第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述83

支援工学理学療法2

Sat. Jun 6, 2015 6:40 PM - 7:40 PM 第10会場 (ガラス棟 G602)

座長:新田收(横浜市総合リハビリテーションセンター 地域支援課)

[O-0613] フィリピン共和国における歩行補助具支援

大室和也 (NPO法人AAR Japan[難民を助ける会])

Keywords:災害支援, 車いす, 歩行障害

【はじめに,目的】
フィリピン共和国では,障がい者の包括的支援を明記している「障害者のマグナカルタ」という障がい者法がある。しかし,その法律の実行は遅延しており,地域に住む障がい者が十分に支援を受けられていないことが指摘されている。
2013年11月に発生した巨大台風によるフィリピン共和国の被災を機に,被災地域に住む障がい者を対象に調査を行った。その調査において,屋内外での移動に制限を受けている者を数多く確認した。そこで,歩行障がいをもつ被災者に車いす等歩行補助具(以下,補助具)を供与する被災者支援を実施した。本研究では,補助具供与の方法および結果を報告するとともに,本支援が被災者に及ぼす影響について明らかにする。
【方法】
初回調査として,フィリピン共和国東ビサヤ地方の2つの被災地域において,現地の調査者が,行政の障がい者登録リストおよび周辺住民から聴取した情報に基づき,障がい者を訪問した。初回調査において補助具が必要と主張していた176名を理学療法士が再度訪問し,対象者の身体能力や住環境を評価した。この調査で理学療法士が補助具の有用性が高いと判断した場合に,補助具の種類を選定し供与した。
選定した補助具が杖や歩行器の場合,対象者の自宅にて調整し,使い方の練習を実施後,供与した。車いすの場合は,対象者の身体計測と座位姿勢保持能力を評価後,各対象者に合わせた車いすを供与した。供与時には,介助者とともに段差やスロープにおける車いす操作や移乗方法を練習した。
供与から約4ヶ月後,車いす供与者4名を任意で抽出後訪問し,車いすの使用状況や心身の変化を聴取した。以上の活動は,2014年4月から10月に実施された。
【結果】
補助具を供与した対象者の人数は,車いす40名,杖および歩行器26名の計66名であった。車いすを供与した対象者の年齢は,20歳以下が8名,21歳以上40歳以下が6名,41歳以上60歳以下が12名,61歳以上が14名であった。杖・歩行器の場合は,それぞれ0名,3名,11名,12名であった。
供与後の調査では,車いす供与者4名中2名に肯定的な心身的変化が認められ,そのうち1名はADLの拡大が確認された。また,4名中3名は,屋外での活動範囲の拡大が見られた。一方で,4名中1名は,車いすから転落する危険性があったことがわかった。
【考察】
車いす供与者のうち,60歳以上を除く40名(61%)が幼少期から壮年期にあたる者であった。車いす等適切な移動手段を取得し活動すべき年齢であるにも関わらず取得できていないということは,地域に住む障がい者が十分に制度を活用できていないことが推察され,支援制度の周知徹底が必要であることが伺える。
車いすを供与した対象者4名を追跡調査したところ,供与した補助具は,概ね対象者の活動の拡大に寄与していることが確認できた。しかし,活動の拡大が屋外のみに限定されていた。それは,対象者の多くが高床構造の家屋に住んでおり,車いすのような重量のあるものを屋外から屋内に移動させることが容易ではないことが一因であると考えられる。また,1名に転落の危険性があったことは,専門家の介入が供与時のみに限られていたためと考えられる。今回は,供与からフォローアップまで約4か月の期間があり,その間は家族等の介助者の介助に委ねていた。しかし,供与後は,地元の専門家に委託するなどして,補助具による事故や不具合が生じた際に問い合わせができるシステムの構築や,出来るだけ早期頻回にフォローアップができるような対策が必要であることが明らかとなった。
また,初回調査にて補助具が必要であると主張している人が176名であったにも関わらず,理学療法士による評価を経て実際に補助具を供与したのは66名であった。これは,資金が限られていたことと同時に,補助具供与に該当しなかった人の多くが,実際には十分に歩行できており,明らかに補助具の必要性がなかったと判断されたためである。このことから,初回調査時に対象者の歩容等動作をビデオ記録し,専門家によるスクリーニングを経た上で訪問調査を実施するなど,災害時に確保が難しい専門家の知識や労力を有効に活用する方法を再考する必要性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
開発途上地域における障がい者支援に関する情報は世界的に極めて乏しく,活動方法や結果を広く周知させる意義は大きい。また,補助具使用者を追跡調査することで,補助具を供与する支援の有効性を考察することができ,障がい者支援の質の向上に貢献する。