第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述82

脳損傷理学療法12

Sat. Jun 6, 2015 6:40 PM - 7:40 PM 第9会場 (ガラス棟 G409)

座長:小柳靖裕(製鉄記念八幡病院 リハビリテーション部)

[O-0609] 脳卒中者におけるDual-Taskの戦略の検討

二次課題の難易度と異なる指示が及ぼす影響

大角哲也1,2, 原田亮1, 臼田滋2 (1.榛名荘病院リハビリテーション部, 2.群馬大学大学院保健学研究科)

Keywords:二重課題, 脳卒中, 歩行

【はじめに,目的】
二重課題(Dual-Task:DT)において二つの課題のどちらを優先させるかといった戦略は,DTを転倒の予測や予防に適用する際に重要である。これまでパーキンソン病患者はposture second strategyを用いること等が報告されているが,脳卒中者における報告は散見する程度である。また,選択される戦略が二次課題の難易度や異なる指示によってどのように影響を受けるかは不明である。本研究は脳卒中者を対象にDTの戦略について検討することを目的とする。
【方法】
対象は脳卒中者11名とした。一次課題は快適速度でのTimed Up & Go Test(TUG)とし,二次課題は90から100の間の任意の数字から3または7ずつ引く2種類の減算課題(serial 3’s:S3,serial 7’s:S7)とした。減算課題は安静座位にて30秒間の正答数を記録した。DTは減算課題を行いながらのTUGとし,2種類の減算課題の難易度(S3とS7)および2種類の課題の優先順位づけの指示(「歩行と減算課題の両方ともに集中して下さい」(no priority:NP)と「主に減算課題に集中して下さい」(cognitive priority:CP))の条件で実施した。各条件はDT3N(S3,NP),DT3C(S3,CP),DT7N(S7,NP)およびDT7C(S7,CP)の4条件とし,減算課題の開始の数字は90から100の間の数字とし,毎回変更した。DTは1回練習後に順番をランダムに各条件1回ずつ実施した。TUGは時間を測定し,減算課題は正答数から1秒当たりの正答数(回/秒)を算出した。さらにTUGおよび減算課題に対する自覚的な注意配分を11段階の多段階評価尺度(0~10)にて測定し,最も減算課題に注意した場合を10,TUGに注意した場合を0とした。また,DTのSingle-Task(ST)に対する変化率Dual-Task cost(DTC)を100×(DT-ST)/STとして算出した。戦略の分析としては,慢性期脳卒中者におけるTUGのminimal detectable changeの23%を基準としてSTに対するDTのTUGの時間の23%以上の増加をposture first strategy(PF),23%以上の減少をposture second strategy(PS)と定義した。統計処理はSTおよび各DT条件の比較に反復測定による分散分析後に多重比較検定(Tukey法)を行った。統計ソフトはSPSS ver. 19.0J for Windowsを使用し,有意水準は5%とした。
【結果】
対象は男性6名,女性5名であり基本情報の平均値±標準偏差(最小値,最大値)は,年齢は69.9±11.4(52,87)歳,罹患期間は1669.3±1718.8(92,5736)日,Fugl Meyer Assessmentの下肢項目は26.7±4.5(21,34)点,Trail Making Test part Aは75.7±57.0秒(35.2,238.3)秒,Trail Making Test part Bは163.9±89.3(41.1,312.7)秒,Functional Ambulation Categoryは5点が9名,4点が2名であった。各測定項目の結果は,TUGの時間(秒)はSTで17.6±7.2(8.0,29.5),DT3Nで22.0±10.4(8.7,38.7),DT3Cで22.6±10.4(8.3,38.6),DT7Nで24.8±11.5(11.2,45.9),DT7Cで25.5±14.3(10.2,57.4)であり,STとDTの比較において,S3ではST-DT3N間,ST-DT3C間で有意差を認め(p<0.05,p<0.001),S7ではST-DT7N間,ST-DT7C間で有意差を認めた(p<0.05)。正答数(回/秒)は,S3のSTで0.3±0.1(0.2,0.6),DT3Nで0.3±0.1(0.1,0.5),DT3Cで0.3±0.2(0.1,0.5),S7のSTで0.1±0.1(0.03,0.2),DT7Nで0.1±0.04(0.1,0.2),DT7Cで0.1±0.1(0.05,0.3)でいずれも各条件間に有意差は認めなかった。注意配分はDT3Nで6.9±1.4(5,10),DT3Cで7.5±1.8(5,10),DT7Nで7.5±1.5(5,10),DT7Cで8.1±1.4(6,10)であった。戦略とそれぞれのDTC(%)は,STに比べてDT3NでPFが4名で54.0±23.7(33.3,87.3),その他が7名で6.3±6.9(-2.3,17.5),DT7NでPFが8名で54.4±45.9(25.8,165.3),その他が3名で10.0±6.6(3.4,16.7),そのうちどちらもPFが4名,その他が3名,残りの4名はDT3Nでその他,DT7NでPFであった。いずれの条件間においてもPSはいなかった。
【考察】
STに対してDTにて有意なTUGの時間の低下が認められたことから,脳卒中者においても減算課題が付加された場合に歩行の安定性を優先するposture first strategyを用いる者が多いと考えられた。しかしながら,脳卒中者の中でもTUGに減算課題が付加された場合にTUGの時間が低下しやすい者とそうでない者,さらに課題の難易度が上がった場合にTUGの時間が低下しやすい者とそうでない者に分かれるということは興味深い点である。今後は継続して対象者を増やし,脳卒中者におけるDTの戦略の特性や個別性,戦略と歩行能力や機能障害との関連性を検討していきたいと考える。
【理学療法学研究としての意義】
脳卒中者におけるDTの戦略について検討することにより,DTの評価指標や介入方法としての有用性の向上の一助になると考えられる。