第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述82

脳損傷理学療法12

Sat. Jun 6, 2015 6:40 PM - 7:40 PM 第9会場 (ガラス棟 G409)

座長:小柳靖裕(製鉄記念八幡病院 リハビリテーション部)

[O-0612] 脳卒中片麻痺者の隙間通過行動

転倒歴の有無による差異の検討

室井大佑1,2, 小柴輝晃2, 鈴木洋平2, 川木雅裕2, 樋口貴広1 (1.首都大学東京人間健康科学研究科ヘルスプロモーションサイエンス学域, 2.亀田リハビリテーション病院リハビリテーション室)

Keywords:脳卒中, 障害物回避, 転倒

【はじめに,目的】片側の運動麻痺を呈した脳卒中者は,歩行中の回旋(ターン)動作において転倒することが多い(Hyndman et al., 2002)。狭い隙間を通過する場面では,接触回避のための体幹回旋が起こりうるため,転倒の危険性が高くなる可能性がある。しかしながら,脳卒中片麻痺者を対象とした隙間通過行動の研究は意外にも少なく,具体的にどのような通過行動がみられるかについては不明な点が多い。そこで本研究では,脳卒中片麻痺者の隙間通過行動を3次元動作解析により分析した。特に,転倒歴の有無により隙間通過行動に違いがみられるかを検討した。

【方法】
参加者は,明らかな高次脳機能障害や認知機能障害がなく,中等度の下肢運動麻痺(Brunnstrom Recovery Stage;III1名,IV8名)を呈した脳卒中片麻痺者9名(平均年齢61.0±11.3歳,発症後月数26.9±29.7)とした。対象者を転倒あり群5名と,転倒なし群4名の2群に分類した。さらに,コントロール群として,年齢と性別をマッチさせた健常成人9名(平均年齢61.0±10.7歳)が参加した。参加者は2枚のドアで作られた隙間の手前3mに立ち,ランダムに提示されたドアの隙間幅を接触しないように通過することが求められた。隙間幅は5条件であり(肩幅の0.9,1.0,1.1,1,2,1.3倍)×繰り返し3試行,計15試行実施した。従属変数はドアとの接触率,隙間通過時の身体の回旋角度に加え,回旋ありでの通過率とした。いずれもグループ(脳卒中転倒あり,脳卒中転倒なし,コントロール)×隙間幅の2要因分散分析により検討した。

【結果】
ドアとの接触率においてグループ間の主効果がみられ(p<0.005),脳卒中転倒あり群が他の2群に比べて有意に接触が多かった。また,身体の回旋角度において交互作用が有意であり(p<0.001),隙間幅1.0倍において脳卒中転倒なし群が,有意に隙間通過時の回旋角度が大きかった。さらに,回旋動作ありでの通過率について交互作用が有意傾向であった(p=0.098)。脳卒中転倒あり群は,身体の回旋が不要である隙間幅1.2倍において,脳卒中転倒なし群にくらべて身体を回旋させながら通過する確率が高かった。また,隙間幅1.3倍において,脳卒中転倒あり群が,他の2群よりも回旋率が高かった。

【考察】
実験の結果,脳卒中片麻痺者全体でみると,隙間通過時の身体の回旋角度や,回旋させて通過するべきかどうかの判断はコントロールと比較して遜色なかった。一方で,脳卒中者の転倒歴の有無による隙間通過行動の違いをみてみると,脳卒中転倒あり群は,有意にドアとの接触が多かった。さらに,脳卒中転倒なし群は,必ず身体を回す必要のある隙間幅1.0倍条件にて回旋角度が大きかった。これらの結果から,転倒歴がある脳卒中者は,狭い隙間通過場面で通過に必要な身体の回旋角度を少なく見積もっていたことが接触の原因となっていた可能性がある。さらに,転倒歴がある脳卒中者が,身体を回さずに通過できる大きな隙間幅においても,回旋をしながら通過する傾向にあったことを考慮すると,転倒歴のある脳卒中者は隙間通過場面において,障害物と身体の適応が不十分であると言える。

【理学療法学研究としての意義】
本研究によって,これまで不明であった脳卒中片麻痺者における隙間通過行動が明らかとなった。脳卒中者の転倒歴の有無によってその行動は異なるため,転倒歴のある脳卒中者の隙間通過行動をみることが,今後,脳卒中者の転倒予防のための介入方法の提案につながる可能性がある。