第50回日本理学療法学術大会

Presentation information

口述

口述80

徒手療法・その他

Sat. Jun 6, 2015 5:30 PM - 6:30 PM 第12会場 (ガラス棟 G701)

座長:来間弘展(首都大学東京)

[O-0599] Cross-body stretchにおいて肩甲骨の固定は必要である

せん断波エラストグラフィー機能を用いた検討

梅原潤1, 長谷川聡1, 西下智1, 中村雅俊1,2, 梅垣雄心1, 小林拓也1, 田中浩基1, 藤田康介1, 草野拳3, 市橋則明1 (1.京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻, 2.同志社大学スポーツ健康科学部, 3.京都大学医学部人間健康科学科理学療法学専攻)

Keywords:ストレッチング, 超音波エラストグラフィー, 肩

【はじめに,目的】
肩関節の疼痛は仕事,余暇活動などに支障をきたしADL,QOLの低下を引き起こす。このような疼痛発生の原因の一つとして肩関節インピンジンメント症候群があり,さらにその誘因として肩関節後方タイトネス(PST)が考えられている。PSTに対するアプローチ方法としてストレッチング(ストレッチ)があり,一般的なストレッチ方法として肩関節水平内転を行うcross-body stretch(CS)が用いられている。これに対しWilkらはCSを行う際,上腕骨の水平内転に伴う肩甲骨の外転を防ぐため肩甲骨を固定するmodified cross-body stretchを推奨している。だがCSにおける肩甲骨固定の影響を定量的に調べた報告はない。その理由として従来のストレッチ効果の指標である関節可動域の改善は感覚の要素を含むこと,受動トルクの測定は多軸関節である肩関節には不向きであることが挙げられる。しかし近年開発された超音波診断装置に搭載されているせん断波エラストグラフィー機能を用いることで,計測筋の硬さの指標となる弾性率を求めることが可能となった。
本研究ではせん断波エラストグラフィー機能により求められる弾性率を用いてCSにおける肩甲骨固定の有無による即時的なストレッチ効果の違いを検証すること,加えてその効果の持続時間を明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象者は健常成人男性18名(平均年齢23.3±3.3歳),測定側はランダムとし,CS実施前後の棘下筋上部,下部線維,小円筋,三角筋後部線維の弾性率を計測した。CSは徒手的に肩甲骨を固定する条件(固定条件)と固定しない条件(未固定条件)の2条件とし,対象者に無作為な順序で各条件を実施するクロスオーバー比較試験で行った。なお各条件のストレッチ時間は30秒を5セットとし,ストレッチ強度は被験者が疼痛を訴える直前の角度でストレッチを実施した。弾性率の計測肢位は肩関節3rdポジション(肩関節屈曲90°,内外旋0°)で,計測はストレッチ前(Pre),ストレッチ直後(Post),5分後(5min),10分後(10min),15分後(15min)の計5回行った。対象筋の弾性率は超音波診断装置(SuperSonic Imaging社製)のせん断波エラストグラフィー機能を用い,各筋の筋腹に設置した関心領域の弾性率を算出した。測定誤差を最小化するため各対象筋の測定箇所にマーキングを施し3回の計測の平均値を算出した。弾性率は硬さを表す指標であり,弾性率が低値を示す程,筋が柔らかいことを意味する。
統計学的解析は肩甲骨固定の有無によるストレッチ効果の違いを検討するために,各対象筋において条件(固定,未固定)とストレッチ前後(Pre,Post)を二要因とした反復測定二元配置分散分析を行い交互作用が認められた場合,事後検定を行った。さらに持続時間を検討するためストレッチ効果があった筋のみPreに対するPost,5min,10min,15minの弾性率の比較するため多重比較を行った。有意確率は5%未満とした。
【結果】
二元配置分散分析の結果,棘下筋上部および下部線維のみ交互作用,主効果を認め未固定条件と比較し固定条件で弾性率は有意に低値を示した。事後検定の結果,棘下筋上部,下部線維の弾性率は固定条件でのみPreに比べPostで有意に低値を示した。その他の筋は交互作用,主効果とも認められておらず,固定,未固定条件で弾性率に有意差はなかった。さらにストレッチ効果の持続時間について多重比較の結果,弾性率は固定条件で上部,下部線維ともにPreと比較してPost,5minで有意に低値を示したが10min,15minに有意な差はみられなかった。
【考察】
棘下筋上部・下部線維では交互作用を認め固定条件では弾性率が有意に低値を示し未固定条件では有意差は認められなかった。これよりCSにおける肩甲骨の固定は有効であることが示された。2条件の違いは固定条件では水平内転に伴う肩甲骨の外転を防ぐことで上腕骨と肩甲骨が離され棘下筋が伸長されたが,未固定条件では上腕骨と肩甲骨の相対的な距離は変わらず筋の伸長は得られなかったことだと考える。またストレッチ効果の持続時間は固定条件にて5分後も持続することが明らかとなった。先行研究より持続時間に関する報告は様々であるため,ストレッチ介入時間や筋の容量などにより変化すると考える。
【理学療法学研究としての意義】
これまでCSでの肩甲骨固定は重要であると臨床的な経験則から報告されていたが本研究では弾性率という指標を用いることでストレッチ効果を定量化し,その効果は肩甲骨を固定した場合のみ認められることを示した。これよりCSにおいて肩甲骨の固定は必要であることが明らかとなった。