与えたという可能性が高い。また病型間の中でも脳出血が離床中止群に多かった理由として,急性期脳出血の血圧管理が困難なこと挙げられる。先行研究でも,脳出血患者が内服薬のみで血圧をコントロールすることが難しいと報告されている。過去の調査から,脳出血の急性期の目標収縮期血圧を150mmHgに設定している施設が多い中,当院の目標収縮期血圧は130mmHgと一般的なものより低く設定している。また発症直後の血圧管理として,即効性の高い静注薬を使用するが,副作用が強いため徐々に内服薬でのコントロールに切り替える。しかし,この切り替えの時期に血圧値が最も不安定となりやすくなることが考えられる。このことから今回の脳出血の離床の可否には,厳重な血圧設定値と降圧薬の使用状況が影響したと考えられる。
【理学療法研究としての意義】
急性期脳卒中の早期離床は我々理学療法士の普遍的課題である。今回本研究において,病型や重症度,急性期の血圧管理が離床の可否に関与する事が示唆された。今後,さらに病型や重症度に応じたカットオフ値の検討を行う事により,早期離床プロトコールの立案の一助となりうる。