第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述82

脳損傷理学療法12

Sat. Jun 6, 2015 6:40 PM - 7:40 PM 第9会場 (ガラス棟 G409)

座長:小柳靖裕(製鉄記念八幡病院 リハビリテーション部)

[O-0607] 回復期脳卒中患者における拡散異方性(FA)と運動機能および移動能力の相関

―拡散テンソル画像を用いた研究―

山本哲1,2, 岡本善敬1, 梅原裕樹1, 石橋清成1, 河野豊3, 門間正彦4, 沼田憲治1,2 (1.茨城県立医療大学保健医療科学研究科, 2.茨城県立医療大学理学療法学科, 3.茨城県立医療大学付属病院神経内科, 4.茨城県立医療大学放射線技術科学科)

Keywords:拡散テンソル画像, 運動機能, 脳卒中

【はじめに,目的】
拡散テンソル画像(Diffusion Tensor Imaging以下,DTI)は現時点で,生体内において非侵襲的に白質神経線維方向を表す唯一の方法であるとされる。DTIのパラメータである拡散異方性(Fractional Anisotropy以下,FA)は0-1の範囲の値をとり,軸索の密集している白質において高値を示すことが知られている。一方,脳血管疾患などの損傷により,ワーラー変性が起き,FAは低下すると報告されている(Wieshmann et al, 1999)。
回復期脳卒中患者において,運動機能および歩行能力の予後予測を行なった報告は散見されるが,DTIを用い,FAと運動機能および歩行能力の相関を報告した研究は少ない。今回,回復期脳卒中患者に対し入院時点でDTI撮影およびFAの評価を行い,入院時点および退院時点において運動機能および移動能力評価を行ったところ,若干の知見が見られたため報告する。
【方法】
対象は回復期病院入院中の初回発症,大脳に病変を持つ脳卒中患者13名(内,脳出血10名,脳梗塞3名),発症時年齢54±15歳であった。発症からMRI-DTI撮影までは27±22日,発症から初期評価時までの日数は43±12日,発症から最終評価時までの日数は193±30日であった。入院経過において痙攣,水頭症,脳血管攣縮等の合併症が生じず,最終評価時において意識障害および高次脳機能障害が著明ではない症例を対象とした。
MRI-DTI撮影にはTOSHIBA社製1.5テスラMRI装置を使用し,診療放射線技師が撮影を行った。撮影パラメータは以下の通りである(フリップ角90°/180°,TR=10000,TE=100,マトリックス128×128,FOV 260mm×260mm,スライス厚3mm,スライス数45枚,加算回数4回,b値=1000,MPG6軸,ボクセルサイズ1mm3)。DTIの解析には東大放射線科開発のフリーウェア,dTVを使用した。DTI解析において,左右の大脳脚中央部を関心領域に設定(3×3ボクセル)し,その部位のFA値を算出した。また,非損傷側FAの平均値および標準偏差を算出した。
患者の運動機能および移動能力の評価は,回復期病院における初期評価時および,退院時の2時点の評価とした。項目は,Brunnstrom recovery stage(Brs),Functional independent measure(FIM)運動項目,Functional ambulation categories(FAC)とした。また,FIM認知項目の評価を行った。統計解析は,Spearmanの順位相関係数を用い,損傷側FAと,運動機能および移動能力評価の各項目の検定を行った。有意水準は5%とした。
【結果】
損傷側FAと各測定項目において有意な相関を認めた項目は,Brs上肢(最終評価時;r=0.63,p=0.02),手指(初期評価時;r=0.57,p=0.04,最終評価時;r=0.78,p=0.002),下肢(初期評価時;r=0.64,p=0.02,最終評価時;r=0.68,p=0.01),FAC(初期評価時;r=0.65,p=0.02)であった。また,非損傷側FAは,0.77±0.05(平均値±標準偏差)と高値を示していた。
以下,特徴的なデータを示した症例について示す。損傷側FAが高値(0.75±0.07)であるが,初期評価時にBrs手指スコアが低値である症例①を認めたが,本症例は最終評価時においてBrs手指スコアの改善(II→IV)を認めた。また,損傷側FAが低値(0.29±0.05)であり,入院時FACおよびFIM運動項目スコアが低値であった50歳代の症例②を認めたが,本症例②は最終評価時において,FAC(0→4),FIM運動項目合計(24→86)ともに著明な改善を認め,歩行自立に至った。下肢運動麻痺の変化は,BrsII→IIIであった。本症例②のFIM認知項目合計は17点→35点と,最終評価時において最大得点を示していた。
【考察】
FAと運動機能については,有意な正の相関を認めた。この傾向は,回復期病院入院時よりも最終評価時に強く見られた。症例①のようにFAが高く,運動機能回復の余地が大きい症例において,最終評価時に運動機能の改善が見られたためであると考える。また,症例②のように,FAが低値であっても歩行自立が達成された症例を認めた。運動麻痺が重度であっても,他の条件が良好であれば,歩行自立に至ることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
DTIを用いることで,錐体路の損傷を可視化および定量化し,運動機能障害の程度を予測することができる。このような背景を考慮した上で理学療法を行うことで,適切なプログラムの作成が可能となると考える。