第50回日本理学療法学術大会

講演情報

口述

口述83

支援工学理学療法2

2015年6月6日(土) 18:40 〜 19:40 第10会場 (ガラス棟 G602)

座長:新田收(横浜市総合リハビリテーションセンター 地域支援課)

[O-0617] 小児在宅人工呼吸器導入における理学療法の検討

竹内知陽1, 糸見和也2 (1.あいち小児保健医療総合センターリハビリテーション科, 2.同小児神経科)

キーワード:在宅復帰, 人工呼吸器, 地域連携

【はじめに,目的】
近年,高度医療の進展に伴いハイリスク児の長期生存が可能となり,同時に継続した医療的ケアが必要な小児が増加している。当センターにおいても小児救急医療機能の充足に伴い,重症児の在宅ケア移行を調整する機会が増えている。これら重症児の在宅ケアを適切に施すために,地域で小児の在宅医療を担う関連施設を開拓し連携することが重要であると実感する。
本研究では,人工呼吸管理を伴う在宅ケア移行に至った超重症児の動向をもとに,小児在宅人工呼吸器導入における理学療法の現状と課題を検討する。
【方法】
対象は,過去5年間に当センター小児神経科にて在宅用人工呼吸器(以下,呼吸器)を導入し退院した重症の小児患者6例である。男児3例女児3例,人工呼吸管理を要する原因となった診断名は,急性脳症2例,低酸素性虚血性脳症2例,間質性肺炎を伴う中枢性呼吸不全1例,慢性混合性呼吸不全1例で,3例は自発呼吸を喪失した。方法は,呼吸器導入から退院までの経緯,在宅ケア移行に伴う支援および連携の状況,在宅移行後の状況,および理学療法支援の状況について,それぞれ診療記録をもとに調査することとした。調査結果をふまえ,呼吸器を要する超重症児の在宅ケア移行における課題について検討した。
【結果】
発症および急性増悪時の年齢は0.4歳から7.6歳(平均3.0歳),呼吸器導入時の年齢は0.5歳から7.9歳(平均3.3歳)で,発症および急性増悪から呼吸器導入までの期間は2か月から8か月(平均4.7か月)であった。呼吸器導入から退院までの期間は1か月から1年4か月(中央値2か月)であった。
在宅ケア移行に伴う支援および連携の状況は,すべての症例において地域で担当する訪問看護ステーションおよび管轄保健所の職員と共に退院前合同カンファレンスを開催し,これらのうち当センター理学療法士が参加したのは3例であった。また,呼吸器導入以前にバギーを使用していたのは1例で,退院時に呼吸器搭載用のバギーを作製したものが4例あった。さらに,退院前にセンター職員が在宅を訪問したものは2例,地域で担当する療法士に退院前に連携したものが2例,退院後早期に連携したものが3例であった。
在宅移行後の支援状況は,概ね1~2か月毎に検査または治療のための計画入院を6例全例で実施し,そのうち4例は地域で担当する医療スタッフが計画入院にあわせて当センターに赴き,医療的ケアの情報共有と支援内容の確認および更新を共同で行った。6例中1例は家庭の事情により医療型障害児施設に一時措置入院し,他の1例は地域の重症心身障害者病床に定期的に入院した。いずれの児も,その後に肺機能の低下を指摘された。経過観察中に急性気道感染症等により計画外入院となったものが4例あり,そのうち2例は呼吸器を変更した。また,低酸素性虚血性脳症の1例は呼吸器導入から2年6か月後に衰弱のため死亡した。
理学療法支援状況は,呼吸器導入以前から関節拘縮予防や姿勢管理等の基本的理学療法および排痰援助等の呼吸理学療法を実施した。退院前には親に向けて在宅での身体ケアを指導し,うち4例は吸引操作時の呼吸介助法も指導した。また,計画入院時に陰圧式気道粘液除去装置を導入したものが3例あった。加えて,計画入院時には身体機能の評価および在宅ケアの状況確認を行い,肺機能維持に関する家族の不安軽減に努めた。
【考察】
6例中4例が脳症に伴う呼吸器導入の症例で,うち2例は呼吸器導入から退院までに1年以上を要した。これらは発症後に自発呼吸を喪失した症例であり,障害認定やバギー作製のための時間,あるいは家族による在宅ケア技術の習熟期間等,在宅復帰のための複合的準備期間が関係していた。他の脳症2例を含む4例は先天性疾患を有しており,在宅移行のための呼吸器導入であったため,退院までの期間は1から2か月程度と短かった。計画入院では,理学療法の視点から評価観察することにより,呼吸状態悪化の早期発見と養育者の安心を担保する役割を果たした。他方,障害児病床等に入院した2例は,入院中の排痰ケアが在宅時に比べて不十分となりやすく,これらの施設の排痰ケア向上の必要性が示唆された。一方で,在宅移行後に地域の療法士とともに在宅ケアの技術共有を行った実績から,小児の在宅リハビリテーションを手掛ける関連施設の後方支援病院として期待された。小児在宅医療における理学療法資源のさらなる拡充が求められる。
【理学療法学研究としての意義】
超重症児の在宅医療および理学療法支援のあり方を検討する実践研究として意義がある。