[O-0611] 脳損傷片麻痺例における歩行能力を規定する因子の検討
キーワード:片麻痺, 歩行, 運動性下行路
【はじめに,目的】
脳損傷片麻痺例の歩行能力を規定する因子として,皮質脊髄路の残存の有無が挙げられる。実際に,運動麻痺が軽度で随意性の高い例では歩行能力が良好であることが多い。しかし運動麻痺と歩行能力の改善が一致しない例が散見されることを念頭に置けば,その他の運動性下行路に着目する視点は不可欠といえる。本研究の目的は,脳損傷片麻痺例の身体機能・歩行能力を包括的機能評価および歩行観察・画像所見を用いて分析し,皮質脊髄路を除く運動性下行路を治療対象とすべきか否かを見出すことである。
【方法】
対象は当回復期リハビリテーション病院に在院する脳損傷16例(梗塞10例・出血5例・外傷1例,男性7例,右損傷10例,57.4±15.8歳)である。下肢装具の使用を問わず独歩が見守り以上で可能なことを選定条件とし,従命が困難な例や疼痛を有する例は対象から除外した。測定項目は1)Stroke Impairment Assessment Set(SIAS),2)Wiscinsin Gait Scale(WGS)である(114.8±45.4病日測定)。SIASは下肢項目におけるhip-flexion・knee-extension・foot-patを運動score,筋緊張・腱反射を緊張score,触覚・位置覚を感覚score,非麻痺側大腿四頭筋力・腹筋力を筋力scoreとし各合計値を採用した。WGSは杖の使用,歩隔,慎重さ,遊脚期骨盤回旋を除外した10項目とし麻痺側立脚相4項目(St値),麻痺側遊脚相6項目(Sw値)の各合計値を採用した。次いでSIASとWGSの関係性をスピアマンの順位相関係数検定を用いて解析した。また梗塞10例を自立群5例(男性3例,右損傷4例,68.2±13.6歳),見守り群5例(男性1例,右損傷4例,56.6±10.2歳)に分類し,2群間のSIASとWGSをスチューデントのt検定を用いて比較した。続いて入院時に撮像したCT画像より,それぞれ2群の損傷部位を調査した(34.5±10.9病日撮像)。なお統計分析はいずれも有意水準を5%未満とした。
【結果】
SIASとWGSの関係性では,運動scoreとSt値間(r=-0.54),運動scoreとSw値間(r=-0.52)に有意な負の相関を認めた(p<0.05)。自立群と見守り群の2群間比較では,運動score(自立群:11.8±2.4,見守り群6.6±3.9)と緊張score(自立群:4.4±0.5,見守り群2.6±1.5),St値(自立群:4.2±0.4,見守り群6.8±1.1)に有意差を認めた(p<0.05)。損傷部位としては,自立群はいずれも運動前野や放線冠の限局的な梗塞であるのに対し,見守り群では運動前野から放線冠へ拡がる梗塞,大脳基底核を含む放線冠の梗塞,内包後脚の梗塞を各例で認めた。
【考察】
SIASとWGSの関係性において,運動scoreとSt値・Sw値間にのみ有意な相関関係を認めた。運動scoreは運動麻痺を評価するものであり,運動麻痺が軽度であれば立脚相・遊脚相における問題が少なく歩行能力は高いことが示された。これは既存の報告と一致しており,皮質脊髄路の残存の有無は歩行能力を規定する因子として重要になると考えられる。しかし相関係数自体は中等度の相関を示すものであり,SIASでは評価が困難な他の因子の存在が想定される。自立群と見守り群の2群間比較では,運動scoreと緊張score,St値に有意差を認めた。自立群・見守り群の分類は歩行動作を安定性・安全性の観点から判定したものであり,それには立脚相の状態がより反映されたと考えられる。また運動性下行路の1つである網様体脊髄路は立脚相の下肢抗重力伸展に関与する。SIASとWGSの関係性において皮質脊髄路以外の因子が想定されたことを振り返れば,網様体脊髄路がこれに該当する可能性がある。実際に,見守り群の画像所見でのみ皮質網様体路が起始・通過する運動前野や放線冠,内包後脚に重複する梗塞を認めた。これらを考慮すると,見守り群は網様体脊髄路の機能低下を併存していると推察され,歩行能力を低下させる一因になったと考えられる。
本研究で有意性を認めることはなかったが,立脚相と遊脚相には関係性があるというのが臨床の実感である。網様体脊髄路に対する治療とは,荷重下における各関節の連動および動的な固定性のみならず,連続する過程である遊脚相に対しても効果が期待できるものでなければならないと考える。
【理学療法学研究としての意義】
歩行能力を規定する因子が症例の問題点として挙げられたならば,それに対する治療は優先されるべきである。本研究は脳損傷片麻痺例の歩行能力と網様体脊髄路の関与を示唆するものであり,網様体脊髄路をはじめとする他の運動性下行路を治療対象とする意義は大きいと考える。
脳損傷片麻痺例の歩行能力を規定する因子として,皮質脊髄路の残存の有無が挙げられる。実際に,運動麻痺が軽度で随意性の高い例では歩行能力が良好であることが多い。しかし運動麻痺と歩行能力の改善が一致しない例が散見されることを念頭に置けば,その他の運動性下行路に着目する視点は不可欠といえる。本研究の目的は,脳損傷片麻痺例の身体機能・歩行能力を包括的機能評価および歩行観察・画像所見を用いて分析し,皮質脊髄路を除く運動性下行路を治療対象とすべきか否かを見出すことである。
【方法】
対象は当回復期リハビリテーション病院に在院する脳損傷16例(梗塞10例・出血5例・外傷1例,男性7例,右損傷10例,57.4±15.8歳)である。下肢装具の使用を問わず独歩が見守り以上で可能なことを選定条件とし,従命が困難な例や疼痛を有する例は対象から除外した。測定項目は1)Stroke Impairment Assessment Set(SIAS),2)Wiscinsin Gait Scale(WGS)である(114.8±45.4病日測定)。SIASは下肢項目におけるhip-flexion・knee-extension・foot-patを運動score,筋緊張・腱反射を緊張score,触覚・位置覚を感覚score,非麻痺側大腿四頭筋力・腹筋力を筋力scoreとし各合計値を採用した。WGSは杖の使用,歩隔,慎重さ,遊脚期骨盤回旋を除外した10項目とし麻痺側立脚相4項目(St値),麻痺側遊脚相6項目(Sw値)の各合計値を採用した。次いでSIASとWGSの関係性をスピアマンの順位相関係数検定を用いて解析した。また梗塞10例を自立群5例(男性3例,右損傷4例,68.2±13.6歳),見守り群5例(男性1例,右損傷4例,56.6±10.2歳)に分類し,2群間のSIASとWGSをスチューデントのt検定を用いて比較した。続いて入院時に撮像したCT画像より,それぞれ2群の損傷部位を調査した(34.5±10.9病日撮像)。なお統計分析はいずれも有意水準を5%未満とした。
【結果】
SIASとWGSの関係性では,運動scoreとSt値間(r=-0.54),運動scoreとSw値間(r=-0.52)に有意な負の相関を認めた(p<0.05)。自立群と見守り群の2群間比較では,運動score(自立群:11.8±2.4,見守り群6.6±3.9)と緊張score(自立群:4.4±0.5,見守り群2.6±1.5),St値(自立群:4.2±0.4,見守り群6.8±1.1)に有意差を認めた(p<0.05)。損傷部位としては,自立群はいずれも運動前野や放線冠の限局的な梗塞であるのに対し,見守り群では運動前野から放線冠へ拡がる梗塞,大脳基底核を含む放線冠の梗塞,内包後脚の梗塞を各例で認めた。
【考察】
SIASとWGSの関係性において,運動scoreとSt値・Sw値間にのみ有意な相関関係を認めた。運動scoreは運動麻痺を評価するものであり,運動麻痺が軽度であれば立脚相・遊脚相における問題が少なく歩行能力は高いことが示された。これは既存の報告と一致しており,皮質脊髄路の残存の有無は歩行能力を規定する因子として重要になると考えられる。しかし相関係数自体は中等度の相関を示すものであり,SIASでは評価が困難な他の因子の存在が想定される。自立群と見守り群の2群間比較では,運動scoreと緊張score,St値に有意差を認めた。自立群・見守り群の分類は歩行動作を安定性・安全性の観点から判定したものであり,それには立脚相の状態がより反映されたと考えられる。また運動性下行路の1つである網様体脊髄路は立脚相の下肢抗重力伸展に関与する。SIASとWGSの関係性において皮質脊髄路以外の因子が想定されたことを振り返れば,網様体脊髄路がこれに該当する可能性がある。実際に,見守り群の画像所見でのみ皮質網様体路が起始・通過する運動前野や放線冠,内包後脚に重複する梗塞を認めた。これらを考慮すると,見守り群は網様体脊髄路の機能低下を併存していると推察され,歩行能力を低下させる一因になったと考えられる。
本研究で有意性を認めることはなかったが,立脚相と遊脚相には関係性があるというのが臨床の実感である。網様体脊髄路に対する治療とは,荷重下における各関節の連動および動的な固定性のみならず,連続する過程である遊脚相に対しても効果が期待できるものでなければならないと考える。
【理学療法学研究としての意義】
歩行能力を規定する因子が症例の問題点として挙げられたならば,それに対する治療は優先されるべきである。本研究は脳損傷片麻痺例の歩行能力と網様体脊髄路の関与を示唆するものであり,網様体脊髄路をはじめとする他の運動性下行路を治療対象とする意義は大きいと考える。