[O-0597] 胸椎モビライゼーションが肩関節挙上運動時の胸椎伸展可動域に与える影響
Keywords:胸椎, 肩関節, モビライゼーション
【はじめに,目的】
胸椎後弯角度の増大は,呼吸機能や頸部痛・頭痛・姿勢コントロール不良による転倒との関係性など様々な身体機能との相関性が報告されている(Quek2012)
肩関節挙上運動の構成要素として胸郭・脊柱の運動が必要であり,肩関節に疼痛や可動域制限を有する症例に対して胸椎へのモビライゼーションが有効である事も報告されている(Suter 2002, Strunce2009)それらは,治療を実施した分節の動きの変化を報告したものではない。
そこで本研究では,1椎体の胸椎にモビライゼーションを行う事で肩関節挙上運動に伴う胸椎伸展可動域が,実施した分節の可動域拡大に貢献しているのか検証する事が目的である。
【方法】
対象者は肩関節に疼痛の愁訴がなく,肩関節疾患による通院歴のない健常男性15名(年齢26±2.9歳)とした。
胸椎椎間関節の形態測定は単純X線撮影(日立メディコ社製UH-6GE-31E)を使用し,医師との十分な確認の元,診療放射線技師が撮影した。測定レベルは立位の矢状面において,第4胸椎から第9胸椎まで撮影できる設定とした。
測定肢位は,上肢下垂位と胸椎モビライゼーション前後の肩関節最大挙上位2回の計3回実施した。第4胸椎棘突起を触診しマーキングを単純X線画像に映る材質にする事で計測時に分節レベルを特定した。治療手技は腹臥位にて実施。第5胸椎棘突起に対して,後方から前方への漸進的振幅を4回呼気に合わせながら行い,計5セット実施した。胸椎椎間関節の屈伸可動域の計測はFrobinらの方法に基づき,第4胸椎から第9胸椎の屈伸可動域を測定し,上肢下垂位とそれぞれの最大挙上位の各分節の屈伸可動域の変化量を比較検討した。
【結果】
上肢下垂位と肩関節最大挙上位の各分節での変化量は,第5胸椎へのモビライゼーションの実施前でT4/5間の差が平均1.80±3.23°,T5/6間の差が平均2.00±2.55°,T6/7間の差が1.47±2.61°,T7/8間の差が1.67±2.23°,T8/9間の差が1.93±2.60°であった。胸椎へのモビライゼーション実施後はT4/5間の差は平均1.87±3.72°T5/6間の差は平均3.07±2.64°T6/7間の差は0.73±3.63°T7/8間の差は1.20±2.75°T8/9間の差は1.33±2.29°であり,胸椎モビライゼーションを実施した前後の変化量は,T5/6間の伸展角度が最も増加する結果となった。
【考察】
本研究で我々が実施した胸椎モビライゼーションは,第5胸椎棘突起を後方から前方に圧迫を行う事で第5胸椎は第6胸椎に対して後屈に近い傾斜が得られるものと考えられている。治療した上下の椎体・棘突起の固定等は行わない為,第5胸椎の傾斜に伴いT4/5間では相対的に前屈となる事が考えられる。その為,非特異的アプローチに分類され特定した分節への治療手技としては考えられていないものと思われる。しかし,本研究においては第5胸椎に治療を実施し,T5/6間の伸展可動域の変化量が最も大きい結果が得られた。これにより,本研究で用いた治療手技は胸椎椎間関節の特定の分節に対する伸展可動域の増加に対しても効果が得られる可能性も考えられる。また,本研究では1椎体に対してのみ治療を用いた為,伸展可動域の変化はわずかではあるが,臨床場面においては,可動域制限のある複数の分節に用いることで,胸椎椎間関節の伸展可動域に問題を有する肩関節挙上運動の治療においての有用性が考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
肩関節挙上運動の可動域制限を有する症例に対する,胸椎の伸展可動域制限の改善は臨床上有効であり治療の有効性についても多くの報告がみられる。本研究において,単純X線画像における胸椎モビライゼーションを用いた治療前後の変化を検証した結果,治療手技を用いた分節への胸椎伸展可動域の改善に有効である可能性を示した。肩関節挙上制限における胸椎伸展可動域の改善が必要な場合,治療の一選択として有効であると考えられる。また,本研究においては肩関節挙上に関連する胸椎伸展可動域の変化に対して報告したが,冒頭に述べたように呼吸機能・頭痛・頚部痛・バランス機能など様々な症例に対して適応になる可能性が考えられる。
胸椎後弯角度の増大は,呼吸機能や頸部痛・頭痛・姿勢コントロール不良による転倒との関係性など様々な身体機能との相関性が報告されている(Quek2012)
肩関節挙上運動の構成要素として胸郭・脊柱の運動が必要であり,肩関節に疼痛や可動域制限を有する症例に対して胸椎へのモビライゼーションが有効である事も報告されている(Suter 2002, Strunce2009)それらは,治療を実施した分節の動きの変化を報告したものではない。
そこで本研究では,1椎体の胸椎にモビライゼーションを行う事で肩関節挙上運動に伴う胸椎伸展可動域が,実施した分節の可動域拡大に貢献しているのか検証する事が目的である。
【方法】
対象者は肩関節に疼痛の愁訴がなく,肩関節疾患による通院歴のない健常男性15名(年齢26±2.9歳)とした。
胸椎椎間関節の形態測定は単純X線撮影(日立メディコ社製UH-6GE-31E)を使用し,医師との十分な確認の元,診療放射線技師が撮影した。測定レベルは立位の矢状面において,第4胸椎から第9胸椎まで撮影できる設定とした。
測定肢位は,上肢下垂位と胸椎モビライゼーション前後の肩関節最大挙上位2回の計3回実施した。第4胸椎棘突起を触診しマーキングを単純X線画像に映る材質にする事で計測時に分節レベルを特定した。治療手技は腹臥位にて実施。第5胸椎棘突起に対して,後方から前方への漸進的振幅を4回呼気に合わせながら行い,計5セット実施した。胸椎椎間関節の屈伸可動域の計測はFrobinらの方法に基づき,第4胸椎から第9胸椎の屈伸可動域を測定し,上肢下垂位とそれぞれの最大挙上位の各分節の屈伸可動域の変化量を比較検討した。
【結果】
上肢下垂位と肩関節最大挙上位の各分節での変化量は,第5胸椎へのモビライゼーションの実施前でT4/5間の差が平均1.80±3.23°,T5/6間の差が平均2.00±2.55°,T6/7間の差が1.47±2.61°,T7/8間の差が1.67±2.23°,T8/9間の差が1.93±2.60°であった。胸椎へのモビライゼーション実施後はT4/5間の差は平均1.87±3.72°T5/6間の差は平均3.07±2.64°T6/7間の差は0.73±3.63°T7/8間の差は1.20±2.75°T8/9間の差は1.33±2.29°であり,胸椎モビライゼーションを実施した前後の変化量は,T5/6間の伸展角度が最も増加する結果となった。
【考察】
本研究で我々が実施した胸椎モビライゼーションは,第5胸椎棘突起を後方から前方に圧迫を行う事で第5胸椎は第6胸椎に対して後屈に近い傾斜が得られるものと考えられている。治療した上下の椎体・棘突起の固定等は行わない為,第5胸椎の傾斜に伴いT4/5間では相対的に前屈となる事が考えられる。その為,非特異的アプローチに分類され特定した分節への治療手技としては考えられていないものと思われる。しかし,本研究においては第5胸椎に治療を実施し,T5/6間の伸展可動域の変化量が最も大きい結果が得られた。これにより,本研究で用いた治療手技は胸椎椎間関節の特定の分節に対する伸展可動域の増加に対しても効果が得られる可能性も考えられる。また,本研究では1椎体に対してのみ治療を用いた為,伸展可動域の変化はわずかではあるが,臨床場面においては,可動域制限のある複数の分節に用いることで,胸椎椎間関節の伸展可動域に問題を有する肩関節挙上運動の治療においての有用性が考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
肩関節挙上運動の可動域制限を有する症例に対する,胸椎の伸展可動域制限の改善は臨床上有効であり治療の有効性についても多くの報告がみられる。本研究において,単純X線画像における胸椎モビライゼーションを用いた治療前後の変化を検証した結果,治療手技を用いた分節への胸椎伸展可動域の改善に有効である可能性を示した。肩関節挙上制限における胸椎伸展可動域の改善が必要な場合,治療の一選択として有効であると考えられる。また,本研究においては肩関節挙上に関連する胸椎伸展可動域の変化に対して報告したが,冒頭に述べたように呼吸機能・頭痛・頚部痛・バランス機能など様々な症例に対して適応になる可能性が考えられる。