第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述79

人工関節

Sat. Jun 6, 2015 5:30 PM - 6:30 PM 第11会場 (ガラス棟 G610)

座長:南角学(京都大学医学部附属病院 リハビリテーション部)

[O-0590] リバース型人工肩関節置換術と解剖学的人工肩関節置換術患者の術後早期の疼痛について

押川達郎 (福岡大学筑紫病院リハビリテーション部)

Keywords:リバース型人工肩関節, 変形性肩関節症, 疼痛

【はじめに,目的】2014年4月からリバース型人工肩関節(RSA)の使用が本邦において開始となり,従来の人工肩関節置換術の適用外であった修復不能な腱板断裂を伴う肩関節症や上腕骨近位端粉砕骨折等への治療が期待されている。RSAは従来の解剖学的な人工肩関節(TSA)とは異なり,関節窩コンポーネントを球状ヘッドに,上腕骨コンポーネントを凹型の半円形となる構造をしている。本邦ではRSA患者の術後の理学療法に対しての報告がなく,術後のリハビリテーション経過は明らかでない。本研究の目的は,RSAとTSA患者を対象に術後早期の疼痛・関節可動域を比較・検討することである。

【方法】対象は,2014年4月~2014年10月までの間に当院においてRSAを施行した13名のうち,骨折による受傷を除いた12名12肩(男性5名,女性7名,平均年齢77±5歳)と,2011年4月~2014年10月までの間にTSAを施行した16名のうち,初回TSAを施行した14名14肩(男性4名,女性10名,平均年齢70.6±9歳)を対象とした。術前の評価としてJOAスコア,術前の肩自動挙上角度・肩自動外旋角度,術前の肩関節の安静時痛・夜間時痛を調査・測定した。術後評価として,術後4日目,7日目,14日目の安静時痛,夜間時痛を測定した。また,ROMの評価として術後7日目,14日目の肩他動屈曲角度,肩他動外旋角度測定した。術後のROM測定は,背臥位にて肩屈曲角度と肩下垂位の外旋角度を他動可動域で測定した。術後の可動域は,執刀医より許可された角度内で愛護的に行った。痛みの評価としてNumeric Rating Scaleを用い,安静時痛は座位で肩を動かしていない時の痛み,夜間時痛は背臥位で就寝した時の痛みを調査した。統計処理には,統計ソフトSPSS 11.0Jを用いて,2群の比較には2標本t検定を行った。有意水準は5%未満とした。

【結果】術前のJOAスコアは,RSA群で44.4±12.4点,TSA群で40.4±11.1点であり,術前の自動挙上は,RSA群で47.9±18.5°,TSA群で60.4±31.5°,自動外旋は,RSA群で10.4±27.7°,TSA群で-1.1±24.0°,術前の安静時痛は,RSA群で3.9±3.5,TSA群で4.1±1.8,術前の夜間時痛は,RSA群で5.25±2.1,TSA群で7.6±1.9であった。術前の評価項目では夜間時痛に有意差を認めた(p<0.01)。術後の結果は,術後4日目の安静時痛は,RSA群で4.1±2.4,TSA群で2.2±1.3,夜間時痛は,RSA群で5.5±2.1,TSA群で3.8±2.0であった。術後7日目の安静時痛は,RSA群で3.0±1.3,TSA群で1.9±1.1,夜間時痛は,RSA群で4.6±1.6,TSA群で2.8±1.4であった。術後14日目の安静時痛は,RSA群で1.6±0.7,TSA群で1.5±0.8,夜間時痛は,RSA群で1.6±0.7,TSA群で1.5±0.8であった。術後4日目の安静時痛(p<0.05),夜間時痛(p<0.05),術後7日目の安静時痛(p<0.05),夜間時痛(p<0.01)で有意差を認めた。術後のROMは,術後7日目の他動屈曲角度は,RSA群で76.0±15.1°,TSA群で88.2±11.2°,他動外旋角度はRSA群で-1.3±6.8°,TSA群で21.8±12.2°であった。術後14日目の他動屈曲角度は,RSA群で87.9±10.1°,TSA群で98.6±14.5°,他動外旋角度はRSA群で3.3±6.2°,TSA群で26.4±15.3°であった。術後7日目の他動屈曲角度(p<0.05),他動外旋角度(p<0.001),14日目の他動屈曲角度(p<0.05),他動外旋(p<0.001)に有意差を認めた。

【考察】今回の結果より,RSA術後は術後4日目・7日目では安静時痛・夜間時痛ともTSA群より疼痛が強く,術後14日目では2群間に有意差が認めなくなることが示唆された。RSAは修復不能な腱板断裂を伴う症例が適用となるため,肩関節の挙上の動力は三角筋が担うこととなる。RSAは本来の解剖学的な位置より関節中心を下方に移動させ,三角筋を緊張させた状態で人工関節を設置する。したがってRSAでは三角筋に加わる張力が強く,術後4日目・7日目と術後早期は疼痛がTSA群より強く出たと考えられた。また,RSAは海外の報告では術後の積極的な可動域改善運動が脱臼等の合併症を増加させるとの報告もある。そのためRSAでは執刀医より許可される目標可動域角度設定が低いため,RSA群で低値を示したと考えられた。今回は術後2週という短期間の検討であるため,疼痛・他動可動域のみの検討となったが,今後は経過観察期間を延長し,中長期の関節機能の推移を検討していく必要がある。
【理学療法研究としての意義】RSAは本邦で使用が認可されて間もないため,国内での術後理学療法の経過は明らかでない。今回の結果よりTSAとは術後疼痛の経過が違うことが示唆された。今後も新たな治療法と合わせて理学療法の治療経過のデータを蓄積していく必要があると思われる。