第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述81

脳損傷理学療法11

Sat. Jun 6, 2015 6:40 PM - 7:40 PM 第8会場 (ガラス棟 G402)

座長:青木修(四條畷学園大学 リハビリテーション学部)

[O-0603] 急性期脳卒中におけるScale for the Assessment and Rating of Ataxia(SARA)を用いた運動失調の経時的変化と歩行能力の関係性について

吉川昌太, 木下篤, 豊浦尊真, 片山雄登, 木村圭佑, 村上浩一, 伊藤英隆, 金子彰 (医療法人さくら会さくら会病院)

Keywords:急性期, SARA, 歩行能力

【はじめに,目的】
小脳性運動失調の包括的な評価スケールとしては,以前よりInternational Cooperative Ataxia Rating Scale(以下,ICARS)が広く用いられてきた。近年は,Schmitz-Hübschらにより提唱されたScale for the Assessment and Rating of Ataxia(以下,SARA)が,検査時間も短く簡便な検査方法として臨床で用いられることも多くなった。SARAは全8項目(歩行,立位,坐位,言語障害,指追い試験,鼻指試験,手の回内回外運動,踵すね試験)から構成されており,本邦においては,厚生労働省難治性疾患研究事業「運動失調に関する調査班」において日本語版SARAが作成され,評価者内,評価者間共に高い信頼性と内的整合性を示されている。またSARAはICARS,Barthel Index(以下,BI)との間に高い相関性が示されており,急性期脳卒中に伴う運動失調重症度評価としてのSARAの有用性もすでに報告されてはいるが,SARAを用いた運動失調の経時的変化や歩行能力との関係性についての調査報告は多くはない。今回われわれは,椎骨脳底動脈領域の急性期脳卒中患者におけるSARAの総合点と各項目のスコアの経時的変化を調査し,歩行能力との関係性について検討したので報告する。

【方法】

2014年1月1日から2014年10月31日までの間に,当院急性期病棟に入院した椎骨脳底動脈領域の脳卒中により運動失調を呈した15例(男性10例,女性5例,平均年齢68±11歳)を対象とした。但し,重度意識障害(JCSがII-10以上)および運動麻痺(Brunnstrom Recovery StageがIII以下)を呈した患者はあらかじめ除外した。Functional Ambulation Category(以下,FAC)を用い,入院時に歩行が可能であった患者(FACが3点以上)をA群(歩行可能群),歩行が困難であった患者(FACが2点以下)をB群(歩行介助群)の2群に分け,入院時・退院時のSARAおよびFACの測定を行った。入院時・退院時のSARAの総合点,各項目間およびFACのスコアの比較をWilcoxonの符号順位検定を用いて行った。全ての統計学的検定の有意水準は5%未満とした。
【結果】
A群が8例でB群は7例であった。病型は脳梗塞が10例で,脳出血は5例であった。病変部位は,脳幹が5例,小脳が4例,視床が3例,脳幹と小脳の合併例が2例であった。SARAの総合点と歩行・立位項目においてはA,B群とも入院時・退院時のスコア間に有意差を認めた(p<0.05)。坐位・言語障害・指追い試験・鼻指試験・手の回内回外運動・踵すね試験の項目はA,B群とも入院時・退院時のスコア間に有意差を認めなかった。ただB群においては,坐位項目でも有意差を認めた(p<0.05)。FACは,A,B群とも入院時・退院時のスコア間に有意差を認めた(p<0.05)。
【考察】
山田らは,急性期小脳障害患者においてICARSを用いて運動失調と歩行自立度との関係性を調査し,発症直後の運動失調の重症度が退院時の歩行能力に影響している可能性を指摘した。今回われわれは,発症時の歩行評価により入院時歩行可能群と入院時歩行介助群の2群に分け,SARAを用いた運動失調の経時的変化や歩行能力との関係性を調査した。退院時のSARAの総合点,歩行,立位項目のスコア,FACは2群ともに入院時に比して有意な改善を認めていた。また歩行介助群のみ坐位項目でも有意な改善を示していたのは,歩行自立群においては入院時に坐位での運動失調を認めていなかったためであると考えられる。SARAにおける四肢運動失調の項目では有意な差を認めずに歩行・立位・坐位項目のみで有意な改善を示した。歩行・立位・坐位項目は理学療法や日常生活場面にて早期より目的動作として行われ,動作が反復されやすい課題であり,運動学習につながったため,有意な改善を示したのではないかと考えた。今回の調査では,入院時の運動失調が重度で歩行が困難な症例でも,SARAの総合点や歩行能力の改善は十分に可能であることが示唆された。また急性期脳卒中患者においては,歩行や立位,坐位といった動作上での運動失調に比べて四肢の運動失調は継続しやすい傾向があると示された。今後さらに症例数を増やし,更なる検討を行っていく予定である。
【理学療法学研究としての意義】
急性期における入院時と退院時のSARAやFACを比較することで,運動失調や歩行能力の経時的な変化が明らかとなり,SARAを用いた運動失調の改善項目を捉えることが可能となった。これは急性期脳卒中患者において,リハビリテーションプログラムを作成するうえで有用な情報となり得ると思われる。