[O-0589] 人工膝関節置換術後早期の関節可動域練習方法を検討する
~自動運動と他動運動の筋電図解析から~
Keywords:人工膝関節置換術, 関節可動域練習, 表面筋電図
【はじめに,目的】
人工膝関節置換術(TKA)後早期の関節可動域練習(ROM ex.)においては,疼痛が問題となり難渋するケースが少なくない。持続的他動運動(CPM)導入や鎮痛剤の使用,他動運動もしくは自動介助運動など各施設,各セラピストに委ねられているのが現状であるが,その効果について,前向きにデザインされて研究された論文は散見する程である。我々は,関節包内の障害が改善されたTKA後早期の屈曲ROM ex.を阻害するものとしては,二関節筋である大腿直筋の筋性防御収縮であるとの仮説の下,閉鎖的運動連鎖(CKC)および筋の収縮連鎖,先行随伴性姿勢制御(APA’s)などの神経学的視点から拮抗筋の筋性防御収縮を考慮した自動運動(active CKC)をマニュアル化し,3年前から取り入れている。本研究は,当院が導入しているTKA後早期のactive CKCと,ベッド上仰臥位での他動運動(passive OKC)の膝関節周囲筋の活動電位を解析し,比較することで,効果的なROM ex.の検証を目的とする。
【方法】
2013年4月から2014年4月に当院でTKAを受けた24症例のうち,同側の変形性股関節による痛みを併発した1症例を除く23症例(75.3±8.2歳,男性9例,女性15例)を対象とした。術式は同一の医師が,Biomet社製Vanguard Deep Dish typeを使用し,Mid Vastus approach,セメント使用,正確なgap techniqueを行った。筋電計測は,抜鈎翌日の術後15.8±3.1日とし,当日の理学療法終了後の午後4時に設定した。また対人関係による心理的影響を除くことに加え,ROM ex.方法のばらつきを考慮し,計測時のROM ex.施行者は,症例を担当しない同一の理学療法士とした。passive OKCは,症例がベッド上仰臥位となり,施行者は踵部と膝窩部をサポートした状態で,股・膝屈曲方向へ他動運動を繰り返す。active CKCは,足底が接地する高さに座面高を調整した車いす座位に,ランバーサポートを挿入した骨盤前傾位のポジションを開始肢位とする。症例には,足尖を床から浮かせた状態で,両手で両ハンドリムを前後に操作するよう指示し,自動で膝関節の屈曲伸展を繰り返した。二法とも「力を抜いて楽にしてください」と口頭指示を与えるのみとし,関節包内運動を考慮した操作などは行わなかった。筋電計測には,Nolaxon D2を使用し,大腿直筋,内側広筋,半腱様筋を対象とした。同期させた1Dゴニオメーターにより最小屈曲位から最大屈曲位間の1周期を特定し,10周期の中で安定した5周期の平均波形を100msecのRMS波形に変換した。計測順は,全症例にくじを行いランダムに行った。得られた値から,膝関節が屈曲のピークに至るまでの各筋の平均活動電位を算出し,passive OKCとactive CKCの二法間比較には,Wilcoxonの符号付順位和検定を,膝屈曲可動域のピーク値の二法間比較には,対応のあるt検定を用いた。
【結果】
active CKCの活動電位が,膝屈曲に拮抗する大腿直筋(p<0.01)と内側広筋(p<0.05)で低く,また半腱様筋(p<0.01)では有意に高い値を示し,膝屈曲可動域拡大に適した我々の仮説を裏付ける結果になった。その際の膝屈曲ピーク角は,passive OKCで99.9±7.6°,active CKCで101.3±7.0°となり両者に有意な差はなかった。
【考察】
TKA後の関節可動域獲得は,その後のQOLにも重要なファクターとなる。早期は痛みの強い症例が多く,特に増殖期(3日~2週間)の関わりは,持続的な筋性防御収縮から慢性痛を発症する重要な期間とされている。市橋はROM制限因子を8種類に分けているが,正確なgap techniqueが行われたTKAでは関節包内の問題は小さくなり,心因性を含めた筋性防御収縮など関節包外組織の問題が大きくなると考えられる。
加藤は,座位での下肢CKC,骨盤前傾位,足背屈位は,二関節筋のセグメントリンクモデルによる下肢屈曲方向への運動連鎖が生じるとしているが,さらにactive CKCの足背屈筋の活動は,膝・股関節屈筋へと上行性の筋の収縮連鎖を誘発し,オートマチックな膝屈曲筋の誘発を強化している。また,自身によるハンドリム操作は,APA’sによる膝屈筋の活動を惹起し,膝伸筋の相反抑制を生じさせると理解できる。心的要因では,術創部から患者意識を外すために,中間関節である膝関節を,足関節と股関節から操作されていることも,拮抗筋の作用を抑えた要因として推測される。これらより,車いす座位におけるactive CKCと症例には,膝関節を屈曲方向に導くというアフォーダンスの存在も示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
今回,TKA後症例の自動運動と他動運動に生じる筋活動の差が捉えられたことで,運動学・神経学的視点からのアプローチの重要性が再確認された。
人工膝関節置換術(TKA)後早期の関節可動域練習(ROM ex.)においては,疼痛が問題となり難渋するケースが少なくない。持続的他動運動(CPM)導入や鎮痛剤の使用,他動運動もしくは自動介助運動など各施設,各セラピストに委ねられているのが現状であるが,その効果について,前向きにデザインされて研究された論文は散見する程である。我々は,関節包内の障害が改善されたTKA後早期の屈曲ROM ex.を阻害するものとしては,二関節筋である大腿直筋の筋性防御収縮であるとの仮説の下,閉鎖的運動連鎖(CKC)および筋の収縮連鎖,先行随伴性姿勢制御(APA’s)などの神経学的視点から拮抗筋の筋性防御収縮を考慮した自動運動(active CKC)をマニュアル化し,3年前から取り入れている。本研究は,当院が導入しているTKA後早期のactive CKCと,ベッド上仰臥位での他動運動(passive OKC)の膝関節周囲筋の活動電位を解析し,比較することで,効果的なROM ex.の検証を目的とする。
【方法】
2013年4月から2014年4月に当院でTKAを受けた24症例のうち,同側の変形性股関節による痛みを併発した1症例を除く23症例(75.3±8.2歳,男性9例,女性15例)を対象とした。術式は同一の医師が,Biomet社製Vanguard Deep Dish typeを使用し,Mid Vastus approach,セメント使用,正確なgap techniqueを行った。筋電計測は,抜鈎翌日の術後15.8±3.1日とし,当日の理学療法終了後の午後4時に設定した。また対人関係による心理的影響を除くことに加え,ROM ex.方法のばらつきを考慮し,計測時のROM ex.施行者は,症例を担当しない同一の理学療法士とした。passive OKCは,症例がベッド上仰臥位となり,施行者は踵部と膝窩部をサポートした状態で,股・膝屈曲方向へ他動運動を繰り返す。active CKCは,足底が接地する高さに座面高を調整した車いす座位に,ランバーサポートを挿入した骨盤前傾位のポジションを開始肢位とする。症例には,足尖を床から浮かせた状態で,両手で両ハンドリムを前後に操作するよう指示し,自動で膝関節の屈曲伸展を繰り返した。二法とも「力を抜いて楽にしてください」と口頭指示を与えるのみとし,関節包内運動を考慮した操作などは行わなかった。筋電計測には,Nolaxon D2を使用し,大腿直筋,内側広筋,半腱様筋を対象とした。同期させた1Dゴニオメーターにより最小屈曲位から最大屈曲位間の1周期を特定し,10周期の中で安定した5周期の平均波形を100msecのRMS波形に変換した。計測順は,全症例にくじを行いランダムに行った。得られた値から,膝関節が屈曲のピークに至るまでの各筋の平均活動電位を算出し,passive OKCとactive CKCの二法間比較には,Wilcoxonの符号付順位和検定を,膝屈曲可動域のピーク値の二法間比較には,対応のあるt検定を用いた。
【結果】
active CKCの活動電位が,膝屈曲に拮抗する大腿直筋(p<0.01)と内側広筋(p<0.05)で低く,また半腱様筋(p<0.01)では有意に高い値を示し,膝屈曲可動域拡大に適した我々の仮説を裏付ける結果になった。その際の膝屈曲ピーク角は,passive OKCで99.9±7.6°,active CKCで101.3±7.0°となり両者に有意な差はなかった。
【考察】
TKA後の関節可動域獲得は,その後のQOLにも重要なファクターとなる。早期は痛みの強い症例が多く,特に増殖期(3日~2週間)の関わりは,持続的な筋性防御収縮から慢性痛を発症する重要な期間とされている。市橋はROM制限因子を8種類に分けているが,正確なgap techniqueが行われたTKAでは関節包内の問題は小さくなり,心因性を含めた筋性防御収縮など関節包外組織の問題が大きくなると考えられる。
加藤は,座位での下肢CKC,骨盤前傾位,足背屈位は,二関節筋のセグメントリンクモデルによる下肢屈曲方向への運動連鎖が生じるとしているが,さらにactive CKCの足背屈筋の活動は,膝・股関節屈筋へと上行性の筋の収縮連鎖を誘発し,オートマチックな膝屈曲筋の誘発を強化している。また,自身によるハンドリム操作は,APA’sによる膝屈筋の活動を惹起し,膝伸筋の相反抑制を生じさせると理解できる。心的要因では,術創部から患者意識を外すために,中間関節である膝関節を,足関節と股関節から操作されていることも,拮抗筋の作用を抑えた要因として推測される。これらより,車いす座位におけるactive CKCと症例には,膝関節を屈曲方向に導くというアフォーダンスの存在も示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
今回,TKA後症例の自動運動と他動運動に生じる筋活動の差が捉えられたことで,運動学・神経学的視点からのアプローチの重要性が再確認された。