第50回日本理学療法学術大会

講演情報

口述

口述84

人工膝関節2

2015年6月6日(土) 18:40 〜 19:40 第11会場 (ガラス棟 G610)

座長:森田伸(香川大学医学部附属病院 リハビリテーション部)

[O-0619] 多施設共同研究による人工膝関節置換術適用患者の入院期間に影響を与える因子の検討(第1報)

天野徹哉1,2, 玉利光太郎3, 森川真也4, 新谷大輔5, 河村顕治2 (1.常葉大学, 2.吉備国際大学大学院保健科学研究科, 3.ペルー共和国国立障害者リハビリテーションセンター(JICAボランティア参加), 4.放射線第一病院, 5.済生会みすみ病院)

キーワード:変形性膝関節症, バリアンス, 検査特性

【はじめに】
人工膝関節置換術後のリハビリテーションでは入院期間の短縮により,対象者の身体機能や運動機能の改善を目的とした効果的な理学療法介入が求められているため,クリティカルパス(パス)の導入が積極的に行われている。しかしながら,バリアンスが発生する症例も一定数認められているため,入院期間に影響を与える因子を明らかにし,術後早期の理学療法介入の根拠を明確に示す必要がある。本研究では,人工膝関節置換術適用患者の入院期間に影響を与える因子を検討するとともに,バリアンス発生を判別する因子の検査特性を明らかにすることを目的とした。
【方法】
2013年7月~2014年10月までに,協力が得られた全国6施設において,人工膝関節置換術の適用になった患者174名を対象とした。そのうち,回復期病棟などへの転棟・転院をした者,術後14日目の時点で杖歩行が困難な者を除いた104名(男性18名,女性86名,年齢75.8±7.1歳)を本研究の分析対象とした。研究デザインは前向きコホート研究でベースライン調査(術前)として,基本属性である性別・年齢・BMI,医学的属性である各施設のパスの差異(パス差異)・術式・障害側・反対側の手術歴の有無・改訂版SR-FAI・JKOM,身体機能である術側・非術側筋力(膝伸展筋力・膝屈曲筋力)・術側・非術側関節可動域(股伸展・膝伸展・膝屈曲)・疼痛,運動機能である5m最大歩行速度・Timed Up & Go test(TUG)の調査・測定を行った。追跡調査として,術後14日目に身体機能と運動機能の測定を行った。なお,パス差異については,術後入院日数が21日以内の施設を「1」,それ以外の施設を「0」とした。入院期間に影響を与える因子を検討するために,術後入院日数をアウトカムとした重回帰分析を行った。重回帰分析では,術前と術後14日目の身体機能・運動機能の変化量を説明変数とし,事前に単変量解析にてスクリーニングを行い,p<0.25であった説明変数をステップワイズ法にて投入した。さらに,基本属性と医学的属性を交絡因子として強制投入した。バリアンス発生を判別する因子の検査特性を明らかにするために,術後入院日数がパスより延長した者をバリアンス発生群「1」,パスの日数内であった者をバリアンス非発生群「0」として2群に分け,重回帰分析によって抽出された説明変数とのROC曲線分析を行った。なお,バリアンス発生の有無については各施設のパスの術後入院日数に従い,対象者毎に判別した。統計ソフトはSPSS Statistics 22を使用し,有意水準は両側5%とした。

【結果】
単変量解析によって抽出された説明変数は,歩行速度変化量・TUG変化量・非術側膝伸展筋力変化量・非術側膝屈曲筋力変化量であった。重回帰分析の結果(p=0.024,R=0.25),術後入院日数に影響を与える因子はTUG変化量(p=0.024,β=-0.25)であった。さらに,交絡因子投入後の重回帰分析の結果(p=0.001,R=0.60)においても,TUG変化量(p=0.006,β=-0.29)が抽出され,交絡因子ではパス差異(p<0.001,β=-0.75)と術式(p=0.047,β=0.39)が抽出された。なお,TUG変化量の平均は-3.6±4.9秒(n=82)であり,術後14日目のTUGは術前機能を上回っていなかった。ROC曲線分析の結果(p=0.036,AUC=0.64),TUG変化量のカットオフ値は-4.7秒であり,感度41.8%,特異度85.2%,陽性尤度比2.82であった。検査前確率を82名中55名がバリアンス発生群であったことを踏まえて67.1%とすると,検査後確率は85.2%であった。
【考察】
本研究の結果より,TUG変化量は交絡因子の要因からも独立して術後入院日数に影響を与えることが示唆された。また,術後入院日数が延長する症例は,術前から術後14日目までのTUGの改善が有意に低く,術後14日目のTUGが術前より4.7秒以上低下する症例は85.2%の確率でバリアンスが発生することが示唆された。本研究の限界として,TUG変化量のカットオフ値は,検査前確率が中程度のときには有用であるが,検査前確率が高い,あるいは低いときにはバリアンス発生の確率は大きく変わらないことが挙げられる。今後の課題として,一定の判別能力を持つ互いに独立した検査を複数組み合わせて臨床予測式(CPR)を抽出することにより,尤度比や検査後確率を高める指標について検討する必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,人工膝関節置換術適用患者の入院期間の短縮とバリアンス発生を検討するうえでの一助になると考える。さらに,所在地が異なる施設から集積したデータであるため,人工膝関節置換術適用患者の属性を反映しているものと考える。