第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述83

支援工学理学療法2

Sat. Jun 6, 2015 6:40 PM - 7:40 PM 第10会場 (ガラス棟 G602)

座長:新田收(横浜市総合リハビリテーションセンター 地域支援課)

[O-0616] パーキンソン病難治性首下がり症候群に対する新たな理学療法の検討

シーティング技術とロングブレス呼吸運動の応用により完治した症例

土中伸樹 (医療法人養和会養和病院)

Keywords:パーキンソン病, 首下がり症候群, シーティング

【はじめに,目的】
パーキンソン病における首下がり症候群は,首や顎を支えていないと前が見られないことによる歩行困難,更衣困難の他,屈曲した頚部が喉頭や気道を圧迫し患者のQOLの点では大きな制限になっている。薬剤治療が困難であると言われており治療に難渋する症例がある。一般的な理学療法プログラムは,ストレッチや腹臥位での頭部挙上運動などの頚部体幹の伸展運動を中心としたプログラムが多いが,十分な治療効果が上がっていないのが現状である。今回,ストレッチは行わず,ティルト・リクライニング車椅子を姿勢調整用椅子として使用し,重力負荷を調整しながら電気治療で除痛後,腰部骨盤帯のローカルシステムを活性化するロングブレス呼吸運動を施行し外来リハ週2回,4か月で完治した症例を提示し,首下がり症候群の新たな治療法として考察する。
【症例】
女性 年齢70歳台前半 体重56kg 疾患名:パーキンソン病。平成24年4月より首下がり症状が出現し,頸部痛を訴えるようになる。平成25年8月パーキンソン専門病院へ入院し,薬剤調整後2週間で首下がり症状が改善し退院となる。平成25年9月に首下がり症状が再燃する。平成25年12月顎が胸部に食い込み食欲不振となり,抑うつ状態となる。平成26年2月当院外来理学療法の紹介となる。評価:Hoehn&Yahr重症度分類II度,UPDRS総点41点,姿勢評価:矢状面頭部線(眼縁と,耳珠点を結んだ線の垂線)+36°,矢状面頸部線(左右乳様突起の中点と,第7頸椎と胸骨上端の中点を結んだ線)+43°,姿勢計測国際規格ISO16840-1を使用(絶対角度計測)
使用薬剤:①ネオドパストン100mg 3錠 分3,②ガスモチン錠 5mg 3錠 分3,③トレリーフ錠 25mg 1錠 分1,④ビ・シフロール錠0.5mg 2錠 分2,⑤リリカカプセル 75mg 1錠 分1,⑥エフピーOD錠 2.5mg 1錠 分1
理学療法プログラム:週に2回40分~60分の理学療法を実施 ①ティルト・リクライニング車椅子上(ティルト20°,リクライニング20°)で頸部(肩甲挙筋中心),肩甲骨周囲疼痛箇所に低周波ハイボルテージ治療20分,②ロングブレス呼吸運動(吸気3秒,呼気10秒,10回×4~6セット/日)。ティルト・リクライニング車椅子上で実施。1か月後立位にて実施。
【結果】
1か月:矢状面頭部線+28°,矢状面頸椎線+42°挙上不可 顎が胸部に食い込む。2か月:理学療法後は,矢状面頭部線-7°,矢状面頸椎線+20°自力での頚部屈曲伸展運動が可能となる。治療後は楽に頚部が上がるようになるが,夕方になると再び首下がり症状が出現する4か月:矢状面頭部線-16°,矢状面頸椎線+5°夕方,体調不良時にも首下がり症状は出現せず完治となる。体重:48kg,UPDRS総点24点。
【考察】
パーキンソン病首下がり症候群の治療は,一般的には①薬剤惹起を疑う場合には原因薬剤の中止,②ボツリヌス毒素注射やアルコールによるモーターポイントブロック治療,③脳深部刺激法などが挙げられる。一方,理学療法について症例報告はあるが,その有効性について明確に主張する報告はない。また完全に完治した例もごく僅かである。症状から治療着眼点を頚部に集中しやすいが,パーキンソン病首下がり症候群の根本原因は,頚部では無く体幹腹部のインナーマッスルの筋力低下を起因とする重心軸のズレが原因ではないかと推察する。首下がり症候群の場合歩行できる患者が多く,姿勢調整を背臥位か立位で行うことが多いが,ティルト・リクライング車椅子を使用し重力負荷の調整を行い頭頚部のアライメントを疼痛がない正常な肢位にし,呼吸運動療法により腰部骨盤帯のローカルシステムの横隔膜,腹横筋,骨盤底筋群,多裂筋を促通する方法はシーティング技術を応用した新たな治療方法になるものと考えられる。現在,ティルト・リクライニング車椅子を使用した治療的シーティングをパーキンソン病の腰曲り(camptocormia,bent spine),体幹側屈(lateral trunk flexion,Pisa syndrome)にも応用し効果を上げている。
【理学療法学研究としての意義】
首下がり症候群をティルト・リクライニング車椅子上で頭頸部のアライメントを調整しながら運動療法を行う方法は,シーティング技術と呼吸運動療法を合わせた今までにない治療方法であり,その他の難病疾患,側弯,胸腰椎の圧迫骨折患者などの首下がり症候群にも応用できる。